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次の標的に向けて


自らを"始祖種"と名乗った男を取り逃がした後、俺はアーシャとルーシーが起きない様にこっそりと部屋に戻った。


白雪と黒王は姿を消して辺りを警戒している、この2人ほど頼りになる警備システムはないだろう。


「ふぁ〜、流石に眠い…俺も寝るか」


ソファに腰掛けた途端急に睡魔が襲ってきたので、俺は睡魔に身を任せ眠りについた。


「どうやら、思ったよりも疲れていたみたいだね」


実は既に起きていたルーシーは体を起こし、先刻眠りついた十六夜に毛布をかける。

その手つきは優しく、睡眠の妨げにならない様に配慮されていた。


「ルーシーさん…私はどうすればいいのでしょうか?」


十六夜の寝顔を眺めていたルーシーに、背後から声がかかる。

鈴の音の様な声の主は十六夜に命を救われたエルフ、アーシャのものだ。


「はぁ…まだ言ってたのかい?君はどうしたいんだい?自分の道は自分で決めなければいけないよ」


諭す様なルーシーの声は慈愛に満ち溢れ、聖母を彷彿とさせる様な優しげな表情でアーシャを見つめていた。


「………」


「十六夜君は君に生きていて欲しかったから、助けたんじゃないかな?実はね十六夜君も家族を失ったんだ、凄く大事にしていた妹を…

そして十六夜君は君に自分を重ねていたんだろうね、どうしても見捨てられなかった、数回顔を合わせただけの受付嬢の君を」


「…そうなんですか…」


「本当は他人の僕がこんな事を言う資格は無い。でもね?知っていて欲しかった十六夜君がどんな気持ちで君を助けたか」


他人の不幸話をペラペラと言いふらすのは決して褒められる事ではない、だがルーシーはアーシャに話した、十六夜の悲しみを。


同じ悲しみを持つ少女アーシャに。


「私、イザヨイさんから家族の伝言を聞いた時泣いてしまったんです、それはもう恥ずかしいくらいに…その時イザヨイさんは何も言わずに宥めてくれました…赤の他人である筈の私を…

