悲願
ある薄暗い部屋の片隅で1人の男が、魔法で作ったと思われる水晶を見ながら狂ったように笑っていた。
「アハ、アハハハハハ、なんて無様な死に方でしょう!あぁ!あぁ!素晴らしい!やはり私の目に狂いは無かった!ククク、アハハハハハ、貴方もそう思いませんか?」
「そうだな」
謎の声は短く返答しすぐに沈黙する。
「あの、勇者が塵芥の様に命を散らして行く、実に清々しい!待ち侘びていた場面を直に見られるとは!フハハハハ、次はどんな殺し方を見せてくれるのでしょうかね?楽しみだ!イザヨイさんには期待してしまいますね」
「あの方は、なんと言っている」
「あぁ、機会があれば謝りたいと言っていたよ、イザヨイさんには申し訳ない事をしたと。
あの方にできる事であれば、なんでもするみたいだよ」
「そうか…」
男は空を見上げなら、謎の声と会話する。
その表情は何か見えないモノに祈りを捧げているかの様にも見える。
「あの方は、イザヨイさんを利用した事に罪悪感を覚えていらっしゃる…イザヨイさんが真実を知った時、イザヨイさんはあの方を許しはしないだろう…いくら謝られ様がね。
一度会ったが彼は変わっていたよ、世の全てを呪っていた」
「当然であろうな、そのせいで家族を失ったのだから」
「そうだね、我々の悲願を叶える為とはいえ…我々がイザヨイさんを利用した事に変わりはない、それは受け入れないとダメな真実だ…例え殺されても、文句は言えない」
そう語る男の顔は、先程の顔とは打って変わり悲しみに満ち、哀愁がべったりと張り付いていた。
「そうだな」
「はぁ、君は相変わらずだね?サタン?」
「その名は捨てた、もう呼ぶな」
サタンと呼ばれた謎の声は怒気を孕ませ、周囲を威圧する、ただの声なのにそれは大気を震わせ、部屋を揺らす。
「おっと、済まないね。おや?どうやらお客様の様だね」
バターンと大きな音と土煙を立てて、部屋に1つだけある扉が破壊される。
「やっぱり、お前だったか」
そう言いながら入って来たのは、後ろに女と男を連れた、霞 十六夜だった。
「これはこれは、本日はどの様なご用件で?」
★★★
俺が扉を蹴破り中に入るとそこには、俺の予想通りの人物が胡散臭い笑みを張り付け、待ち構えていた。
「これはこれは、本日はどの様なご用件で?」
分かっている癖にいけしゃあしゃあと…やはり俺はこういう人物は苦手だ。
「分かってるんだろ?下手な腹の探り合いはよそう」
無駄な時間を使っている暇はない、早々に終わらせて明日からの為に寝たい。
「アハハハハハ、そうですね、やめましょう」
「何故俺らを見ていた?何を企んでやがる」
俺は無表情に淡々と言い放つ、下手な事を言えば即座に殺すという意味を込めて。
「そうですね、簡単に言えば、我々の悲願が達成される所を見守る為?でしょうか」
悲願?こいつは何言ってやがる。
「悲願だと?」
「そうです、勇者の駆逐、それが我々の悲願」
勇者の駆逐…ね、俺の復讐と被るから、それを見ていたのか?
「何故お前らがそんな事を望んでやがる」
わからない事が多すぎるな全く。
この世界は本当に面倒だ、早く全てを終わらせて破壊したい。
「少しお話ししましょうか、我々が歩んで来た歴史のお話しを。
我々はアースが創造された時から、今日まで生きてきました。
その時は自然が溢れるだけの、ただ豊かな土地でした、我々"始祖種"以外には生物のいない、平和な世界でした。
ですが、アースを創造した神は、面白半分で色々な種族を作った、それは、人間からエルフまで多種多様です。
そしてそれが引き金になった、知恵を持つ種族は自分達の縄張りを作り、戦争を繰り返し、自然を破壊し、命を奪った。
そして、武器が生まれ魔法が開発されました。
特に魔法の扱いに長けていた魔族は積極的に他種族の命を奪い始めました、それに危機感を覚えた無力な人間は知恵を振り絞り、秘密裏に長い年月をかけある魔法を作り出しました」
「まさか…」
「えぇ、それが勇者召喚システムです、人間はそれを使い、アースではない、違う世界つまり異世界の人間を召喚しました、ですがそれがいけなかった。
呼び出した人間達は我々の何倍もの強い力を持ち、我々では考えもつかないアイデアを持ち、何倍も進んだ技術を持っていた。
そして、歪んだクソみたいな思想もね。
召喚された人間達は優遇され好き勝手にやり始めた、それはもう言葉にするのも憚られるものまでね?
だが、勇者は頼まれた通り魔族を討伐し、挙句は歴代最強の初代魔王まで倒した。
それからは、英雄と持て囃され、酷い物でしたよ、異世界では珍しい亜人は特に酷い目に遭っていましたね。
そして…今回の勇者召喚で100回目です、それで呼ばれたのが貴方ですよ、イザヨイさん」
なんだこの胸糞の悪い話は…
「ふざけた話だな、何故この世界の事を異世界の奴らに任せるんだ?自分の世界の事は自分達で何とかすべきだろ?」
神の気まぐれがもたらした、副作用が有栖を殺した…
「イザヨイさんの言っている事は尤もです、ですがアースの人間は頼ってしまった異世界人に。
そしてアースを創造した神はそれを利用しようと考えました。
神は異世界から、異常な思想を持つ者ばかりを選りすぐり召喚しています。
つまり勇者召喚システムは…今人間の手を離れ、神が全権を握ってます」
アースを創造した神とルーシーを作った奴は同一神でいいのか?
全く趣味の悪い事をしやがる…
憤っている俺を見ながらも、話を続ける"始祖種"と呼ばれる男。
「イザヨイさんのステータスが、何故そんな馬鹿げた物なのか、気になりませんか?」
「なんだと?何か知ってるのか?」
「えぇ、知っています。考えても見てください、いくら勇者といえどそんな馬鹿げたステータスを持っている訳がないでしょう?」
それは、最初にステータスを見た俺も思った事だ。
「あぁ…で?その有り得ないステータスを何故俺なんかが持ってるんだ?」
「"創造神"全ての生みの親である創造主が貴方に与えたからです、全てを終わらせてもらうために」
神から与えられたのか、だが何故俺なんだ?なんで俺だったんだ?
俺じゃ無ければ…有栖は死ななかったじゃないか。
「何故俺だった!何故俺なんだよ!ふざけるな!勝手にそんな事を押し付けるんじゃねぇよ!お前らの勝手な思想で…俺の妹は死んだ!死んだんだ!はぁ…はぁ…」
「それについては本当に弁解の余地もありません、ですが、全てを終わらせた時、あの方はイザヨイさんの望みをなんでも叶えるとおっしゃっておられた」
「なんでもだと?」
「えぇ…あの」
「喋りすぎだぞ、それ以上はあの方の口から言われるべきだ」
俺たちの会話を遮る声が、何処からか発せられる。
「そうだね、少し喋りすぎてしまった、それではこの辺で失礼する。
ーーーー移動門」
「おい!ま、ま、て、くそ!中途半端な所で逃げやがって…」
男は部屋に突然現れた門に飛び込み姿を消した。
「ご主人様、どうされますか?」
「主、追うか?」
「いや、もう無理だろう、さっきまで感じていた奴の魔力が消え去った、今日はもう戻るぞ」
次会った時、その時は必ず…絶対に全てを話させてやる。