大航海時代2
軍議ではサンゴ諸島ヘレンシア領ナグク島から更に西に数千km行った先に島を発見しそこを拠点にしていることを知らされる。
この島を中継地点にできれば領土獲得競争を圧倒的優位に進められるだろう。
現在、この島を現在物資を集積し拠点化をすすめる傍ら、更にその先を目指して調査艦隊も行っているらしい。
しかし、ここで大きな問題が浮かび上がってきたそうだ。
実は更に西に進んだ調査船が一隻も戻ってこないらしい。
一切戻らないので原因は全く解っていない。
私が乗ってきた不釣り合いなほど重武装の大艦隊を投入したのもそれが理由だったのだ。
話し合いの中で他の列強の艦隊に叩き潰されたとか悪天候で沈んでしまったなど様々意見が飛び交った。
他の列強が1番乗りしているなら確かに迎撃されて迂闊には近づけないだろうし、航海に支障をきたす気候なら考えられなくもない。
しかし、1隻も帰らないというのは出来過ぎている。
皆もそれを思ったのかなかなかその案に同意はしなかった。
私はというともう何が起きてもおかしくないことに言い知れぬ不安と後悔が頭の中を駆け巡っていた。
もっと後に来ても良かったな、と少しため息をついた。
結局、堂々巡りの議論で終わりその日の軍議は終わる。
軍議が行われた館から出ると外はすっかり暗くなっていた。
外には聞いたことがない虫の鳴き声がしており、遠くにはホタルのような光がちらほら見える。
寝るには早く、ちょうどいいので昆虫や植生の観察を行ってみようと考えた。
大の大人が虫で遊ぶのかとも見えるが、これで本を書けたら立派な仕事の一環だと思う。
虫や草木を追いながら開けた野原に出ると海が見え、水平線がとても薄暗いながら青く光っていた。
多分青い太陽の光なのだろう。
地元の人はンガンテと呼び、聖なる光として崇めているそうだ。
ここの文明レベルは高くないので海を渡ってアレの正体を突き止めようという行動まではいかなかたのだろう。
今まで青い太陽が見つからなかったのも頷ける。
よく見ると海側の岩の上に人が座っていた。
ナグク語で奴隷と会話するための語彙を少し頭にれているものの頼りないので辞書として使うノートをカバンから出してそれを片手に近づく。
遊びではなと思いつつも標本集めに興奮した挙句、勢いで地元住民に接触しようとしている頃には子供のようだった。
近づくといわゆる褐色のドワーフであるナグク人ではない女性だった
しかも私の知っている限り見たことがない特徴を持つ人種であった。
近づいてきたのに困惑している私を女性は不思議そうに眺めたうえで尋ねる。
「兵隊さまでしょうか?」
確かに地元民ではない私を進駐軍の類に見るのは当然だ。
「わたし、旅人です。本を書いてます。この土地のこと聞きたいです。」
片言ののナグク語で自己紹介した。
身なりから兵隊ではないことを確認した彼女は少し警戒心を解いたのかいろいろ話してくれた。
地元の文化や伝承、地理や動植物などいろいろネタになりそうなことを嫌な顔どころか、むしろ嬉しそうに話す。
彼女はルナという女性で、ヘレンシア軍が駐留するナガトから少し離れた集落に住んでいるらしい。
この野原にいたのも集落の必需品をナガトで仕入れ帰る道すがらここで夜空を眺めていたそうだ。
単刀直入で彼女の家族やルーツについて聞いてみる。
「あなたの家族、どこからナグクヘ?」
聞いてみたくなるくらい彼女は珍しい人種だった。
しかし、彼女は少し困った様子なってしまったので、軽く謝って別の話題に移った。
どう見てもナグク人ではない彼女にはそのての苦労があることを察する。
時間もだいぶたってきたのでお開きの流れになるが、会話からとてもお淑やかで不思議な印象を与える彼女に興味が湧いてきており、また会いたいことを伝えて今日は宿に帰ることにした。
翌朝、いつものように眠たげに起きることはなかった。
夜明けとともに爆音が鳴り響き始めたからだ。
布団から飛び出た私が目にしたのは艦隊戦だった。
遠くの水平線近くに見たことがない艦隊が戦列をなしてヘレンシア艦隊に肉薄してる。
ヘレンシア艦隊は停泊中からの襲撃で体制を立て直すのに躍起になっている。
まさか全滅してしまうのかと驚きと困惑で頭がいっぱいになる。
ただ敵艦隊はヘレンシア艦隊の中央を突破してそのまま遠ざかって行く。
会戦時間は非常に短くあっけない終わり方だった。
優勢だったのになんで引き上げたのか、最初はわからなかった。
しかし、よく考えると敵艦隊は数が少なく小さい艦が多かった。
戦術も考慮していくとおそらくこうなのだろう。
敵は大艦隊が控えていることを知らず定時攻撃に来て、大艦隊がいることを確認。
ただヘレンシア側の体制が全く整っていないことをを見計らい、中央突破して少しでもヘレンシア海軍を削ってそのままスピードに乗って逃げ切ることを考えた。
確かに敵が取りえる良解と言える。
宿から黒煙が立ち上る海を見ながら、私は用兵に興味を持ち始めていた。