復讐へ〜喜持編2〜
ここから、残酷描写が続きます?
俺とルーシーは、アルカディア一等地つまり、喜持の屋敷まであと少しというところで、足止めをくらっていた。
「ちっ…!数が多すぎるな」
「このままだと、時間だけが消費されていくね、この間に逃げるつもりかな?」
俺達を取り囲んでいるのは、黒装束を身に纏った暗殺者らしき集団だ、正確な数は分からないが恐らく100はいるだろう。
絶妙なタイミングでの奇襲、喜持が放った連中と見て間違いないだろう。
「大して強くはないが、この数はさすがに面倒だな、ルーシーこいつら一掃できるか?」
「んー、できるけど、この国が滅んじゃうよ?」
「そうだよな、愚問だったよ、さてどうするか」
何分かりきっていることを聞いてるんだ俺は…
クソ!こんな所で力の強さが裏目に出るとはな。
俺が対応に困っていると、脳内に声が響く。
『私に良い案がございますよ』
『【大賢者】か…言ってみろ』
『魔法を使って下僕を呼べばいいのです、下僕を戦わせその間に貴方達は先に進めばいい』
『下僕?そいつらは使えるのか?役立たずを呼んでも仕方がないぞ』
この暗殺者達は俺とルーシーから見れば雑魚と言うだけで、一般的に見れば強い部類に入るだろう。
『はぁ、やはり【大賢者】を舐めすぎですよ、そこらの雑魚に負ける訳ないでしょう?』
その声には少しの怒りと多大な自信が込められていた。
俺はその声を聞き、自分のユニークスキルを信じることに決めた。
『分かった、どうすればいい?』
『今から私が教える、詠唱を唱えて下さい、その時召喚する下僕の姿形は貴方が創造して下さいね、では行きますよ』
『了解だ』
俺は目を閉じ【大賢者】に教えられた詠唱を唱え始める。
我の声を聞きたまえ、我の声に応えたまえ、我のために命を尽くしたまえ、我の願いを聞き入れたまえ。
古代魔法 召喚門創造
詠唱が終わった瞬間俺達がいた場所は凄まじい閃光が迸り、辺りを照らし、暗殺者達の目を焼いた。
その光が止むと、その場には暗殺者達の呻き声と白と黒二つの門が顕現していた。
その門を見たルーシーは俺に駆け寄り、これが何か聞いてくる。
「十六夜君、こ、これはなんだい?」
珍しくルーシーが少し狼狽している。
「【大賢者】に教えてもらった魔法だ、下僕を呼んだ」
「げ、下僕だって!?あの二つの門から途轍もない魔力を感じるんだけど、大丈夫なのかい?」
そのルーシーの言葉と共に白と黒二つの門は大きく開かれる。
白の門からは天女と見紛う様な可憐な女が、黒の門から如何にも武人という風貌の男が出てきた。
まぁ、俺がそういう姿を考えたから当然なんだが。
2人は空中を歩きながら、俺の元へ近寄ってくる、何とも奇怪な場面だが、今更こんなことで驚く事はない。
2人は俺の元へ来ると、その場で膝をつき跪いた。
「ご主人様、ご命令を」「主よ、命令を」
どうやら2人共、俺が主人だと理解しているみたいだ。
「お前達には、この場にいる黒装束の連中を殺してほしい」
「かしこまりました」「了解した」
その言葉を発した瞬間2人は既に飛び出しており、一方的な蹂躙を開始していた。
女に触れられた人間は全身から血を噴き出させ、黒装束を血みどろに変え、男が振るった手刀の直線上にいた人間は皆等しく上半身と下半身を別れさせ、命を散らしていった。
「ルーシー今のうちに行くぞ」
「わ、わかった!」
こんな光景以前の俺なら一瞬で卒倒していたはずだが、今はなんの感慨も浮かばない。
むしろ、数秒ごとに上がる悲鳴が心地よかった。
こうして俺たちは喜持の屋敷へ再び走り始めた。
数分後俺とルーシーは閑散とした雰囲気の馬鹿でかい屋敷へたどり着いた。
その屋敷は趣味の悪い石像や、装飾で埋め尽くされていた。
「悪趣味だね、魔王の僕でもこんなの家におかないよ?」
「確かに悪趣味だな、だがこれを作らせたであろう、本人が居ないみたいだな、逃げられたか?」
暗殺者に時間を取られすぎたな、クソ!間抜けすぎるぞ俺!
「十六夜君、ここから風が来てる」
俺が自分を貶めている間に、ルーシーが何かを見つけた様だ。
「これは…隠し通路か?」
大きな石像を退けるとそこには、人が通れそうな通路が姿を現した。
「へぇ、この先少し不気味な気配があるね、何かいるみたいだよ」
「そうか、なら迷うことはない、行くぞ」
待ってろよ、喜持!
