少女救出までの道のり
上から、魔法を使う人がいないはずの世界で、不穏な魔力の動きがあったためそこを調査してこいという命令を受け、特殊部隊のガク達は魔法が無いとされる地球へ転移した。
初めはなんの異変もなく、ゆっくりと道を歩きながら調査していた。しかし、ロロにおぶられていたアミが突然前方を指差し、「あの子!!助けなきゃ!」と、ロロの髪を引っ張りながら騒ぎ出したので、一同は異常事態を察知し、リーダーであるショウは何もない空間へ剣を突き刺した。
すると、一瞬、風景が歪んだように見え、場所は変わっていないが、さっきまでいなかったはずの人が現れた。
「時空の…裂け目…?!」
ショウが驚いたように呟く。何者かが身を隠すために作ったのだろう。時空の裂け目というのは、その場に新たな空間が重なってできている異界のような所だ。常人にはその時空の裂け目を見つけることができないが、アミには何か特別なものが見えたようだ。
「おいおまえ…なにをしている。」
怒りを含んだガクの声に、この時空の裂け目を作ったものであろう若い銀髪の女性は振り返った。
彼女の手にはピンク色に輝く光の塊が入った瓶のようなものが握られている。そして、後ろには束縛魔法で縛られている少女が気を失っているようだった。
数秒もかからず、特殊部隊一同は銀髪の女性を敵と認識し、それぞれが武器に手をかける。
「何をしようがおまえ達には関係がない。ただ私は、こいつの魔力を採取しているだけだ。邪魔するなら殺す。」
女性は冷ややかな目で一同を見下し、そう言い放った。
「あぁ?もう一度言ってみろ。俺がおまえをやるぞ?」
彼女が言い終わるのとほぼ同時くらいに、ガクの剣は彼女の喉元に突きつけられていた。機動力の高さがガクの取り柄だ。しかし、彼には彼女を無意味に殺すことはできない。そういう決まりだからだ。
「ふっ、お前にはまだ私を殺すことはできない。…が、しかしお前達はかのリュミエール国の翼と言われている部隊。流石の私も1人では骨が折れよう。」
このまま行けば、特殊部隊対この女性の7対1の勝負になってしまうだろう。女性の首にはガクの剣が、ガクの後ろではショウ、ロロ、レン、ミナが戦闘態勢で待機している。女性にとっては圧倒的不利な状態だ。
「大人しく僕たちの指示に従ってください。殺しはしませんので。」
ショウが落ち着いた声で、女性の目をしっかりと見据えながら語りかける。
「…残念ながらそれは無理だ。」
この圧倒的不利な状況で、彼女は冷静な声で言った。特殊部隊一同は眉をひそめる。
「では、殺されても文句は言えないですよ?」
ショウの声が鋭くなり、ロロは狼の姿に変化し、威嚇し始める。しかし、彼女は顔色ひとつ変える様子はなかった。
「問題ない。」
その一言を放った束の間、彼女の姿は見えなくなった。代わりに大きな黒い靄が現れた。驚いた一同は瞬時に回避の姿勢に入った。どこからか女性のこえが響いたが、その姿はどこにも見当たらなかった。
「これを持ち帰るのが今回の私の任務。貴様らを殺せとは言われていない。ここを見つけたお前達にささやかなプレゼントだ。せいぜい楽しむがいい。」
黒い靄がだんだん晴れて行き、そこから巨大な獣が現れた。
「逃してしまったようだね…。」
悔しそうに顔をしかめながらも、ショウは武器を構える。
「ガルルルッッ!!」
巨大な獣は唸り声をあげながらガクに襲いかかる。
「クッソ!あのやろうこんなもの置いてきやがって!!舐めんじゃねぇぞ!」
襲いかかってくる獣の口に、ガクは剣を突き刺す。
獣の牙と、ガクの剣がぶつかりあい耳をつんざくような金属音が響き渡る。
反動で獣は後ろへ飛ばされる。
「おもしれぇ、歯で受けるなんてすげえなお前。」
「大丈夫?ガク。」
対して心配してなさそうな声でミナが問いかけ、答えも聞かずに武器を魔力で強化し、またもや襲いかかろうとしている獣に向かって走り出した。
「そいつの力は半端ねえが、能がなければ問題ない。」
剣を握り直してガクも走り出す。
獣の攻撃を軽々とかわし、その腹にミナが一撃。
うめき声をあげた獣の喉元にガクが一撃。
その後ろからショウが中級の風魔法で一撃。
どでかい尾にはロロが牙を食い込ませ、隙をついてレンが束縛魔法の鎖で獣の動きを封じる。
「みんな怪我してない?」
少し離れたところでアミと、倒れている少女のそばにいるミカが心配そうに問いかける。
ミカは回復魔法が得意なため、だいたいいつも離れたところで待機しているのだ。
「大丈夫!かすり傷1つついてないよ。」
ショウは安心させるように手をふり、全員の無傷を伝えた。
「みんな楽しそうだねぇ~♪」
全然楽しそうには見えないが、アミだけはご機嫌な様子でニコニコとそういった。
「グォォォォォオオオオッッッ!!!」
