8話:アラン
あれから片付けを終えたフェイトはリーナに従って冒険者ギルドへ来ていた。
久しぶりにやって来た冒険者ギルドは昼頃だという事もあって、多くの冒険者で賑わっていた。
フェイトはこの煩雑とした雰囲気を懐かしく思いながらリーナに問いかける。
「それでリーナさんの言うパーティーメンバー候補の人ってどの人なんですか?」
現在フェイトが考えているその初心者の人物像は身長180㎝を超え、背中に巨大な戦斧を担いでいる大男だ。
レベルも高く、歴戦の雰囲気をを醸し出していると想像している。
…………自分で想像しててなんだが、かなり怖いな。
そ思わずブルッと震えた体を叱咤しながらフェイトはリーナを見る。
リーナはフェイトの言葉を聞いてギルド内をキョロキョロと見渡すと、何かを見つけた様にある部分を指差す。
「あ、あの人です!あの人がフェイトさんとパーティを組みたいと言った方です!」
その言葉にフェイトはリーナが指差した方向を見る。
リーナが指差した先には、テーブルに座っている白い髪をした少年らしき人影があった。
ーーあれが、一人でビッグベアを倒した新人?
フェイトがその姿に不思議に思っていると、フェイト達の視線に気付いたのか、白髪の少年がこちらを振り向き、そして寄ってくる。
「リーナさん、その人がさっき言ってたフェイトさんですか?」
此処に着くなりそう言ってきた白髪の少年は、なんというか予想とは違い小さかった。
年はフェイトより2つか3つ下だろう。
男にしては長い髪や、軽装な防具から中性的な雰囲気を持っている。
人を見た目で判断してはいけないというが、本当にこの人が一人でビッグベアを倒したのかフェイトは疑問に思ってしまう。
そんなフェイトを他所にリーナは白髪の少年に近付きフェイトを指差す。
「はい!この人が現在商人を掛け持ちでやっている冒険者フェイトさんです!フェイトさん此方が今回フェイトさんにパーティーメンバー候補として紹介するアランさんです!」
そしてフェイトにも少年を紹介する。
「間違ってなくて良かったよ。僕はアラン。アラン・リールだよ。気軽にアランって呼んで欲しいな」
「お、おう。俺はフェイト。フェイト・エラです。俺も出来ればフェイトと呼んでほしい、です」
「別にタメ口で構わないよ。僕だってそうだし、フェイトは僕よりも年上でしょ。ならタメ口でも普通だよ」
そう言って手を差し出してくるアランに、戸惑いながらもフェイトは手を握り返した。
そして冒険者にしては随分と柔らかい感触に驚き、アランを目を丸くして見てしまう。
アランはそんなフェイトに気付いていないのか笑顔でフェイトを見ていた。
「それじゃ、行こうか」
「え、何処に?」
手を離し、突然そんな事を言い出したアランにフェイトは思わず怪訝な声を出してしまう。
ちょっと失礼な態度を取ってしまったと後悔するフェイトに、アランは気にしてないと言うような笑み浮かべ続け、
「飯屋だよ。パーティーの件もそうだし、個人的にも君にちょっと興味あるんだよね。昼時だし、ご飯食べながら話そう」
ギルドの近くにある飯屋を指差した。
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この冒険者ギルドの近くにある飯屋は昼時になると多くの人で賑わっている。
主な客は冒険者だが、普通の町人もやって来る。この街で人気のお店の一つだ。
そんな場所にフェイト達三人はいた。
そう、二人ではなく三人だ。
フェイトは何故か一緒に席に座っているもう一人にジト目を向ける。
「…………なんでリーナさんもいるんですか?仕事はどうしたんですか?」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ、フェイトさん。パーティーを組んでも組まなくても私が一緒にいた方がその後の処理は楽ですよ。それに私もご飯食べたかったですし、仕事の方は休憩を取ってますから、そちらもご心配いりません」
「だってさ、それにご飯はみんなで食べた方が美味しいと思うよ」
フェイトはどうして居るのかわからないリーナにそう問いかけると、リーナとアランの両方からそう言われ、何も言えなくなる。
まぁ、居てくれた方が助かるのも事実なんだし、気にする事でもないか、と思ったフェイトの目の前に水の入った容器が置かれた。
「いらっしゃいませ、フェイトさんがウチにご飯を食べに来てくれるなんて珍しいですね」
フェイトは自分に降り注ぐ声に顔を上げると、そこには露店で鍋を買ってくれた看板娘がいた。
ーーそう言えばここはこの子の父親が経営している飯屋だったな。
そう思い出す。
看板娘の登場にちょっと驚いているフェイトに看板娘はニコニコとしながら話しかけて来る。
「そう言えば、フェイトさんが売ってくれたあの鍋とっても役立ってますよ!父さんも一度に大量に作れる事が出来るって喜んでいました!」
「あー、そう言ってもらえると嬉しいよ。壊れたりしたら言って欲しい、すぐに直しに来るから」
「本当ですか?ありがとうございます!」
そう言って頭を下げる看板娘に、フェイトは慌てながら頭を下げるのをやめて欲しいと言って顔を上げさせる。