「随分と広いな、まるでアリの巣だ」
「そうだね、気配が分散してて、本命が分からないよ」
隠し通路に入った俺とルーシーはしらみつぶしに正解の道を探し回っていた。
「小癪な奴だ、こんな物を用意してるとは…」
「何かヒントがあればいいんだけど…」
「そうだな…ん?この匂い…」
「どうしたの十六夜君?」
この匂い何処かで…最近嗅いだ事のある匂いだ…この落ち着く匂いは…森か?
おいおい、冗談だろ…
「ルーシー!こっちだ!急ぐぞ!」
「えっ!ちょっと待ってよ!十六夜君!」
この匂いの主が正しければ…俺の予想が正しければ、恐らく…頼むから気のせいであってくれ。
数秒後匂いを辿り、開けた場所に出た、そこには右腕を前に突き出したまま笑みを浮かべる喜持と、真っ赤な血溜まりに沈む金髪の女の子がいた。
★★★
時は少し遡り
勇者キモチの屋敷に着いた私は、屋敷の中へ案内された。
来ることが分かっていたかの様な対応だった。
部屋へ入ると、気持ちの悪い笑みを浮かべたオーク、いえキモチが私を待ち構えていた。
キモチは汗ばんだ顔で、私をまじまじと見つめて来る、凄まじい悪寒が走るが、鋼の精神とエルフの矜持で抑えつける。
「よく、来てくれたね、アーシャ、やっと俺の物になる覚悟が出来たのかな?」
その言葉一つ一つに激しい吐き気を催すが、それを飲み込み、私は考えていた言葉を吐き出す。
「お断りします、貴方のような外道に渡す体はありません」
私がその言葉を放った瞬間、キモチは隠していた本性を剥き出しにして、狂ったように笑い始めた。
「ククククククク、アハハハハハハハ、アーシャ、お前は愚かな選択した、お前には失望したよ、そんな愚かなアーシャに、これは俺からのささやかなプレゼントだ」
そう言いながらキモチは汗ばんだ手を魔法袋に突っ込み3つの箱を取り出した。
その箱を見た瞬間私は吐いてしまった、私には分かってしまったから、中身を見るまでもなく、中身が何かを悟ってしまったから…
私は血の滴る、箱を1つずつ開けていった、そこには私が考えた通りの人物達の首が入っていた。
ーーーーそう、私の家族だ…父、母、そして妹
「何故…何故…何故だ!何故私の家族を殺す必要があった!なんの関係も無かった私の家族を!クソ!クソ!この外道がぁ!お前は人間ではない、オーク以下のゴミだ!
あぁ、くっ、ごめんねみんな…私のせいで…」
一通り叫んだ後私は家族の首に縋り付きひたすら、泣き続けた。
そしてキモチは私を見て笑っていた、面白い物を見るかな様に、ネットリとした視線で。
「アハハハハハハハ、アハハハハ、そう!そうだ!その顔が見たかった!アハハハハ、いい!いいぞ!素晴らしい!これならお前の母や妹よりも楽しめそうだなぁ?ククククククク」
私は時が止まった感覚に陥った、全てが遠く感じた。
「な、ん、、だ、と…?」
敢えて絞り出せたのはこの一言だった。
「ん?知りたいかのか?お前の母と妹がどうやって死んだのか、アハハハハ、そんなに知りたいなら教えてやってもいいぜ?実はなお前の母親と妹は俺と俺の部下が味見してから、お前の父親が見てる前で首を刎ねたんだよ、アハハハハ、あの時はいい気味だったな、中々良い見世物だったぜ、それに気持ちよかったな、アハハハハイヒヒヒヒヒヒ」
「ろ、す…ころ、す、殺す!このゴミがぁぁぁぁぁぁぁ!」
私はドス黒い殺意に支配され、殺意の赴くがままに精霊魔法を行使した。
私の殺意に共鳴した精霊達は、明確な殺意を持ちキモチに襲いかかる。
地の精霊は床を石材に変え槍の様に突き出し、風の精霊は風の刃を無数に生み出し、水の精霊は大気中の水蒸気から水を生み出し、鋭く変形させ打ち出した。
その全てがキモチの体に殺到する、あの図体じゃ回避は不可能だろう。
そして案の定キモチは精霊達の攻撃に呑まれ、粉塵をあげながら、壁を突き破り、外へ吹き飛んでいった。
「まだ、足りない、足りない、足りない、こんな物ではまだ足りない!」
私は叫びながらキモチが開けた穴を潜り外に降り立つ。