不思議でした、何故私の家族の話をしているのにイザヨイさんが悲しげな表情をしていたのか…

そういった理由があったのですね、イザヨイさんも大事な家族を…」


「そう、十六夜君は自分で思っているより、優しい子なんだよ、だから同じ境遇の君を見捨てられなかった。

さて、改めて聞こう、君はどうしたいんだい?」


ルーシーは真剣な眼差しでアーシャを見つめる。先程の聖母の様な表情はなりを潜め、ふざけた回答は許さないという確固たる意志が伝わってくる。


「私の命はイザヨイさんのモノです、私はイザヨイさんについて行きます、それがどれだけ血塗られ、過酷な道であろうと。

絶望のどん底にいた私を救い出してくれたのは、イザヨイさんですから…それに家族からの言葉もあります、それは私にとっての生きる希望ですから」


アーシャは花も恥じらう様な満面の笑みで、ルーシーにそう返した。

それを見たルーシーも満足そうに笑い、2人は共に十六夜の寝顔を見つめるのだった。












★★★


久しぶりに夢を見た、それはもう会えない有栖と始めて出会った遠い日の思い出。


俺が中学2年の時、両親は事故で死んだ。


突然の事で頭の中のがごちゃごちゃになったのをまだ覚えている。


俺は毎晩泣き叫んだ、どうして俺を置いて居なくなったのだ、と。


人はいつか死ぬ、そう頭の中で分かっていても割り切れるモノじゃ無かった。


突然血管が詰まり死ぬかもしれない、車に轢かれて死ぬかもしれない、通り魔に刺されて死ぬかもしれない、足を踏み外し高所から落ち死ぬかもしれない。


世界は"死"で溢れている、俺がいた日本は1秒に何人も死者が出ていると言われている程の自殺大国だった。


俺は両親を失ったショックから立ち直れず、ビルの屋上から飛び降り自殺を図った事がある。

情けないと思う人の方が多いかもしれない、正直自分でも情けない思う。


地面に向かって落ちていく数秒の間、俺は家族で過ごした思い出を走馬灯の様に繰り返していた。


家族3人でドライブに行ったり、レストランに外食に行ったり、公園に遊びに行ったり、と様々な遠い記憶がどんどん蘇ってきた。


俺は地面に落ちる寸前まで涙を流し続け、凄まじい痛みと共に俺の意識は暗闇の中へ消えて行った。




目を開けると、知らない天井が目に入った。


どうやら死に損なったらしい。


体は動かず、全身に包帯やらギプスやらが取り付けられ口には呼吸器が付けられていた。


感じられる感覚は聴覚と視覚しか無かった、まぁそれも当然かもしれない、あれだけの高さの所から落ちたのだ、神経のいくつかやられていても不思議では無い。


痛みは感じない麻酔が効いているのだろうか、それとも痛覚が全ていかれてしまったのだろうか、医者ではない俺にそんな事が分かるはずもなく、ただ天井を見つめていた。


見舞いに来てくれる人もいない、俺には家族がいないのだから。


親戚はいるが、みんな遠方に住んでいて来れない、俺はただ孤独に苛まれながら病院のベッドに横たわっていた。






だがそんな生活に嫌気がさし、また死のうかなと考えてた時、担当の看護師さんに驚くことを言われる。


「十六夜君、面会希望者が来ているわ、通してもいいかしら?」


面会希望者?誰だ?俺の為に誰が来るんだ?とその様な事ばかり俺の頭に浮かんでは消えて行った。


そして俺は無意識のうちに、こう口にしていた。


「い、い、よ」


知りたかったのかもしれない、誰なのか、誰が来てくれたのか。


そして、俺の病室に入って来たのは1人の女の子と1人の男性だった。

見たこともない顔だ、父さんか母さんの知り合いだろうか?


