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歌うたい  作者: はやぶさ
11/16

10.

日記その9

真理子から絶交を言い渡されてから、数日が過ぎた。泣くだけ泣いて目が腫れてしまったけど、そんなことはどうでもよかった。一番の親友をなくしてしまったことに比べれば。私の中には悲しみと苛立ちが同居していた。だから私は風間君に会うことにした。彼にはものすごく私は腹を立てていたからだ。どうしても言わなくちゃいけないそう思って彼を公園に呼び出した。


彼は私の顔を見て驚いた。

「いったいどうしたんだい。目がずいぶんと腫れているけど」

風間君は心配そうに訊いてきた。

「真理子に話したでしょ。私のこと好きだって!」

私がすぐさま尋ねると彼は力強く頷いた。

「うん、そうだ」

「なぜ彼女にそのことを言ったの」

「彼女に訊かれたから……」

「訊かれても黙ってればいいじゃない。彼女は病気で入院してるんだし、ショックなこと言われたらどうなるか分からないじゃない」

私は彼を腹立ただしげに睨みつけた。そしたら、彼は下を向いて深いため息をついた。


「そう言うわけにはいかないよ」

彼は重々しい口調でそう言うと顔を上げた。彼の目と私の目がばちりと合うと、私はどぎまきしてしまって、頭が真っ白になってしまった。何か言おうと思ったけれど、言葉にできなくて今度は私が下を向いてしまった。

「嘘をついたところで、いずればれるよ」

彼は淡々と言ってのけた。

「それはそうかもしれないけど」

私は黙ってうつむいた。

「僕のせいで彼女と仲たがいしたの」

「仲たがいどころか、絶交されたわ……」

ぽつんと私が言うと、彼はこう言った。

「本当に絶交されたとしたら、彼女はそういう人だったってことだよ」

彼は落ち着きなく、指をいじりながらそう言った。


「それってどういう意味」

私は、むっとして彼ににじり寄った。

「友達に好きな人ができても素直に喜んでくれない人ってことだよ」

「そんなことない! 真理子はそんな子じゃないよ。それを言うなら私の方だよ」

むきになって私は、彼に言い張った。

「真理子が私に風間君のこと好きだって言った時、私頭の中が真っ白になって、つっけんどんな態度をとっちゃったの。私の方こそ、素直に喜んであげられなかったんだよ。好きな人ができたんだね。力になるよって言ってあげられなかった。だから私……」

私は途中で泣きそうになった。言葉を続けるのが一苦労で、喉元に何かがこみあげてくるのを必死に抑えていたら

「ごめん。君達に辛い思いをさせてしまったかもしれない」

彼はそう言って、私の手をとった。


「でも僕はどうすることもできないんだ。だって君のことが好きだからだ。何より君の歌が好きだ。歌っている君はなによりも自由で自然で、本当に素敵なんだ。歌っている君をずっと見ていたいんだ」

私の歌が好きだという言葉に、私は顔が熱くなった。それからぼっとしてしまった。真理子のことを考えると、いけないとは思ったけれど、私も言いたかった。本当はとっても好きだということを。彼の絵に惹かれ、彼の優しさが一番の支えだということを。その時真理子の姿が一瞬、遠ざかっていくような気がした。


「僕は思うよ。君に他人事だと言われるかもしれないけど、真の友達なら、友達の幸せを祈ってくれると思うよ。彼女だって悪い子じゃないよ。僕も友人としては好きだよ。でも本当は君のことが好きなのに、他の人が好きだなんて、嘘はつけない。彼女はちょっと気の強い子だから、素直になるのに時間がかかるだけだよ。君らはまだ友達だと僕は思うよ」

「ほんとに、ほんとにそう思う」

「ああ、ほんとにそう思うよ」

彼にそう言われ、私は少しだけ安心した。彼の言うようにそうであって欲しいと思いながらも、真理子にもう一度会いに行くのはしばらくしてからの方がいいにちがいない。彼女の心も私の心もぐちゃぐちゃなのは確かなのだから、その方がいいに決まっているのだ。今日はここまで!

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日記の中の風間の言葉に、みゆきの心は勇気づけられた。


『君らはまだ友達だと僕は思うよ』


 みゆきは目をつぶり、考えた。風間の言う通りだとそう信じたい。そうでないと、私は香川真理子に会うことはできないだろう。本当に恋のせいで、友情をなくしてしまったというのなら、それはしかたのないことなのだろうか。どちらも大事なことだ。友情も恋も選べと言って、選べるものではない。大事なのは、勇気とまっすぐな心。きっとその先に真実があるに違いない。


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