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閑話 アンクの冒険譚ー1

少しだけ十六夜の復讐譚はお休みです、今回から十六夜に助けられた少年の冒険譚を挟んでいけたらいいなと思うので、是非お付き合い下さい。


十六夜さん達と別れてからかれこれ四日が経つ。


僕達は今道中で洗脳(テイム)した魔物に乗り森を移動していた。

洗脳したのはワー・ウルフという大型の狼だ、気性が荒く扱いにくいけど、動きが早く移動手段としては抜群だ。


だがいくら魔物に乗っているからと言って大勢での遠征は凄く危険だ、十六夜さんに助けて貰った命を粗末にする訳にはいかない。

なにがあろうと僕は兄弟達を守り抜く。


今は僕を最年長とした九人のグループになっている。


僕より下は八〜六才までと年端もいかない子供達ばかりだ。


戦闘ができるのは僕だけだが、他のみんなは生活を支えてくれている。


少し歪なあり方だけど、僕はこの空間が凄く居心地いい。


しかし問題はある、一つは家を確保する事、二つ目は衣服等の生活用品の補充、三つ目は食料の安定供給だ。


十六夜さんも言っていた、とりあえずは衣食住を充実させろと。


資金は十六夜さんに頂いた金貨がいっぱいあるから問題は無いけど、重要なのは何処に住むか…だね。


あまり素性を詮索はされたくないから、そういうのが無いところが良いけど…スラムは論外だ、この子達が危険に晒されるのは許容できない。


さてさて、困ったなぁ。


僕が思案に耽っていると、後ろから声をかけられる。


「ねぇねぇ、アンクお兄ちゃん!私達何処に向かってるの?」


「あぁ、ミミ、今それを考えていた所だよ」


ミミという名前の少女は七歳、種族は兎人族、白いふさふさの髪と尻尾が愛らしい僕達のアイドル的な存在だ。


僕達は人間だけのグループではない、ミミの他にも色々な種族がいる。

エルフのニーニャ、ドワーフのジン、半魔のサリー、犬人族のリト、猫人族のケリー、そして人種のエマ、マヤ、そして僕だ。


傍から見れば有り得ない組み合わせだろうが、他人の意見などどうでもいい。

僕達は家族なのだから。


「とりあえず家を買おうと思うんだけど、皆は何処に住みたい?いや、住んでみたい?」


十六夜さんからの仕事もあるからそこに定住はできないけど、拠点は多い方が都合がいい。


その問いに真っ先に答えたのは半魔のサリーだった。


「私は<魔道大国 マーレイン>に住んでみたい」


「まどーたいこく?」


ミミは魔道大国という言葉を聞いて頭にいくつも?を浮かべている。


「どうしてかな?理由を教えて?」


「私は魔法を学びたい、そしてアンク兄さんと一緒に戦えるようになりたい、その力で皆を守れるように。それに私には大きな目標がある、十六夜兄さんの役に立つ人材になるっていう」


そう語る目はとても真剣で、とてもじゃないが無碍にはできなかった。いや、できる筈が無かった、なんせサリーの後半の目標は僕の目標と全く一緒だったのだから。


「「「「「僕も!俺も!私も!」」」」」


だがそれは僕とサリーだけではなかった様だ、兄弟全員が(あに)の圧倒的力に憧れ、その底知れぬ優しさに報いようとしていた。


それは命を救ってもらったから?否、そんなのは後付けの理由に過ぎない。

僕達は惹かれたんだ、十六夜さんが持つカリスマの様なものに。


「あははは、みんなそうだったんだね、それじゃ行こうか<魔道大国 マーレイン>へ!」


「「「「おぉ!!!」」」」


僕達は大きすぎる目標へと向けて走り出した。





だがこの決断が後に、九神将と呼ばれ十六夜の右腕の最強部隊になるのはまだまだ先のお話。







★★★


<魔道大国 マーレイン>より北東400km地点


迷宮(ダンジョン)<死熱の断層> 危険度 ???+


その迷宮は全百層からなる超高難易度迷宮である。


過去の最大到達階層は二十八階層、そこにたどり着くまでにSランク冒険者三十八名、Aランク冒険者三百と数名、Bランク冒険者八百二十六名、という膨大な死者を出しながら到達した。