「こんにちは、十六夜君、初めまして僕は、中井なかい 悠人ゆうとと言います」


不思議そうに首を傾げる俺に男は自己紹介をした、やはり聞いた事のない名前だ。


だが声だけ聞き覚えがあった、よく父さんと母さんが電話で話していた人の声によく似ている。


「ほら、有栖も自己紹介して」


中井さんは一緒に病室に入ってきた有栖と呼ばれる女の子に自己紹介する様に促すが、有栖は怖がって中井さんの後ろにずっと隠れていた。


懐かしいな…有栖は最初凄く引っ込み思案な性格だったっけ…


小さい女の子にとって今の俺の格好は確かに怖いだろう、全身包帯でぐるぐる巻きにされ、ほとんど顔が見えていないのだ。

俺も同じ立場なら絶対にそうなっているだろうな。


そして数分後初めて有栖は口を開き言葉を発した。


「初めまして…紫苑しおん 有栖ありすです…」


自己紹介した後また直ぐに中井さんの後ろに隠れる有栖はまるで、親鳥の後ろをとことことついて歩く雛鳥の様だった。


「は、じ、め、ま、し、て、か、す、み、い、ざ、よ、い、で、す、よ、ろ、し、く」


俺は怪我のせいで流暢に話す事が出来ずに片言になっていた。

筆談をしようにも手が動かせないので、この様である。


「お兄ちゃん…苦しいんでしょう?無理に話さなくて、いい、よ?」


有栖は中井さんの後ろからひょこっと顔を出してこう言ったのだ…

"苦しい"とは多分怪我の事では無かったと思う、俺の心の事を言っていたんだろう。


俺はその言葉を聞いて、泣いてしまった、止めようとしても涙が溢れ出し、止まらなかった。


「うっ、ぅうぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁ」


自分でも訳が分からなかった、だが今まで俺の心にへばり付いていた黒い何かが取り払われた気がしたのだ。


泣き叫ぶ度に体のあちこちに痛みが走ったが、構わずに泣き続けた。


そして有栖はそんな俺を見兼ねてか、俺に近寄り頭を撫でてきた、子供なりに気を遣ってくれたんだろう。


中井さんはそんな俺たちを見て、こう呟いていた。


「やはり、君たちは……

拓海たくみ夏樹なつきこの子達はやはり一緒にいるべきだよ、そう思わないかい?」


拓海と夏樹と言うのは俺の両親の名前だ、中井さんの言っている意味はよく分からなかったが、天国にいるであろう両親に向けて言った言葉だというのはなんとなくわかった。


中井さんはその後にこう続けた。


「今日から君達は家族だよ、2人で頑張って生きていきなさい。いいね?有栖、今日から君の家族は十六夜君ただ1人だ」


その時の中井さんの顔は何故か満足気に笑っており、俺と有栖を優しく見つめていた。


「分かった…宜しくね、お兄ちゃん」


こうして、この日を境に俺と有栖は兄弟になり、たった1人の家族となった。


この日から死のうと言う気持ちは消え失せ、俺には新しく妹を幸せにしてあげないと、という目標が出来た。


まぁ、それはもう叶えられない望みになってしまったが…


『お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん…』








★★★


「…っは!?…クソ…ついでに嫌な場面まで思い出しちまった…」


俺は有栖が殺される時の光景がフラッシュバックし、魘されながら目を覚ましたらしい、全身には冷や汗が流れ体を気持ち悪く舐め、服が汗を吸い重くなっていた。


「大丈夫かい?十六夜君…魘されていたけど…」


「大丈夫ですか?イザヨイさん…随分と顔色が悪いですが…」


俺が飛び起きた後ずっと下を向いていると、ルーシーとアーシャが2人揃って声をかけてきた、どうやら心配させてしまったらしい。


「済まない…夢を見ていた、起こしてしまったか?」


「いや、大丈夫だよ、僕達はもう起きてたからね」


「はい、では私は朝食を作ってきます、出来るまでゆっくりしていてください」


アーシャは気を遣ってか、俺とルーシーの側を離れた。


はぁ…相変わらず俺はダメな奴だな…


「十六夜君、今君の精神は不安定だ、加護を与えているからよく分かる、今日はこの部屋でゆっくりしているといい」


ルーシーの言うことは的を射ている…今の俺は暴走してしまう可能性が高い…

このままでは情報取集さえ、まともに出来ないだろう。


「わかった、済まないな、本当に」


「気にしなくていいよ、君は…僕が…守るから…」


「ん?今なんて?」


「お二人とも朝御飯ができました、冷めないうちにどうぞ」


「おっ?早いね、さっ行こう十六夜君」


ルーシーは俺の質問をはぐらかす様に俺の腕を掴み、キッチンまで引きずっていった。






「美味しいよ、アーシャ。これで元気も戻りそうだ、ありがとう」


「いえ、大した事じゃありませんから」


アーシャが作った料理は簡素ながらも、凄く美味しかった。

朝の胃に重いものはきついからな…よく考えられておりアーシャの人間性が凄く滲み出ていて、暖かい気持ちになった。

この様な気持ちになる、料理は有栖の作った物でしか味わえなかった…久しぶりだな本当に。


「そうそう、十六夜君、アーシャから話があるみたいだよ」


俺が感傷に浸っていると、ルーシーがそんなことを言い出した。


「イザヨイさん、少しお時間頂いて宜しいですか?」


「あぁ、構わないよ」


断る理由も無いのですぐに了承する。


「…私はイザヨイさんについて行きます、そう決めました。足を引っ張ってしまうかもしれませんが…」


「そっか…良かったよ…生きてくれる事を決めてくれて」


本当は凄く怖かった、何を言われるか気が気ではなかった、だがアーシャは生きる決意を決めてくれた。


これで俺はあの約束を守る事ができる。


「アーシャ絶対にその決意は無駄にしないから…ルーシーもアーシャも俺が絶対に守るから…俺についてきてくれるか?俺は弱い、いくら戦えても中身はただの子供なんだ、だから」


そういくら強くても、中身はただの泣き虫なガキだ、1人では絶対に達成できない…


「今更何を言っているんだい?当然じゃないか、僕は君の側にいる、いなくなったりしないさ、同じ悲しみを分かり合えるのは僕達だけなのだから」


「私も、イザヨイさんの心の支えになれる様に頑張ります。生意気な事を言いますが、私達は1人ではありません、ルーシーさんがいて、私もいます。ルーシーさんみたいに強くないし、足を引っ張るかもしれませんが、絶対に離れたりしませんから」


