5話:店探し【前編】
初めて自分の作った商品を売った翌日、フェイトは商人ギルドへ来ていた。
これからの事を幾つか考えた上でペアさんに相談に乗ってもらおうと思ったからだ。
商人ギルドに入る。
相変わらず朝早くだと言うのに多くの商人らしき人達が掲示板の前に立ち、商人ギルドが朝一で張り出しだしている情報を見ていた。
俺もちゃんとした商人になったらあんな風になるのだろうか。
そんな事を想像しながらフェイトはキョロキョロとペアさんを探す。
そんなフェイトの様子が余りにも変だったのか、職員の一人が奥に消え代わりにペアが出て来た。
「はぁ、そんなにキョロキョロしなくても職員に尋ねれば直ぐに来ますよ」
ため息を吐きながらそう言ってペアがフェイトの近くにやって来る。
「昨日の今日でどうしたんですか?露店街に商品を売りに行ってたんじゃないんですか?」
「あー、その件なんですが。実は昨日で全部売り切れてしまって」
「え?…………って、あぁ、そうですよね。普通に考えればこれだけのスキルランクを持っているんだがら売れますよね。…ごほん、取り敢えず此処で話すような事でも無さそうなので此方へどうぞ」
ペアは途中ボソボソとなにやら呟いていたようだがその後すっ、と顔を上げると昨日話していたカウンターへフェイトを案内してくる。
フェイト達はカウンターに移動すると昨日と同じ様に座り、ペアがお茶を差し出して来る。
「粗茶ですが、どうぞ。それで本日は一体どういった要件で?」
「昨日ペアさんが言ってたじゃないですか。修行してみる道か、それとも最初から店を持つ道のどっちがいいかって。実は昨日露店で商品を買ってくれた知り合いの一人に、これは売れるって保証を頂きまして。なので最初から店を持つ方でやってみようと」
「ほぅ、それは良かったですね。初めからそんな高評価を得る事は珍しいですし、私としましてもフェイトさんの意見は尊重するつもりです。…………という事はつまり、今日はギルドに何処か良さそうな店の紹介をして貰いに来た、で合ってますか?」
「あ、はいそうです。もしくは土地だけでも紹介して貰えれば、と思いまして」
もし店を作るときは親方が手伝ってくれると言ってくれた事を思い出す。最悪自分一人で作るのも一つの手だろう、なんてフェイトは考える。
「成る程、それでフェイトさんの予算は如何程でしょうか?一括であれ分割であれ、それなりに予算は必要ですし。あ、それとも借りますか?一軒家なので割高ですがそれも有るには有りますが?」
「あー、予算は金貨4枚で分割、もしくは借りる方向でお願いします。一括はちょっと無理そうなので」
昨日商品が完売した事でフェイトは一時的に大量の金を手に入れる事が出来た。
けれどそれを適当に使う訳にもいかない。家賃代も残しておかないといけないし、お金が無くなると商品が作れなくなる。材料はまだ残して有るとはいえ無限じゃない。冒険者ギルドに依頼するなり、買いに行ったりしなくてはいけなくなる。
故に金貨4枚が限度になってくる。
「…………金貨4枚、ですか。まぁ、分割もしくは借りる方ならなんとかなるでしょう。少々お待ちください」
そう言ってペアは立ち上がり奥に行き、しばらくして幾つかの書類を持ってくる。
「さて、行きましょうか」
「え?いや、何処に?」
「何処にって、フェイトさんの店になるかも知れない家にですよ。候補は複数有りますし、一応この書類にもその家の絵は描かれてますが、実際に見た方がフェイトさんとしても分かりやすくて良いでしょう?」
「た、確かに」
ペアさんが言う通りだ、と思った。実際に目で見ないと自分の店に合っているかどうか上手く判断できないだろうし、絵を見て判断した結果、現実の店を見て予想と違いました、では後々後悔する事になるだろう。
けれど急に来た俺にここまでしてくれて大丈夫なんだろうか?ペアさんも仕事があるはずなのに。
そんなフェイトの気持ちが顔に出てたのかペアは苦笑する。
「仕事の事を心配しているなら大丈夫ですよ。今日はそこまで忙しい案件がある訳でもないですし、他の仕事も明日やれば大丈夫ですので安心してください。それでは行けましょうか、私について来てください」
そう言ってギルドの玄関へ向かうペアにフェイトは急いで立ち上がり、後について行く。
ペアは商人ギルドを出ると、大通りをサクサクと迷う事なく突き進んで行く。
きっと今ペアさんの向かっている方向の先に1件目の家があるのだろう。
それにしても
「(き、気まずい。)」
大通りを歩きながらフェイトは心の中でそう呟く。
ギルドを出てから5分程経っただろう。
ペアさんが俺に早く家を見せようとしてくれているのはその態度でわかるし、それはとても嬉しく感じている。けど、なんというか、そう、気まずくて仕方ない。
フェイトはゆっくり体の中に溜まっている息を吐く。
今現在、フェイト達はお互い無言でひたすら目的地に向かってサクサクと進んでいる。
商人ギルドを出てから一言も話す事なく、ただ黙々と。
そうしているとフェイトはだんだん息がし辛くなって来ている事に気付く。
なんとかこの状況を変えたい、いや本当に。
そう意を決してフェイトはペアに話し掛ける。
「ぺ、ペアさん!」
「はい、どうかしまーー」
「ペアって名前とても良いですよね!」
「ーーは?」
ーー何やってんの、俺?