それ以降というものこの迷宮に潜るのはただの馬鹿と命知らずの下級冒険者しかいない。

そして案の定帰っては来なかった。


だがそんな凶悪な迷宮を自らの庭を歩くかの様に優雅に進んでいく二人の男女がいた。

男は全身を覆い隠す漆黒のフルプレートに、巨大な剣を一本背中に携えている。

女は漆黒の外套を見に纏い、短い杖を一本持っているだけだった。


だが彼らを襲おうとした魔物は瞬きをする間もなく粉微塵に粉砕されるか肉団子と化していた。

それはゴブリンやオーガという低級〜中級の魔物から、さらには上級と位置されるドラゴンやエルダーリッチまでもが関係なくただ平等に抹殺されていた。


彼らが歩いた後には魔物の屍が横たわるだけだった。





そして彼らは目的の場所までたどり着く。


そこは<死熱の断層>五十階層


あれほどの犠牲を出しても二十八階層までしか到達できなかったというのに彼らは二人だけでこの迷宮の折り返しである五十階層へと到達していた。


二人は目の前に鎮座する大きな石扉を見ながら会話を始める。


「ようやく折り返しか、ここの階層主を殺れば、次からは深層だ、準備はいいな?」


「えぇ、もちろんよ、まだまだ余裕だわ」


「そうか、なら行こうか、我々の目的の為に」


「そうね、我々の目的の為に」


そう言い残し二人は重い石扉を開け中へと消えていった。










★★★



僕達は一週間をかけて<魔道大国 マーレイン>へと辿り着いた。足として使っていたワー・ウルフは外壁近くの森にあった穴蔵に待機させている。

感覚は繋がっているから離れていても命令はすぐに出せる。


「さて、着いたのはいいけど凄い列だなぁ」


そうここ<魔道大国 マーレイン>は毎年の如く凄まじい量の魔法使い・魔道士見習いが門を叩くため、いつであろうと入国の列が途切れることは無い。

それにここは亜人を差別する風習はない、優秀な人材は種族関係なく囲っておきたいんだろう。


「まぁ気長に待つしかないよね、はぁ…」


僕はため息をつきながら、入国した後の事を考えていた。

とりあえず家を見ていい所があれば直ぐにでも購入して、と。後は服等の生活用品と食料の調達かな、まぁそれはすぐ終わると思うけど家がなぁ…


「ちょっと!アンクお兄ちゃん!前空いたからつめて!」


「おっとっと、ごめんよミミ」


ミミに促されるまま、前に詰めようとするとある男達が割り込んできた、見た目はただのチンピラだが筋肉が凄い、どう見ても破戒僧(モンク)だがそんな奴らが<魔道大国>になんの用なのだろう。


「おい糞ガキ、怪我したくなきゃ早く糞ガキ連れて故郷に帰りな!ここはお前らみたいなガキが来る場所じゃねぇーんだよ、ペッ」


「まったくこれだから夢見るガキは嫌いなんだ」


「違いねぇだから<魔道大国>が舐められるんだよなぁ」


言いたいことを一方的に言ったクズ共は、僕達に興味を無くしたのか前に向き直り仲間と会話を続けている。どうやら場所を退くつもりはないらしい。


「クズが……」


サリーが呟いたその言葉を男の一人が聞いていた、その男はサリーを殴った力一杯に。

サリーの小さな体は力に耐え切れず飛ばされる。


「おいおい、誰がクズだって?」


「おい!サリー!大丈夫か?」


「「「「サリーお姉ちゃん!サリー!姉さん!」」」


「兄さん……みんなも…私は大丈夫…」


死にたいのだろうか?……いや入国前に事件を起こすのは得策ではないな。


僕は十六夜さんにもらった短剣『千変万化』の力を使う事にした。


「丁度いい実験台になれよクズ共が、散れ『千変万化』」


「クズ共!?実験台?てめぇ何言ってやがる」


僕は『千変万化』を極小サイズまで分解そして分裂させた、その数はおよそ百五十、今の僕に制御できる最大数だ。


僕は少しの魔力を込め刀身を移動させる、そしてその刃は目の前の男達三人の頸動脈に食いこんだ。

一人五十本ずつだ有難く食ってろ。


だが今すぐに殺したりはしない、刃は体に入り込み僕の命令一つでいつでも殺せるのだから。


しばらくすると騒ぎを聞きつけた衛兵がやってきた。


「これはどうゆう事だ!誰か説明しろ!」


「いやぁすまねぇな、嬢ちゃん、俺が当たっちまって、なぁ?坊主?」


クズのうちの一人は悪びれる様子も無く言い訳を捻り出していた、まぁ筋肉ダルマの知能ではそれくらいしか出来ないだろうけど。


「あぁ、そうだ、それだけだ、他には何も無い」


僕はこれ以上事を荒らげるつもりはないので、適当に流す。


「ふむ……そうかならばいい、あまり騒ぎを起こすなよ」


そうして衛兵は去っていった。


「チッ、余計な面倒かけやがって、次あったらぶっ殺してやるからなガキが」


あぁ、そうかよ、まぁ次はないけどな。







★★★



ひと騒動あったが、九人分の入国料金貨一枚を払い無事に入国した僕達は早速家を探しに行った。

だが、どこの管理人も子供の冷やかしだと、取り合ってはくれなかった。


「さて、どうしたもんかな」


僕達が途方に暮れているとある男が声を掛けてきた。


「少年、少し話をしないかい?」



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