俺はその言葉を聞きまた見っともなく涙を流した、だがその涙は久しぶりに流す嬉し涙だった。


ルーシーに出会って救われた。


アーシャに出会って再確認した。


俺は1人じゃない…と。









「じゃ、十六夜君行ってくるよ」


「行ってきます、イザヨイさん」


「あぁ、いってらっしゃい」


俺は、ルーシーに言われた通り部屋で留守番だ。


ルーシーとアーシャには姿を変えてもらい、街の様子と勇者についての情報を集めに行ってもらった。


その間、なにもせずにじっとしているなんて事はしない、時間は有限なんだ、無駄にはできない。


「白雪、黒王、来てくれ」


俺が2人の眷属の名を呼ぶと、すぐさま現れ目の前で跪く。


「お呼びでしょうか、ご主人様」


「お呼びか、主よ」


「済まないな、お前達に行ってきてほしい所がある」


「どこでございますか?」


白雪が顔を上に向け上目遣いで聞いてくる。


「王城だ、この国の王城に行って情報を集めてきて欲しい、もちろん姿は消してな」


ルーシーとアーシャに王城の情報取集は荷が重い、ああ言った警備の厳重な所は姿を消せる、白雪と黒王が適任だ。


「かしこまりました、集める情報は勇者ごみについて、ですね?」


「あぁ、そうだ、頼めるか?」


「愚問だ、主よ、我々に任せよ」


「そうですわ、ご主人様、では行って参ります」


そう言って白雪と黒王は部屋から姿を消した、やはり2人を召喚して間違いは無かったな。


「さて、何か俺に出来ること…ん?あれは」


ソファに戻ろうと踵を返した時、1つの物体が目にとまる。


「これは、確か喜持が持っていた、拳銃リボルバーか…ふむ、何かに使えないだろうか…」


そう言えば、【大賢者】がこんな事を言っていたな…


『あのアーシャと言う、女子おなごは主人の心臓を埋め込まれた時に、精霊魔法を扱う霊脈パスが切れた、だからこれから、あの女子は精霊魔法が使えないですね』


『エルフにとって精霊魔法ってかなり重要なモノじゃないのか?』


『えぇ、そうです、ですがもうあの女子は使えない、代わりに使えるようになった魔法もありますが…それだけではこれから進む主人の道で、火力不足から逃れられないでしょうね』



これは俺の予想だが、俺の心臓は精霊魔法に適していなかった、そりゃ人間だからな。

エルフにしか使えない精霊魔法が、使えなくなっても不思議ではない…

助ける為とは言えど、悪い事をしたな…


火力不足が補えればいいんだが…この拳銃を使うか?

だが弾薬は5発しか入らない…こんな物魔法が使える戦闘ではただの邪魔だな…

どうにかして、使い物にできないものか。


こう言う事にも知恵を貸してくれそうな【大賢者】を呼ぼう、素人の俺じゃどれだけ考えようが無駄な時間を使うだけだ。


『【大賢者】少し知恵を貸して欲しい』


『はいはい、なんですか?』


『これは銃と言う武器の一種なんだが、この世界じゃ使い勝手が悪い、どうにか改造できないか?』


いくら【大賢者】と言えど、厳しいかもしれないな…これに使えそうな技術は錬金術師のモノだ、さすがの【大賢者】でも錬金術は使えないだろう。


『ふむ、少し体を借りますよ』


そう言って【大賢者】は虚無空間を脱出した時と同じく俺の体の操作を代わった。

興味津々と言った感じで拳銃を触りまくっている、今恐らく構造を把握しているのだろう。


数分後粗方触り終えた【大賢者】は俺に体の操作を代わり、計算に入った。


スーパーコンピュータの如く意味のわからない計算式を構築しては消し、構築しては消し、を繰り返している。


俺の頭の中は今訳の解らない単語と数式?と魔法陣で埋め尽くされている。

常人なら脳の処理能力が追いつかずにパンクしているだろうな。


『ふむふむ、これなら、面白い事になりそうです』


長い時間をかけ、いい結果が出た様だ、心なしか声が弾んでいた。


『で?どんな改造を施してくれるんだ?』


俺も男だ自然とワクワクしてしまう、やはり銃と言うのは浪漫があっていい。


『そうですね、まずは銃弾の心配は要らなくなります、銃弾を込める所に銃弾を錬成する錬金陣を組み込み、魔力を込める事で自動的に錬成、装填される仕組みにします、そして、余剰分の銃弾は空間魔法を組み込み保存できる仕組みにしましょう。

銃弾の種類ですが、元から入っていた鉛の弾と炎、氷、風、雷、聖、魔、と言った属性を付与した銃弾も用意します。

あと発射の威力ですが、プラズマを纏わせて発射させてましょう、主人の記憶を覗いた時にレールガン?と言った技術がありました、それを参考に改造すれば、途轍もない兵器ができますよ、ククククク、改造のしがいがあります』


まるで悪役の様に笑う【大賢者】の声はそこはかとなく楽しそうだった。

それに錬金術も使えたみたいだ、隙が無さすぎる。


しかも想像以上の魔改造が施されるみたいだ、楽しみだな、これでアーシャも勇者並みに強くなるだろう。


『そうか、なら頼むよ【大賢者】』


『了解です、数分お待ちください』


勇者が作ったモノを利用するのは、吐き気がするが、銃に罪はない。


出来上がりが楽しみだ。


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