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歌うたい  作者: はやぶさ
2/16

1.

日記その1


私は昨日の日記に歌うたいになりたいと書いた。私ももう四月から高2だ。進路を決めなくちゃいけない。真理子は大学に行くと言ってたけど私はどうしようかと思う。


私の夢は歌うたいになることだ。単なる歌手じゃなく歌うたいに私はなりたいと思う。

もちろん親にもそんなことは言ってない。親の前では歌手になりたいと言っている。親はやりたいようにやりなさいと言うけど、でも進学だけはしてねと言ってきた。


私は進学よりも歌を歌っていたいと思う。子供のころから歌っているのが好きでアイドルの歌を口ずさんだり、某TV局ののど自慢大会に出場してステージで歌ったこともある。あの時すごく緊張したけど歌っていた時とても気持ち良かった。爽快だった。皆が私の歌を聴いてくれる。そう思っただけで身体が熱くなった。結果は奨励賞だったし、私には才能があるんじゃないかと思ったのも事実だ。 それから私は親にせがんでボイストレーニングの教室に通ったりもした。先生は筋がいいと言ってくれた。ひょっとして可能性があるかもしれないと思った。


その頃だった。私がTVから流れてくるヨーデルを聴いたのは。

スイスの辺りでヨーデルの大会が開かれたらしく、それを収録したTV番組だった。向こうの民族衣装を着た少女が一度歌い出すと情景が浮かんだ。


真っ白なアルプスの山々に澄み渡る空、草原を吹き渡る風。少女の美しい歌声が大きな自然を創り出していた。それを聴いた私は目から涙が溢れた。ああ、私はこういう歌を歌いたいのだとその時感じた。

 

だからといってヨーデルをならいたいわけじゃないけれど、私が歌いたいのは大きな自然達。そこらへんのアイドルの歌じゃない。もっと自然なものだ。だから私は歌手というより、歌うたいという言葉の方が自分には合ってると思っている。これから私は自分一人の時だけは歌うたいになりたいということにする。今日はここまで!


-----------


まだ日記の2、3ページしか読んでいなかったが、みゆきはこの子は随分と活発な子なのだと思った。のど自慢大会のステージで歌ったことがあるなんてすごいと感じたが、よく考えたらこれは自分のことなのだ。本当にそんな大会に出たのだろうか。実は空想だったりするのではないだろうか。


みゆきはいったん日記を閉じると、部屋の中にある本棚を眺めた。確かここらへんにあったはず。この間部屋の中を探した時『宝物』と書かれてあったアルバムがあったのだ。しかしその時は気にも留めなかった。が、今はそのアルバムの中が気になった。きっとステージで歌った時の写真も貼ってあるに違いない。

 

彼女は期待を胸にそのアルバムを手に取った。中を開くと自分が小さかった頃の写真が出てきた。白い毛糸の帽子と手編みのセーターを着て真っ赤なスカートをはいている女の子が得意げにおもちゃのマイクを握りしめている。その顔には、はじけんばかりの笑顔が広がっていた。どのページを見ても笑顔だったが、どんどん成長していく女の子の背丈は伸び、少しずつ大人びていった。そうしてアルバムの半分ぐらいのページに、例の写真があった。


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