母の涙
わたしは不意に目を覚ました。隣の布団を見ると、そこに寝ているはずの母親の姿はなかった。わたしは枕元に置いてあった時計を手元に引き寄せ、時間を確認する。時刻は一時を指し示していた。
どうしたのだろう。素朴な疑問を感じ、わたしは布団から出た。襖を開けようとしたときだった。襖の向こうから鼻をすするような音が聞こえた。わたしはその音を聞き、心拍数が自然と早くなっていく。
わたしは迷った結果、襖を少しだけ開けて隣の部屋を覗いてみることにした。わたしは人差し指ほどの幅だけを開け、隣の部屋を覗く。
わたしの目に飛び込んできたのは机の上にうつ伏せになっている母親の姿だった。母親の肩は小刻みに震えていた。泣いているようだった。
その姿を見て、襖を閉じた。何だか見てはいけないようなものを見てしまった気がしたからだ。
布団の中に戻ったが、目の奥が熱く眠ることができなかった。今まで母親が泣いているところなど見たことがなかったからだ。
それからどれくらいの時間が経っただろう。隣の部屋から聞こえていた物音が突然止んだ。急いで起き上がり、隣の部屋を覗いた。
だが、次に聞こえてきたのは母親の寝息だった。わたしはその寝息に胸を撫で下ろし、床に落ちていたボールペンを拾い、テーブルの上に乗せようと視線をテーブルに向けたときだった。
母親の腕の下には何枚かの写真に手紙、その上に重ねるようにして母親の字で書かれた手紙があった。
わたしは写真を一枚抜き取り、写真を眺めた。そこには四人の人が被写体となっており、母親と同じくらいの男女と、その子供と思われる男の子と女の子の写真だった。わたしと同じくらいの年だろう。
その子供は顔立ちが良く似ており、双子か良く似た兄弟だった。わたしは眠っている母親に目を向けた。目元には薄っすらと涙が浮かんでいる。その母親の涙を見て、わたしの胸が鈍い痛みを感じていた。
母はこの写真を見ていて泣いていたのだろうか。
母親の友達なのだろうか。わたしはこの人たちに一度も会ったこともない。だから、それが誰か分からなかった。