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復讐の時間〜喜持編〜



改めて喜持を見る。凄まじい肥満体、本当にオークの様な体つきだ。腹部にはたっぷり過ぎるほど脂肪がつき、顎の下にもこれでもかといわんばかりに肉がついている。

頭は壁に付けられている松明の光を反射させる程薄い…恐らくここに来てから日本にいた時よりも髪の毛が抜け落ちたんだろう。

顔の周りについた肉によって、顔面もオークに酷似している、ここまで人の嫌悪感を誘発させる顔を俺は知らない。


いや、まだいたな、こいつ以上に嫌悪感を促すクソッタレな顔面は。


「お前か?俺の邪魔をしているのは、何が目的だ?何故俺を付け狙う」


俺が喜持を観察していると、あちらから話しかけて来た。


オークみたい、というイメージが強くこびりつき過ぎて、ブヒブヒと言っている様に聞こえてしまう。


「ん?俺か?おっと姿を変えたままだったな、よっと、これで思い出したか?喜持?」


俺は体に纏っていた魔力を霧散させ、変装を解く。


魔力の膜が消え去り、現れるのはもちろん、黒髪に黒目の霞 十六夜だ。


「お、お前は…か、霞なのか?死んだ筈じゃ…」


「生きてるだろ?現にこうやってさ、俺は這い上がってきたんだよ、お前らを殺すためにさ」


今までの中で最大級の殺気を乗せながら、俺は喜持を睨みつける。


「ひっひぃぃぃぃ、だ、だが、大人しくお前に殺されるつもりはないぞ、クソがぁ、やれ!レーシア、ナゼロス、ハミア!あいつを殺せぇぇぇ!」


喜持の叫びと共に奴隷である少女達が俺に向かって襲いかかってきた。


「自分でかかってこないのか、屑野郎、仕方ないか、許してくれ」


俺は一足飛びで奴隷少女達の懐に入る。

この子達に罪はない、ただ主人に恵まれなかっただけだ、命を取る事は無いだろう。


俺は奴隷少女達の腹を最小限の力で殴り意識を刈り取る。

手刀で首をトンなんてやったら、危険過ぎるからな、あんなのは二次元だけで充分だ。


そうして意識を刈り取った少女達を、地面に寝かせ俺は喜持に向かって歩き出す。


一歩、一歩、一歩と死を告げる死神の様に。


「ちっ、役立たずがぁ!奴隷なら主人の命令を全うしやがれ!」


その言葉を聞き俺は歩みを止める。


「役立たず?そう言ったのか?ゴミ野郎」


「そうだ!なんか文句あるってのか?かすみぃぃぃ!」


腐ってやがるな、異世界に来て箍が外れたか。

やはりこいつらは死んで当然だ、命をなんとも思ってやがらねぇクソ野郎が。


「そうか、お前は世界に、社会に不要だ、今から俺が復讐のついでに世界のゴミ掃除をしてやる」


「ゴ、ゴミだと?ふざけるな!ふざけるなぁ!俺は勇者だ!勇者なんだ!英雄と崇められる存在なんだ!悪を倒し、正義を執行する勇者なんだよぉ!俺は、お前など認めない、認めないぞ!クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「勇者?笑わせるなよ喜持、お前はよくてモブの三下役だぜ?」


とんだお花畑野郎だな、歪みきってる、頭に虫でも湧いてんじゃねぇか。


ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!と喜持は右手に持っていた、リボルバー式の拳銃を俺に向けて撃ってきた。


放たれた弾丸は全て俺の体に吸い込まれるが…

正直がっかりだ、蚊に刺された程度の痛みしか感じない。


これが切り札なら、興醒めも良いところだな。


だが銃なんてどうやって…


勇者の能力か…便利な能力だな全く。


「銃ってあんまり痛く無いんだな、さてもう終わりか?次は俺の番だな、行くぞゴミ、簡単には殺さないからな」


「ひっ…!い、嫌ダァァァァァァァ、た、たすけ、ぶべぼぉ」


俺は喜持の顔面を死なない程度に加減して殴りつけた。


殴られた喜持は盛大に吹き飛び、通路の洞窟へ減り込んだ。

近づいて顔を覗くと、顔は陥没し、白目を剥き、鼻と口から大量の血を垂れ流していた。


「アハハハハハハハハハハ、いい気味だな、アハハハハ、さてさて拷問を始めよう」


「おや?随分とあっさり捕まえられたね?」


アーシャの遺体を見ていたルーシーが駆け寄ってくる。


「あぁ、三下にそんな時間は食わないさ、それに拷問はいくら時間があっても足りないのだから、ククククククク」


俺はこれから始まる狂気のショーに想いを馳せ、ニヤリと笑うのだった。













★★★


目を開けるとそこには先程と同様に通路の天井が見える。


「か、霞は!くっ…なんだ!体が動かない!」


体の自由が効かない…拘束されてるのか…畜生が!


