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不愛想なクラスメイト

 彼がわたしたちから五メートルほど離れたところで後方から駆けて来た同じ学校の生徒に話しかけられていた。真一もその生徒に笑顔で応える。友達なのだろうか。友達は決して少ないタイプではないだろう。


「弟が失礼なことを言いませんでしたか?」


 わたしは視線を由紀に向けた。彼女は真っ直ぐな視線をわたしに向ける。彼女は肩をすくめ、苦笑いを浮かべていた。


「ああいう人懐こい性格なので。悪い子じゃないと思うのですが」


 わたしは由紀の言葉に笑顔で応える。


「道に迷っていたのを助けて貰ったから感謝しているくらいです」


「良かった。まずは校長室ですよね。参りましょうか」


 由紀が歩くと彼女の細い髪の毛がふわりと揺れた。凛とした口調で話すのに冷たい印象を与えないのは彼女の笑顔と、柔らかそうな髪の毛のお陰なのかもしれないな。


 わたしは早歩きで歩く由紀の後を追った。



 わたしたちが校長室の前に行くと、由紀はわたしにその場で待つように言い残し、中に入っていった。


 職員室の傍だからか生徒や教師がしきりにわたしの前を通る。制服もこの学校のものを用意したし、好奇心に溢れた目で見られることもなかったが、彼らと目が合うことはなんとなく避けたかった。わたしは視線の向ける先に困り、天井に目を向けた。


「お前、何組?」


 突然呼びかけられ、わたしは声のしたほうを見る。するとそこには花火大会の日、わたしを送ってくれた男の人が立っていた。彼も同じ学校なのだろう。


「まだ分からないけど」

「多分同じクラスだよ。うちのクラスに転校生が来るって話になっているから」


 表情を変えずに淡々と言葉を続けた。わたしは彼の様子を見て、高宮真一と間逆のタイプだとつくづく感じた。わたしもあまり話すのが好きでないからか、話をしない相手との会話では言葉に困ってしまっていた。

 彼はわたしをじっと見ている。その視線がわたしに次の言葉を促しているようだ。


 何を言おう。まずは挨拶がいいんだろうか。


「よろしくお願いします」


 わたしは精一杯の笑顔を浮かべ、そう告げる。出来ればこれで次の会話が続いてくれれば良いのにといった願望を含んでいた。彼の口が動き、彼が何か言うのではないかと感じたときだ。


「三島さん」


 わたしの耳に凛とした声が届いた。だが、その口調は先ほどの高宮真一やわたしと話をしたときとは異なり、感情が篭っているように感じられた。


「ああ、久しぶり」


 淡々とした口調で由紀に話しかける。無表情の彼と対照的に由紀は頬を赤めて嬉しそうだった。由紀はこの男に好意を持っているのだろうか。


 三島と呼ばれた男はじゃ、と言い残すと廊下をゆっくりとした足取りで歩いて行った。


「知り合いなの?」


 わたしの言葉に由紀は笑顔を浮かべた。しっかりとした優等生のような印象とは一変し、この子にもこのような表情ができるのかという普通の女の子の顔だった。


「わたしと真一の幼馴染です」


 わたしには幼馴染というものがいなかったので羨ましい気がした。同じ小学校に通っている人はいたが、わたしは人に壁を作る人間だったからかもしれない。学校が変わっても交友関係が続くことはなかった。


「クラスは三年二組だそうです。担任の先生は柴田先生という男性の先生ですよ。中に入ってきてほしいそうです。すぐに先生も来ると思います。わたしは先に教室に行きますね」


 わたしがお礼を言うと、由紀はペコリと頭を下げて教室に向かっていった。


 わたしが中に入ろうとすると、長身の男性に声をかけられた。


「君が藤田さんか。僕が担任の柴田亮大です」


 彼は人懐こい笑顔を浮かべた。


 わたしは彼と中に入った。校長先生から話を聞き、彼と一緒に教室に向かうことになった。わたしが教室の中に入ってくると、人の視線が向けられているのが分かった。そんな視線を直視できないでいた。


 名前と以前通っていた高校の名前を告げると、柴田先生はわたしに後ろから二番目の空いた席に座るように告げた。持っていた荷物を抱えたままその席に座ると、隣の席を見て思わず声を上げそうになる。


 隣に座っていたのは三島だった。同じクラスというだけでなく、隣の席になるとは奇妙な縁だと自分で揶揄したくなった。


 ホームルームが終わると担任の先生は教室を出て行き、静まり返った教室が一気に騒がしくなった。わたしは隣に座っている三島に話しかけることにした。


「一週間の授業科目を教えて欲しいのだけど」


 三島はわたしを三秒間見つめると、わたしから目を逸らす。自分の生徒手帳を差し出した。


「今日は始業式のみで、明日は一日掛けてテスト」

「ありがとう」


 三島の手帳に書き写された時間割をノートに書き写す。そして、彼に手帳を返した。


 そのとき彼の名前と誕生日がチラッと見えた。そこには三島将という名と、三月十五日生書かれていた。三島は無表情でその手帳を受け取った。


 鞄を閉じたとき、わたしの体に二本の影が重なり合う。顔を上げると、そこには二人の女性が立っていた。彼女たちはわたしと目が合うと笑みを浮かべる。一人は小柄な子で髪の毛が短く、もう一人は隣に居る子よりも頭半分ほど背が高く肩の下まである髪の毛を伸ばしていた。


「藤田さん、初めまして。わたしは中田真理」


 小柄な女の子が親しげに話しかけてきた。


「わたしは西岡真衣」


 そう言ったのは長身の女の子だった。彼女は強張った笑みを浮かべると言葉を続けた。


「今朝、真一くんと一緒にいたけど、知り合い?」


 今朝一緒に居るのを見たのだろうか。わたしはその言葉に首を横に振った。


「道を案内してもらったの」


「やっぱり。真一くん優しいし」


 西岡真衣と名乗った少女は安心したのか、強張っていた顔が突然笑顔になった。彼女の表情を見て、真一に好意を持っているのではないかという気がした。


 三島は席を立つと、そのまま教室を出て行った。


「この学校で独り身の人間で一番格好良いのは真一くんだから、彼人気あるのよ。優しいけど誰とも付き合わないし。三島くんも格好良いけど彼には高宮さんが居るからね」


「高宮さんって高宮由紀さん?」


 わたしの言葉に中田真理が頷くと、身を乗り出して話かけてきた。彼女はため息混じりにこう言った。


「あんなに可愛い子にはかなわないよね。お嬢様だし」


 わたしはどう返していいかわからず、ただ会釈していた。



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