4話:初めての商売
「おお、ここが露店街か。初めて来るけど思ったより活気あるな」
あの後、商人ギルドから出たフェイトは家に帰り必要のない物や、クエストなんかで使っていた剣やポーションを運び出した。
商人になったら売ろうと思っていたものもこの際だと運び出し売ることにしたのだ。
空間スキルのお陰で殆どの物を持ってこれたフェイトは街の人から露店街の場所を教えて貰いやって来た。
そして着いたそこは思わず呟いてしまう程、活気に溢れていた。
「へい、らっしゃい!おっ、お客さんこれに目をつけるなんて、いい目してるな!これは遠くの親戚のところで採れた鉱石を加工したもんだ。彼女への贈り物には最適な代物だろうさ!え、彼女じゃなくて彼氏?お、おぉそうか」
「あら、この木のお皿綺麗じゃない。買おうかしら。お幾ら?はぁ!?銀貨2枚!?高すぎるわよ!もう少しまけなさいよ!え、美しいお嬢さんですって?あらやだ、お上手。全部頂くわ」
「うお、なんだこの怪しげな色をした果物!?こんなの食べれるのか?え、なになにこれは夜のお供に使う代物だと?…………二つくれ(ボソッ)」
一部怪しげな店もあるようだが総じて賑わっていた。
商人ギルドの時とはまた違った喧騒にフェイトは心を躍らせながら何処か空いている場所がないか探す。
露店街では原則通路以外の空いている場所は自由に使って良いことになっている。
「お、そこにいるのはフェイトじゃねぇか!どうしたここに居るのを見るのは初めてじゃねぇか!」
何処か空いている場所がないかとキョロキョロとしていると、フェイトの背後から声を掛けられた。
振り返ると、そこにはシートの上で小物などを売っている大男がいた。
「あれ、親方じゃないですか。どうしたんですか、こんなところで?」
この大男ーー通称親方は、フェイトが街中で土木のクエストを受けた時の依頼人であった人物だ。そして作業をしている内に仲が良くなり何度かご飯や酒を飲み交わす間柄になった。
「あー、実は時々こうやって自分の作った作品を売りに来ているわけよ。お客とも触れ合って感想を言ってもらえたりする数少ない機会だしな」
そう言って照れた様子を見せる親方の商品をフェイトは見る。
木で作られた小さな猫や犬、兎などの動物や、怪我をしない様に丸く作られた小物入れなど子供や女性受けしそうな物が立ち並んでいた。実際何人かの子供や女性が親方の商品を興味深く見たり触ったりしている。
相変わらず大きい身体に似合わず繊細な手付きをしているな、とフェイトは思った。
「そんな事よりも今日はどうしたよ?買い物か?ならオススメの店教えてやんよ」
「あー、それはありがたいんですが実は今日は買いではなく売りに来たんですよ」
「売りだと?ほぅ、お前が何かを売るなんて珍しいじゃねえか。土木の依頼であれだけの技術を見せたくせに、冒険者だって言うんだから勿体無いと思ってたんだよ。よし、見に行こう。何処でやってるんだ?」
「ちょうど今空いてる場所がないか探しているところです。今来たばかりなので」
「マジか、今の時間だと殆ど場所は空いてないぞ。空いてたとしても余り人気がないだろうしな…………よし、フェイト。此処を貸してやる、ここで売るといい」
そう言うなり親方はシートの上の物を片付け始めた。
「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ親方!ここ親方の場所でしょう!しかも此処パッと見ただけでもかなり良い位置取りですし」
「構わねぇよ、前に手伝ってくれたお礼だ。あの時はお前のお陰で間に合わないと思ってた作業が一気に進んで、最後には余裕を持って終わらせられたんだ。これぐらいの事はさせてくれ。それにどうせ趣味でやってる様なもんだしな」
そう言って親方は商品を片付けながら、名残惜しそうに見つめていた子供や女性に、目的の物であろう商品を渡し始める。子供や女性達は驚いた顔をして、それでもお金を渡そうとするが親方首を横に振り「俺が無理矢理渡したんだ、気にせず貰ってくれ」と笑顔でいい、片付けを進める。女性や子供はその言葉に笑顔になり親方に次々とお礼を言って去っていった。
ーーやばい、親方イケメンすぎる。
「よし、片付け終了だ。ほらフェイト此処使いな」
親方が片付けを終え、フェイトに場所を空けてくれる。これ以上遠慮するというのも親方に失礼になる。
そう思ったフェイトは親方がしたようにシートを張り、空間から次々と商品を出す。
「おお、相変わらず便利だなそれ」
親方がそんな事を呟いているのを聞きながらフェイトは全ての商品を並べ終える。
「ふぅ、これで良し。親方本当にありがとうございます」
「いいってことよ、それよりも早速見せて貰ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
そう言うと親方は直ぐに土木類に関係するものを見始める。それが親方の仕事に関係するものだと言ってないのに、すぐさま察する親方の直感は流石だと思った。
「ん、お?こりゃなんだ?木の箱に刃がついているぞ」
「あぁ、それは建築スキルで色々作っているうちに思いついた物です。名前は無いんですが、木を薄く切る事で綺麗な面にする事が出来るんですよ」
「ほぉ、そりゃ凄いな!ちょっと試して見てもいいか?」
「構いませんよ」
そう言うと親方は何処からか木材を取り出し構える。