「アハハハハ、うんうん、ザンネーン、俺に魔法は効きませーん!アハハハハ、本当馬鹿だよな、俺が魔法対策を怠るわけないだろ?もう諦めてくれない?未来の妻を殺したくないんだよね」
「ふざけるな、私の家族を貶めた償いはしてもらうぞ、外道が!」
私は再度精霊魔法を使い精霊を使役しようとするが…
「なに?魔法が使えない!?」
「そうなんだよ、ごめんね?君の魔法を封じちゃってさ、アハハハハ。
レーシアもういいよ、気絶させて」
その言葉を最後に私の意識はまどろみに呑まれた。
目を開けると私は獣人の奴隷に担がれながら運ばれていた。
「確か、私は、誰かに頭を…くっ…」
「やっと起きた?レーシアが思いの外強く殴ってしまったみたいでさ、ごめんよ?アーシャちゃん、アハハハハ、これで俺の計画は成功だ、あとはこの国を出るだけだね」
「く、そ…貴様なんぞに…」
ごめんなさい、お父さん、お母さん、ティア…
私何も出来なかった…仇を取ることも…ごめん、ごめんね…
「キモチ様、どうやら暗殺者集団が壊滅した模様です、恐らくキモチ様を貶めたやつらの仕業だと思われます」
私が自責の念に駆られていると、キモチの配下である男の1人がそう報告しているのが耳に入った。
「ちっ!まぁいい、ここまでは追いかけてこないだろう、だが念のため少しペースを上げるぞ、追いつかれたら面倒だ」
逃走を妨害する事が出来れば、こいつの計画を邪魔できるかもしれない…
そう思い立った私は、この世に生まれついた時から私に憑いてくれている、森の精霊に頼み、自然の特有の匂いを撒くことにした。
森の精霊は先祖帰りで私に憑いてくれているらしい。
これで、もしここに追手がきたら気づいてくれるかもしれない、そしてその人達がこいつを殺してくれるかもしれない、その一縷の望みにかけて。
「よし、ここまでくればあと少しだな」
「キモチ様!このエルフ魔法を使ってます!」
気づかれたか…だが仕方がないここまで持ったのだから感謝すべきだろう。
「ちっ、無駄なことを、ん?クソ!入ってきやがったか…不味い追手がこの洞窟に入ってきやがった、すぐ逃げるぞ」
ダメだ、ここで逃せば、全て無駄になる…少しでいい、少しでいいから、私に力を貸して。
「お願い、精霊達!」
私の叫びに精霊達は奮起し、次次に私の周りにいる、キモチの取り巻きを殺していく。
奴隷の少女や無理やり妻にされた女性達には手を出さないように気を付けながら。
「うっ!ぎゃぁぁぁぁぁぁ、俺の腕がぁぁぁああ」
「足が足がぁぁぁぎゃがざだば」
「アハハハハハハハハハハハハハ、しぬ、じぬぅぅぅぅぅ」
「悪あがきを!はっ!」
キモチが魔封じのアイテムを使うとたちまち、精霊達は消え去った。
「ここまでですか…」
「クソ!こいつらを準備するのに、どれだけ金と時間を掛けたと思ってんだ!もういいアーシャ死ね!」
キモチは懐から鉄の筒を取り出しそれを私に向け使用した、その瞬間ズドンっと重い音を響かせ鉄の筒は煙を上げていた。
それと同時に私の左胸には風穴が開き、後ろ向きに倒れこんだ。
あぁ、私はここで死ぬのか、誰もいない、誰もいない寂しい地の底で。
目が霞んできた、体が冷たい、手足の感覚が……
私が最後に聞いたのはキモチの笑い声だった…
★★★
「おい、冗談だろ?なんでお前がここにいるんだよ…なぁ、アーシャ」
「十六夜君…」
俺は血溜まりに倒れている、アーシャの元へ行き、脈を測る。
その時触れたアーシャの体は驚くほど冷たかった、そう、もう死んでいた。
手遅れだった。
俺には関係の無い筈なのに…たまたま冒険者ギルドで出会っただけの受付嬢、それ以上でも以下でも無い。
なのに何故俺はこんな感情に支配される?意味がわからない…
あぁ、そうか、やはり俺はこの子に自分の姿を重ねてたのか…
救えないな、本当に。こんな物はただの同情でしかない、そうただの独りよがりだ。
偽善者?大いに結構、俺は俺が決めた道を進む。
もう迷わない。
済まない、アーシャ。
待ってろ。
俺はキモチに視線を向ける、キモチは余裕の笑みを浮かべており、こちらに嘲笑を送っている。
不愉快な顔だ、今すぐに潰してやる。