フェイトは辺りの空間が凍ったように感じた。
いや、確かに俺はこの無言の空気を変えたい、そう思った。それは間違いない。
けど、これは無いだろう。ほんとバカなのか俺?
もっと普通に休日何をしてるのか、とか好きな食べ物はなにか、とかそういう事から聞くべきだろう。
なんだよ、ペアって名前が良いですねって。
お前の頭の中の方がいいよ、なにも考えてなくて。
「あ、いや、ちょ、これは違くてーー」
「ふっ、ふふふ」
必死に言い訳をし始めるフェイトの前で、ペアが口を抑え肩を震わせている。
え、ペアさん笑ったの?これで?
そのじじつにフェイトは驚いて呆然としていると、ペアは落ち着いたのか口から手を離し此方を見てくる。
しかしその顔は今までより柔らかく見えるのはフェイトの勘違いだろうか?
「まさか、名前が良いなんて言われるのは初めてですよ」
「い、いやそれは」
「あら、嘘なんですか?それはちょっと悲しいですね」
「そういう訳じゃ無いんですけど」
慌ててしまうフェイトをペアは穏やかな顔で見る。
「私の名前の語源はペアライト石です」
「え?」
「私の名前の語源ですよ。名前が良いなんて初めて言ったフェイトさんに教えてあげようかと思って」
そう言ってまた薄く笑うペアをフェイトは素直に綺麗だなと思った。
「ペアライト石には静謐、幸運、そして優しさの意味があります。私のペアという名前はそうやって名付けられました。正直合わないと思っているんですけどね」
苦笑するペアにフェイトの口は自然と開く。
「そんな事ないと思いますよ、とても合っていると思います」
「…………どれに合っていると思いますか?」
ペアは何処か答えわかりきったような、自嘲気味な顔で問いかけてくる。
そんなの決まっているだろう。
「優しさです」
「えっ?」
ペアがフェイトの言葉に驚いた様に顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、てっきり静謐だと言われると思ったので」
「そうですか?もしかしたらそうかもしれませんが、俺からしたら優しさが一番合っていると思います。自分で言うのもなんですけど俺はどうにも常識が足りてない様です。自分の何処が可笑しいかもわかりませんが、周りの人は俺をそんな風に見ています。当然その中には俺に近付きたくないっていう人もいますし、バカにして来る人もいます」
そう、フェイトのこの言葉に嘘偽りはない。
フェイト自身この1年間で自分が常識とズレている事はなんとなくわかっていた。
だけど、それでもわからないのだ。どうして、自分が可笑しいのか。
「そんな中でペアさんだけでした。俺が可笑しい事に叫んでくれたのは。あの初めて会った日、俺はわからないという気持ちと、ちょっと嬉しいという気持ちを感じていたんです。そんな風に一生懸命に可笑しいって言ってくれたのは初めてでしたから。だからこそペアさんは優しいと俺は思います」
「も、もう結構です。大丈夫ですから、フェイトさんの言いたい事は分かりましたから!」
そう言うとペアはフェイトから顔を背ける。
少し耳も赤くなっている。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
思った事を言っただけなんだが、何かやらかしただろうか?
フェイトは首を傾げた。
「ご、ごほん。そ、それよりも次はフェイトさんの名前の由来を教えてくれませんか?私だけというのも不公平ですし!」
「俺の名前の由来ですか?…………すいません、ちょっと知らないですね。俺の親は小さい時に死んだので」
「あ、そうなんですか。すいません、不躾な事を聞いてしまって」
「いえ、気にしないで下さい。俺から始めた事ですし」
そう言って空気がまた悪くなったのをフェイトは必死にフォローしながら歩き続ける。
ここでフェイトは一つペアさんに謝らないといけない事がある。
確かにフェイトの親は幼い頃に死んだ。それは間違いない。
けど名前の由来を聞いたことがないというのは嘘である。
フェイトの親は言った。
フェイク(偽物)
それがフェイトの名前の由来だと。
そしてフェイトは今でもその言葉の真意を分からないでいる。
次話はまだ書いてないので投稿日は未定です。
なるべく早く投稿します
※活動報告で連絡するといいとの助言を頂きましたのでこれからはそうしようと思います