墓参りと新たな決意
翌日、わたしは祖母とともお寺に行くことにした。母親の遺骨を引き取ってもらうためだ。
祖母はお寺の人と話があるらしく、わたしだけ外にあるお墓にお参りすることにした。祖母はわたしにお墓の場所を教えるとお寺に戻っていく。
わたしは墓石も前で両手を合わせると目を閉じた。「初めまして」というご先祖への挨拶とともに、母への言葉を紡ぎ出した。
「わたし、この町で頑張るから」
わたしは目を細め、右手を右胸に当てた。母の言葉は聞こえないが、彼女はわたしの決断を後押ししてくれるだろうという自負があった。
「ほのかちゃん」
呼び止められ、振り向く。そこには千恵子さんが立っていた。彼女は白のシャツに黒のパンツを履いていた。墓掃除をしていたのか、箒とちりとりを手にしていた。
「お墓の掃除をしに来たのよ。ほのかちゃんはお母さんをお墓に入れるために来たの?」
わたしは千恵子さんの言葉に頷いた。
お墓に目を向けた。お墓は良く掃除され、花も飾られていたが、塵が被っていた。
「わたしも掃除しようかな」
千恵子さんは持っていた箒とちりとりをわたしに差し出した。
「これ使って。わたしは使い終わったところだから。わたしも手伝わせてもらって良いかしら?」
千恵子さんの好意を素直に受け入れることになり、一緒に掃除をすることになった。
「ここの生活はどう?」
わたしが真っ先に思い出したのは花火大会の出来事だった。見知らぬ二人と一緒に花火を見て、家まで送ってもらった。その人はわたしのことを知っているようだった。だが、千恵子さんにも祖母にも余計な心配を掛けさせないために黙っていた。
「街灯が少ないのがびっくりしたけど、静かで良いところですね」
わたしの言葉に千恵子さんは笑みを浮かべていた。
「気に入ってもらえたみたいで良かった。ここは少し不便なところだからね。都会みたいに人は人、自分は自分という考え方と違って人のことに干渉してくる人間も沢山いる。そういう人たちは気にしないのが一番よ」
わたしは千恵子さんの言葉に頷いた。わたしの性格上気にしないのは難しい気はしたが、出来るだけそう勤めるしかないのだろう。わたしはこの町で過ごすことを選んだのだから。
「千恵子さん」
祖母の声が聞こえてきた。話が終わったのだろう。祖母が先ほどまで持っていた紙袋はなかった。祖母は千恵子を見ると笑顔を浮かべていた。
「お元気そうでなりよりです。わたし、車で来ているので送りますよ」
「いつも悪いね」
祖母は掃除の終わった墓の前で身をかがめると、両手を合わせ何かを祈っているようだった。祖母は今、母親のことを思い出しているのではないか、そんな気がした。
高校への入学手続きは直ぐに終わった。編入試験も問題なくパスし、母や千恵子さんの通っていた高校に入ることが決まり、新学期が始まるのを待つだけとなっていた。