「おっ、やっと起きたかゴミ」


拘束具を外す為に、暴れまわっていると、頭上から声をかけられる、あのふざけたクソ野郎の声だ!舐めやがってぇぇぇぇぇ。


「がずみぃぃぃぃ、なんのつもりだぁぁぁ、こんな事してただで済むと思ってんのかぁぁ?俺にはアルカディアの後ろ盾があるんだぞ?」


「ぷふっ、アハッ、アハハハハハハハ、冗談だろ?今更そんな事言うなって、アハハハハ、やっぱお前三下だわ」


俺の言葉を聞き霞は狂ったように笑い、俺の事を貶めてきた。


三下?俺が?この俺が三下だと?俺は勇者だ、俺は勇者なんだぞ。


「殺してやるぞかすみぃぃぃ!お前の様な屑は殺してやるうぅぅぅぅ」


「はぁ、あまり失望させないでくれよ、俺が屑だって?そんな事は分かりきってるんだよ、俺は自分の復讐心を満たす為にお前らを殺すと決めた屑だ、それは否定しない。だがお前らはなんだ?全く関係のない人達を巻き込み、自分の欲望を満たすために狡い手を使って、悲しみを振りまく。

はぁ本当にどっちが悪か分かったもんじゃないなぁ?」


俺の死刑宣告を聞き、霞はそれを飄々と受け流しながら逆に俺をディスってきた。


「なっな、ふざけやがって…」


「はぁ、もういいや、さて復讐を始めようか」


そう言い放った霞の顔は愉悦に歪み、悪魔の様な形相だった。







ーーーーーあれからどれくらい経ったんだ?


もう時間の感覚が分からない、度重なる痛みに気がおかしくなりそうだったが、発狂できない様に魔法をかけられ、狂うこともできない。


殺さない様に考えられた拷問の数々は、壮絶の一言だ。


加減を間違え致命傷になった場合は高位ポーションをかけられ癒される、その時受けていた傷も癒されるので、またそこを攻められる。


その繰り返し、もう殺して欲しかった、叫ぶ事も出来ず、発狂することもできず、死ぬこともできない。


こんなものは生きているとは言わないだろう…


そしてそんな俺を見ながら霞はずっと笑っている。



「うんうん、結構刃物の扱いが上手くなってきたな、やっぱり生きた人間で練習すると違いが分かりやすくていいな、医者の気持ちがよく分かる」


「ぼぉ、ろ、ぎぃ、でぇ」


「ん?なんか言ったか?すまん聞き取れなかった、さて次は内臓行ってみるか、アハッ、アハハハハ、そうその顔だ!その顔が見たかった!」


俺の顔が歪むたびに、霞は喜色満面の笑みで俺を見る、その目には狂気が宿っており、既に壊れていた。


あぁ、俺たちはなんてやつを敵に回したんだ…


ザクッザクッと刃物が俺の体に突き刺さる、霞は突き刺さった刃物をぐにぐにとねじ込み俺の体を引き裂いた。


痛みに視界がくらくらするが、何もできない。


内臓が体の外に零れ落ちる感覚が敏感に伝わってくる。


「へぇ、内臓ってこんな感じなのか、これを切るとまずいかな?いや、切ろう」


「ゔぅぁぅぅあぅぁぁぁあああ」


霞はなんの躊躇いもなく俺の内臓を切り捨てた、その瞬間喉から口に血が逆流してくる。


「十六夜君、このままだと死んじゃうよ?」


「ん?やっぱ内臓を出すのはまずいか、なら戻そう」


グチュと音を立てて俺の体に内臓が戻る、そしてその上からまたポーションをかけられる。


痛みは消えるが血が戻る訳じゃない、血が減りすぎて視界が朦朧とする。


「そろそろ、あれ使ってみるか」


そう言った霞の手には不気味な卵が鎮座していた。


「十六夜君、これはどうやって使うんだい?」


「あの売人の話だと、100度以上の熱を与えると孵るらしい、暖めてくれ」


「よいしょっと、もういいんじゃない?」


「そうだな、もういいぞ、結構熱いな」


霞の手にあった卵はピキッパキッと音を立てて割れ始めた。

そして割れかけの卵を俺のお腹に置いた霞と銀髪の少女は少し後ろへ下がった。


「あっぎだたぎっじぃ」


熱い!熱い!焼ける!俺の体が!


「酷い臭いだな、クセェ」


「人間が焼ける匂いってこんな物だよ、慣れなきゃね」


「そうだな、お?やっと生まれたか」


霞が言ったように俺のお腹の上で孵った、卵から出てきたのは蛆だった。

だがただの蛆じゃない、大きさがおかしいのだ、スマートフォンサイズはある、それを見た瞬間俺の脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。


まさ、か、まさか!


