勇者の会合
風邪引いて死んでました…更新できなくてすいません
ダイヤ、エメラルド、ルビー、サファイアと言った宝石がこれでもかとあしらわれた円卓を、数ヶ月前アースに召喚された勇者達が勢揃いし取り囲んでいた。
その中でも頭1つ抜けた存在感も漂わせる男が口を開いた。
「みんな、久しぶりだね、今日は集まってくれてありがとう」
爽やかな笑みを浮かべて、円卓を見回した男はすぐに本題に入った。
「喜持君が死んだ様だ、朝起きたら名簿から名前が消えていたよ、みんなも気をつけてほしい」
その言葉を聞き、円卓を囲んでいる勇者達の顔が自然と強張る。
だが1人だけ新しい玩具を買ってもらった子供の様に楽しそうな顔の勇者がいた。
「なぁ、望月、あいつは俺ら勇者の中でも最弱だったんだぜ?あいつを殺すくらいなら運が良ければガキでも殺せるぜ?ケハハハハ、心配し過ぎだって、それより喜持を殺した奴の方が気になるぜ」
「はぁ、桜花君、君何も分かってないね?いいかい?僕達は魔王を倒さないといけないんだよ?ここで人手が減るのはかなりの痛手なんだ、1人減るだけでも戦力が変わってくる」
「ケハハハハ、魔王…ねぇ?
まぁいい今回の話は喜持の件だけか?そうなら俺たちは帰らせてもらうぞ」
勇者達は基本的に自分の事しか考えていない、命の危険とあらば協力も吝かではないが、それ以外の場合は絶対に馴れ合わない。
皆アースに召喚されてから、性格も口調も日本にいた時と大分変わり、好き勝手に生活している。
ある男子は憧れていた魔法を使い冒険に向かい、ある男子は憧れていたハーレムを築き上げ、ある男子は憧れていたクラスメイトの女子と恋仲になり、ある男子は姫を口説き落としアルカディアを操った気になったり、とまぁそれはそれは異世界であるアースを楽しんでいる。
女子も似た様なもので、ある女子は貴族に気に入られ妻にもらわれ、ある女子は自分を高めるためにダンジョンに籠りモンスターを狩りまくり、ある女子は逆ハーレムを築き上げ、ある女子は王子に気に入られるために躍起になったりと、男子同様魔王討伐に障害になりそうな事ばかりしている。
アルカディア王家からすればふざけるなと言いたい所だろうが、勇者の機嫌を損ねそっぽを向かれては元も子もない為、下手な行動を打てないでいる。
「そうそう、みんな帰る前に言い忘れていた事がある。喜持君の死体を魔法で探し出して見つけたんだけど、それはもう酷い死に方だった、怨みを晴らすかの様に凄惨に殺されていたよ。
ーーーみんな、この意味分かるよね?好き勝手に過ごすのは良いけど、やり過ぎると喜持君みたいになっちゃうよ?」
望月の最期の忠告を聞いた勇者達一行は円卓から姿を消した。
今回望月と桜花しか話していないが、毎回この様な終わり方なので本人達は特に気にしていない。
勇者達が消え静かになった部屋で、望月 隼人は1人言葉を漏らす。
「一体誰が喜持君を殺したんだろうねぇ?いくら喜持君が勇者の中で最弱とは言えど、一般人に殺されるほど軟弱なステータスはしていない…ふむ、調べる必要がありそうだね…
アシュレイ、最近喜持君の周りで変な事が無かったか調べてきてほしい」
アシュレイと呼ばれた女は、望月の陰からいきなり姿を現し、命令を聞いた途端またすぐに消えた。
「問題があれば、一度アルカディアに戻る必要があるかな?はぁ…面倒だな、まっその時は違う勇者にでも頼めばいいかな?
桜花君は適任かもしれないね?なんせ…いや今はいいか」
そう呟きながら、望月も円卓から姿を消した。
★★★
〈アルカディア王城〉国王の一室
「勇者の状況はどんな感じだ?マリアよ」
豪華絢爛と言う言葉がぴったりな部屋でアルカディアの国王とその娘であるマリアが話し合っていた。
「はい、お父様、勇者達は順調に力を付け魔王討伐に一歩ずつ近づいています。ですが、勇者の1人だった豚が死んだ様です」
豚とは喜持 悪忌で間違いないだろう、やはり表では持ち上げていても、裏ではこの扱いらしい。
やはり喜持の気持ち悪さは世界共通のようだ。
「そうか…豚でも勇者の力は稀有な存在だ、勿体ないな…死体を回収した後、適合する者がいれば力を抜き取っておけ」
「かしこまりました。ヨセフを使ってもよろしいでしょうか?」
「構わん、だが他の勇者共に気づかれるなよ、バレたら長年の計画が頓挫してしまう、分かったな?我が娘よ」
「分かっております、お父様、力を持つ国は我がアルカディア王国だけで充分ですもの」
そう語る国王とマリアの顔は欲望に塗れとてもじゃないが正気には見えなかった。
利用できる物はなんでも使う、それが人間であっても。
アルカディア王家の性根は腐りきっている。
だがそれに気づく者は誰もいない。
「そうだ、そうなのだ、アルカディアこそが世界の支配を担う役目に相応しい!ククククク、精々働いてくれよ?勇者達」
「では、私はこれで失礼致します」
綺麗な金の髪を揺らし、マリアは国王の部屋を後にした。
マリアが居なくなった部屋で国王は1つの疑問を解消するために頭をフル回転させていた。
「誰があの豚を殺した?豚は豚だったが腐っていても勇者だった…勇者を殺せる者がアルカディアにいる?考えたくはないが、それが妥当だな」
国王は馬鹿げた思想を持つが、ただの愚か者ではない、昔はその頭のキレや即時その場に適した指示を出すキレ者として当時の国王に高く買われ、指揮官に任命され幾多もの戦場を渡り歩いていた。
「それに、あのビラ…豚に強い怨みを持つ何者かの犯行…と考えるのが一番だな、だが誰だ?そんな実力者がいるのなら、既にマークしている筈だ…まさか、先日の殺しと関係あるのか?」
先日の殺しとは、門近くの詰所で起きた虐殺事件の事だ。
両方に十六夜が関わっているが、国王がそんな事を考える訳もなく。
「クソ!考えれば考える程訳が分からん!未だに犯人は捕まっておらんし…無能共が…
まぁここで憤っていても仕方あるまい、さてそろそろ謁見の時間だな、面倒だ…さっさと終わらせて新人メイドでも甚振ろう」
そう言い残し、国王は部屋を出て謁見の間に向かった。