余程使い続けない限り壊れないように作ったし、もし短期間で壊れたならそれはフェイトのミスだ。なら直しに行くのはある意味当然な事だろう。
「フェイトさんって、その子と知り合いなんですか?」
フェイト達の会話を聞いて不思議そうにそう言って来るリーナに、フェイトは首を縦に振る。
「まぁ、街中のクエストを受けてる時に色々ありまして、今ではこんな感じになりました」
「はい、そうなんです。なのにフェイトさんはここに殆ど食べに来てくれないんです、出来ればもう少しくらい来てくれても良いと思うんですけどね」
そう言ってフェイトは少し不満気な目を向けてくる看板娘から顔を逸らす。
「それに関しては、はい、すまないと思ってます。それよりいい加減メニューを決めましょう、リーナさんとアランはどれにしますか?」
フェイトは看板娘から逃げる様にメニュー表を二人に渡す。
フェイトからメニュー表を受け取った二人は、フェイトの態度を不思議に思いながらもメニュー表を見てどの料理にするか話し始めた。
その姿に話が逸らせたかな、とフェイトは安心した。
そして水の一気に飲み落ち着くと、自分もメニュー表を見始める。
メニュー表には様々な料理の名前が書かれていたが、特にこれといって好き嫌いがある訳じゃないフェイトはこの店おすすめ日替わりランチというのを頼んだ。
他の二人も同じ様にそれぞれ料理を頼むと、看板娘は厨房へ走って行った。
その姿を見届けたアランはフェイトの方を向き口を開く。
「彼女と君の間に何があったのか少し気になるけど、まぁ今は置いておこうか。さて、リーナさんから話は聞いたと思うけど僕は君とパーティーを組んでみたい。そう思っているんだけど、君はどう思ってる?」
若干首を傾げながらいきなり結論を聞いてくるアランに、フェイトはちょっと驚きながらも答える。
「そう…………だな。普通に嬉しいし、出来れば組みたいと思ってるよ。アランの言う通りリーナさんから話は聞いたけど、お前は一人でビッグベアを倒すことができるんだろ?そんなお前とパーティーを組めるなら、いちいち薬草や素材なんかを冒険者ギルドに依頼する必要が無くなるし、安全に自分達で採取する事も出来るからな」
「へぇ、それじゃーー」
「でも、だからこそわからないんだ。なんで俺なんかとパーティーを組もうとするのか」
そうフェイトが言うとアランは不思議そうに首を傾げる。
「それはどう言うことかな?」
「その言葉の通り、だな。自分で言うのもなんだけど、アランは俺とパーティーを組むメリットはまったくないだろ?難しいクエストなんかは受けられないって聞いたけど、それでもアランとならパーティーを組みたい奴はかなりいるはずだし、その中にはかなり好条件のパーティーもあると思う。なのになんで俺と組もうとするかが分からないんだ」
冒険者というものは命と隣り合わせの存在だ。だからこそ少しでも強い人物を仲間にして生存率を上げたいと思う奴等は多い。そんな奴等からしたらアランは是非とも仲間に入れたい奴だろう。
そう言うフェイトにアランは納得した表情をする。
「あー、成る程。そう言う事か。うーん、まぁいいか。実はここだけの話なんだけど僕はちょっと事情があってね、あまり街に来たことがないんだ。だから、という事もあるのかな。出来れば冒険者だけじゃなくて、商人とかも体験してみたいと思ってるんだ。だからパーティーを組んでもらったら僕にも商人の仕事を手伝わせて欲しい。組もうと思った理由はそんなところかな」
そう言ってくるアランをフェイトは見つめる。その表情からは嘘を付いているとは思えなかった。
「…………俺は今はマトモに店を持ってないし、これからは毎日街の色んなところを回って商売をするつもりなんだ。そうなると冒険者として一緒に活動するのはかなり少なくなると思うんだけど、それでもいいのか?」
「うん、構わないよ。それに今は事情があってあまり難しいクエストとかに行けないから、むしろ積極的に手伝わして欲しい。もちろん足手纏いにならないよう気もつけるからさ」
「いや、俺は冒険者としては足手纏いだから気にしないで欲しい。それに俺も商人になったのはついこの間だから、殆どアランと変わらないよ」
そう言ってフェイトとアランはお互いに笑い、リーナへ向き直る。
「リーナさん、後で俺とアランでパーティー申請の手続きをお願いします。名前は特に決めてませんが、良いですか?」
フェイトがそう言うとリーナは驚いたような声をだす。
「えっ!?いや、それは別に構いませんが、もういいんですか?もう少し話した方が」
「いえ、元々俺の方から頼み込みたいぐらいでしたし、なんとなくアランとは上手くやっていける、何故かそう感じました」
「あ、嬉しい事言ってくれるね。でも僕もなんとなくそう感じているよ。…………あ、そうだ。フェイトもう一度握手しようよ。今度は挨拶じゃなくて仲間になった証として」
そう言って冒険者ギルドにいた時と同じように手を差し出すアランに、フェイトも軽く照れ笑いながら手を差し出し握る。
「ああ、これからよろしくアラン」
「こちらこそよろしくね、フェイト」
こうしてフェイトとアランは今日パーティーを組んだ。