たくさん傷つけられた獣は、腹の底まで響いてきそうな怒号で怒りをあらわにした。
目には先程とは違った光が宿り、何かが変わったことがわかり、鎖を引っ張っているレンの手に力が入る。
「これからなんだよなぁ。ま、ただの獣じゃ対したことないか。」
お手並み拝見といこう!といいながら、ガクが正面から斬りつけに行った。
獣の皮に刃があたる…と言うところで獣の口から突然、炎が発射された。
空中にいたガクは瞬時に炎の威力を把握して、同じ威力の水魔法でそれを打ち消した。
水が蒸発する音とともに、あたりは白い大量の蒸気に包まれた。
ガクが地面に着地することも待たずに、獣は体を炎のベールで包み、纏わり付いている鎖を引きちぎり襲いかかる。
引っ張っていた鎖がちぎれてしまい、反動でレンの体がよろめく。
しかし、獣の牙はガクに届くことは無かった。
「そんな突っ込んだら危ないって。わかってるのになんで行くかなぁ。」
さっきの量とは程遠いものすごい量の蒸気が、ガクの目の前、獣がいる所を中心に、肉の焦げるような匂いとともに広がっている。
ガクが獣の注意を引いているうちに、後方でショウが水の初級魔法を応用した、詠唱時間のかかる威力の強いものを展開していたらしい。
「はっ、1人だったらこんな事しねぇよ。」
黒焦げになった獣を眺めながら、ロロは顔をしかめて人型にもどった。
「焦げ臭いの嫌いだよー…早くなんとかして!」
「匂いを消す魔法なんて、この中に使える人がいないってしってるでしょ」
横からミナもロロと同じような顔で言った。
「ごめん…こんなに力があるなんて知らなくて…油断した。」
「問題ない。」
「気にしなくていいよ。」
鎖がちぎれてしまったことを、申し訳無さそうに謝るレンに慰めの言葉をかける。
ミカとアミがこちらの様子を知りたそうにみているのをみて、ショウはミナに2人の所に行ってあげてと頼み、ミナは2人の元へはしった。
「自分の体を主体に燃やしていたのか。」
動かなくなった獣の皮を指で触り、黒いすみがついたのを見てガクが呟いた。
「なんでそんな事したんだろう。痛いのに。」
「どの道死ぬことがわかっていたからそうしたのか…あるいは、もともとそういう風に仕込まれていたのか…」
全くあいつらの考えることはわからんな、とガクは考えることを放棄し、獣の死体を処理する支度に入った。
結界を張っていたため(戦いが始まった瞬間に、ミカがアミの力を借りて張っていた)、中で壊れてしまったものは結界が解けると元に戻るが、それは生物にも反映されるため、結界の中で死んだ者も、元に戻ってしまう。だから倒した者を処理するのはとても重要な仕事だ。
結界の中で倒した敵は、転移用魔法陣でアナファティーという、危険生物や人物を一時的に捕獲しておく所に転移させ、生き返った敵はそこで待機している討伐隊に容赦なくやられてしまうという仕組みだ。
「僕はあの子の保護者に話を聞いてくるよ。後は君にお願いしてもいいかな。」
そう言いながら、ショウは転移用魔法陣のカードをガクに手渡す。
「あぁ、そうだな。あいつの保護者か…当てはあるのか?」
「うん。君ももう気づいてるだろうけどね。」
じゃ、頼んだよと、ショウは立ち去っていった。1人では危ないからと言うことでミナもそれについて行く。
2人が去るのを見送った後、ガクは獣の下に魔法陣を展開した。地面に光り輝く魔法陣が現れる。
レンが上にアナファティーに獣を送還すると報告して、獣を送り出す準備が整った。
「転移。」
ガクの一言で魔法陣はまばゆい光を放ち、獣を包み込んで跡形もなく消えていった。
「この子は家に連れて行こうか。」
「アミたちの新しい仲間にするの!」
少女をおぶって、ミカとアミは3人のところに歩いてきた。
「はぁ??何でだよ!仲間にしたっていいことねぇだろ!」
「わーい!仲間が増えるんだね☆あははっ嬉しいなっ!」
アミの言葉に顔をしかめるガクとは対照的に、ロロはとても嬉しそうにはしゃぎ出す。レンは少し驚いたような顔をしていたが、特に異論はない様子だった。
「どのみち、当分は私達が付いていてあげないと。どうなるかわからないからね。」
ガクをなだめるようにミカが言い、特殊部隊一同の家につながる転移用魔法陣のカードを使い、魔法陣を展開した。
「さ、行こう。」
「はぁ…めんどくせぇなぁ。」
「また賑やかになるね。」
「おうちに帰るよ~」
「しゅっぱーつ!」
それぞれの気持ちを口にしながら、少年少女たちの姿は光り輝く魔法陣とともに消えていった。
とっても更新が遅くなりましたすみません(〃_ _)) ペコッ...
初の戦闘シーンです。わかりにくいところとかあるかもしれませんが、何かあればお伝え下さい!
アドバイスなどもあれば是非(>_<)