「さぁそいつを中から食い尽くせ」


そして無慈悲な死神は、俺が考えたシナリオを再現する様に蛆に命令を下す。


俺が猿轡を外されると同時に巨大な蛆は俺の口に入り込んできた。


「ば、ばめてぇぇぇ、ばめてぇくれぇぇぇ、ぎぃやだぁぁぁぁぁぁ」


「はぁ、お前は嫌だ、助けてくれって言える立場か?お前は今までそう言った人達にはどうしてきたんだ?ゴミが!お前には蛆がお似合いだ、そのまま食われて死ね」


嫌だ!嫌だ!嫌だ!こんなの人間の死に方じゃないだろ!


「やめ、で、ごばっ、い、いやだぁあ、たすけて!だずげでぇぇぇ」


「アハハハハ、アハハハハ、いい気味だな?本当にいい顔してるぜ?アハッアハハハハ、そうだ!絶望して死ね!クソ野郎がぁ!」


「あっ、あぁぁぁぁぁぁ」


口から入った蛆は俺の体を中から食い始めた、痛みがダイレクトに伝わってくる…

肉を噛み切られた感触が脳髄を伝わってくる。


そして、数分後左胸から這い出た蛆を見て俺の意識は消えた。









★★★



「アハッアハハハハ、いいな、これだ!これなんだよ!なんて甘美な感情なんだ、これで復讐の第一歩が終了…次はもっと上手く復讐してやろう、ククククククク、待ってろ次のゴミ屑」


「良かったね、十六夜君、復讐してる時の君は本当に生き生きしてたよ」


あぁそうだろうとも、だがこれでもまだ1人目だ、復讐対象はまだまだいるんだ、俺の復讐はまだ終わらない。


だが次の復讐に向かう前に、する事がある。


「なぁルーシー相談がある、聞いてくれるか?」


「突然どうしたいんだい?なんでも聞くよ」


ルーシーは俺が言おうとしてる事に気付いてるのに、気付かないふりをしてるのか。


本当に敵わないな、ルーシーには。


「アーシャを助けたいんだ」


「……そうか、君ならそう言うと思ってたよ、ふふっやっぱり君は優しいね?」


「ありがとう…」


これはただの俺のわがままだ、ただエゴでしかない。

命を救ってくれ、復讐する為の力を付けてくれたルーシーには罪悪感でいっぱいだが、俺はこの子を救いたい。

復讐に関係のないこの子を救う事に、なんの意味もない、救った後拒絶されるかもしれない、だが俺はーーーー




『【大賢者】死者に生を与えるにはどうすればいい』


『そうですね…蘇生魔法が無いわけではありませんが、失敗すれば生前の記憶と自我が消え去ります』


『それ以外は?』


自我と記憶が消え去るなど論外だ。


『ありますよ?貴方だけに許された方法が』


『俺だけに、許された方法?』


『簡単な話です、貴方の心臓をその女子おなごに埋め込めばいいのです』


『俺に心臓を抜取れってか?』


『えぇ、そうですよ、今の貴方はそんな事で死にません、生者として助けられる方法があるならそれくらいでしょうか』


生者としては、ね…


『分かった、やるよ、ありがとな』


『いえ、ご武運を』


さぁ、やろうか、最後の大仕事だ。





「ルーシー済まないが、俺の心臓を抜き取ってくれないか?アーシャを助ける為に必要らしいんだ」


こんな事をルーシーに頼む事になるとはな…本当に俺は何をしてるんだ…


「はぁ、しょうがない、行くよ?それ」


「がはっ、ぜぇぜぇぜぇ、ぐっ、あぁぁあぁ、はぁはぁはぁ」


ズボッという音共にルーシーの手が俺の左胸に突き刺ささり心臓を掴み取る。

形容しがたい痛みが駆け抜けるが、今までに受けた痛みに比べればどうという事はない。


「はい、取れたよ十六夜君」


そう言って、ルーシーは俺の心臓を差し出してくる。


「済まないな、こんな事を頼んでしまって」


「気にしなくて大丈夫だよ、僕は十六夜君の役に立てるのが嬉しいんだから」


俺はルーシーに礼を言いながら、まだ血が滴りドクドク動いてる自分の心臓を受け取る。


既に俺の心臓は回復して、体に血を運んでいる。


俺はアーシャの元まで赴き、膝をつく。


「アーシャ、君は望んでいるか分からないが…」


俺はそう言いながら風穴が空いたままの左胸に心臓を埋め込む。

それと同時に魔力を操作して血管を繋ぎ、残っていた最後のポーションをかける。


その瞬間、左胸から禍々しい光が迸るが、すぐに収まり、左胸に収束していく。


そして、ドクンドクンと心臓は動き出し、アーシャの生命活動を再開させる。


「成功したのか?」「まだ、目を覚まさないね」


長い間命の火が消えていたんだ、それも当然か…


「とりあえず宿まで運ぼう、ルーシーも疲れたろ?」


「そうだね、なら早く戻ろう」


俺はアーシャを背に担ぎ、ルーシーと共に宿へ戻った。

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