転生したら傘でした
いやー今日は雨が強いですなぁー
バンバン体に雨粒が当たってくるぜ。
俺は傘。
傘だよ傘。
なんか人間だった頃に、トラックにひかれて死んだ。
即死だったみたいで、苦しむ前に死ねたのは不幸中の幸いだっただろう。
そして、転生するのは別によかったんだけどなぁー
転生後は傘
傘とか生き物ですらねーじゃん!
まだ、カエルとかナメクジの方がましだわ!
しゃべることも動くことも出来ないし!
ただ雨に当たるだけだよ!
と言う訳で
今は傘として生きている。
傘として生きて2・3年位かな。
結構長生きしている方だと思う。
周りの状況は、音が振動で伝わるからなのか音で把握できる。
さすがに、から傘お化けじゃないから物は見えないけどね。
基本的には暇だな。娯楽と言えば、人間の会話や、俺の持ち主の歌を聞くことくらいだ。
俺の主人はバンドのリードボーカルみたいで、結構歌が上手いんだぜ。
ガタンゴトンと通学列車
おかしい、普段はここで降りるのに……
もしかして、置き忘れ去られていないよな?
今は雨降ってないけど、「帰りに雨が降るから」って主人の親に持っていかされた。
おいおい主人、いつも降りてる駅ですぜ?
こう言う時、周りが見えないのが怖く感じる。
次の駅、
次の駅、
次の駅、
俺の不安は増していく……
「ん? やっば、寝すごしちゃったー……」と落ち込む声
寝てただけかーい!
こんな俺にも誇りくらいはある。長い間、大切にされているということだ。
俺の主人は、俺を乱雑に扱わないし、雨が降ってない時なんかはなるべく地面に当たらないように気を使ってくれている。
言われたわけじゃないけどな、ずっと使われてると大切にされてるのが伝わってくるんだよ。
たまに他の奴が使うけど、主人と比べて扱いが雑だしね。
大切に使われてると言っても、数年も使われると流石にボロくなってくる。
鉄骨部分は錆びてきてるし、布と鉄骨を結ぶ縫い目もほどけてきてる。
俺もそろそろ壊れてゴミになるかと思うと悲しくなってくる。
傘だろうが転生したんだ。
ゴミだけにはなりたくない。汚くて重苦しそうだし、どう処分されるか考えるだけでも嫌だ。
まぁ、最終的には捨てられるんだろうけどな。
俺たち物は壊れたら捨てられる。
そう言う運命。
傘を治して貰うなんて、聞いたことない。
そう思っていたある日。
突然、衝撃が走る。
俺の布を支える鉄骨が一本、ポキッと折れる。
ぐっ、、、!
痛みが来た後、一気に虚しさが襲ってくる。
あぁ、捨てられる
痛みなんかより、心に空いた穴の方が辛い……
「あっ、折れた……」と呟く主人の声。
今はそのまま使われる。
どれだけ雨に当たってもいい。なんなら池に浸かってもいい。
ずっと使われていたい。
家にも帰りたくない……
無情にも、ドアを開く音がして俺が置かれる。
鳥の鳴き声が聞こえ朝が来る。
手に取られる事はない。
今日は捨てられなかった。
2日後。
主人が俺を手に持つ。
ついに捨てられる日が来たか。
俺を開くためのボタンが押される。
開いた布が上に、取っ手の部分が下に来る。
あれ?なんで?
雨に当たる。
隣のやつが話しかけてくる。
「あれ? 傘どうしたの?」
「あっ、これ? この前折れちゃったんだよねー」
「替えの傘、ないの?」
「いや? 長い間使ってると、愛着がわいてきてねー。使えないことはないし、何となく捨てたくないんだ」
「ふーん。ほんと、変なやつー」
本当に変な主人だな。
熱い思いがこみ上げ、いっぱいになった。