「ええっと、こりゃ」
「あ、そうです。そうやって刃のほうを下にして、そうそうそんな感じで上から下に使っていきます」
「お、おお!こりゃすげぇな!こんなに薄く切れるなんて思ってなかったぜ!これが有れば簡単に綺麗な家や物が作れるじゃねぇか!おい、フェイト!これウチの奴等全員分作れねぇか?」
「ぜ、全員分ですか?…………じ、時間がかかりますが、それでいいなら?」
「構わねぇよ!作ってくれるだけ有難いもんだ!よしこれ一つだけでも先に買って帰ってやろう、きっと驚くぞあいつ等!これ幾らだフェイト?」
「あー、実はちょっと高く設定してて…………銀貨2枚なんですが」
「銀貨2枚?バッカ!めちゃくちゃ安いじゃねぇか!こんなの今この世界でここにしかない物だぞ!もっと高くても可笑しくねぇよ!」
そう言ってくる親方に驚く。
ぼったくりと言われるつもりで高くし、少しずつ下げるつもりだったのだが。
「取り敢えず一つ銀貨5枚で払わして貰うぞ、後ウチのメンバー50人分を合わせて、えーと、何枚だフェイト?」
計算しきれずそう聞いてくる親方に内心それでいいのかとため息を吐く。
「合計で255万セルです」
「おお、相変わらず早いな。えっとそれだと金貨2枚、大銀貨2枚、銀貨5枚だな。ほらよ金だ」
そう言って迷う事なくちょうどぴったりで払ってくる親方にフェイトは驚く。
「…………親方、先払いなんてして逃げられたらどうするんですか?それに嘘つかれてるかもしれませんよ?」
「ん?あぁ、大丈夫だろ、お前はそんな奴じゃないって知ってるからな!」
そう言ってニカッと笑う親方は本当にイケメンだと思った。
そうしていると、フェイトと親方の会話が耳に入ったのか何人か人がフェイトの店の前に集まって来た。
「失礼、商品を見せて貰っても、ってフェイト君?ここは君の露店なのかい?」
「おお、という事はフェイトのポーションが売ってるのか。こりゃ有難いわい、フェイトのポーションは普通の店のと違って苦味は無いし効果も強いからなぁ、よし10本くれ!」
「あ、横からはずるいですよ!フェイト君私にもポーションを売ってください。前、徹夜などをした朝にこれを飲んだら一気に疲れが取れたんですよ。これからまた忙しくなるので私も10本ほど!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。しっかりと売りますから!」
知り合いの学者や、衛兵の隊長。
「あら、フェイトちゃんじゃない。ここでお店出しているの?…………へぇ、このネックレスいい出来じゃない。フェイトちゃんが作ったの?」
「は、はいそうですけど」
「いい出来ね、買わせて貰うわ。えっと…………銀貨7枚?かなりいい出来なのにずいぶん安いのね」
服屋の女主人。
「あれ、フェイトさん?お店出してるの?…………この鍋、底が深くて大量にお料理が作れそうだね。家で使いそう!これ下さいな!」
飯屋の看板娘など、そのほとんどがこれまでフェイトが受けてきたクエストなんかを通じて知り合った人達だった。
勿論、それ以外の人達も来ていた。
「失礼、主人。この剣を見せて貰っても、お前は確かアルハンブラの。…………まぁ、なんでここにいるか聞かない方がいいか。この剣見せて貰ってもいいか?」
意外だったのは冒険者らしき人も来ていた事だ。てっきり冒険者達はこういうところに来ないとフェイトは思っていたんだが。
フェイトが頷くと冒険者らしき人(ほぼ確定)は剣を手に取り見始める。
「ほう、これは軽くて振りやすいそうだな。触れた感じ軽量型なのに耐久力も有りそうだし、すまん、少しだけ振らせて貰ってもいいか?」
「あ、はい、どうぞ。他の人の迷惑にならなければ」
「ありがとう」
そう言って冒険者は近くの誰もいない場所で数度剣を振るうと少しの間剣を眺めると帰って来る。
「これは良いな、随分と手に馴染む。これを買おう。幾らだ?」
「えっと、大銀貨5枚になります」
「…………はぁ!?だ、大銀貨5枚だと!?この剣がか!?そりゃ幾ら何でも安すぎるだろう!これは普通の武器屋だったら金貨5枚は取られる代物だぞ!」
「いや、でもそれは俺のオリジナルの一つなんで。ちょっと沢山お金を取るのは気が引けるというか」
烈火のごとくそう言ってくる冒険者に怯えながらもフェイトはそう言うと、冒険者はいきなり勢いを無くし、驚きと呆れを混ぜたような顔をする。
「可笑しな奴だな、普通自分で作った物なら高めに売ると思うんだが。本当に大銀貨5枚で良いのか?」
「はい」
「はぁ、なんか俺の方が気が引けてくるぜ。ええと、確かフェイトだったな。俺はレイクだ。このお礼になんか依頼とか頼む時は俺に言いな、一回だけタダで引き受けてやるよ」
「えっ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「それはこっちのセリフなんだがなぁ」
そう呟くとレイクは頭を掻きながら大銀貨5枚を払い去って行く。
…………まさか剣まで売れるとは。これは予想外だ。
予想以上の売れ行きに、嬉しいという気持ちよりも驚きが勝り、複雑な気持ちになる。
そんなフェイトを未だ他の商品を眺めていた親方が不可解そうに見てきた。
「なぁ、フェイトよ。俺が言うのもなんだが、なんでこんなに安いんだ?材料費やらなんやら考えたら儲けなんて殆ど出ないだろ、これ?」
「え、いや、でも一応出てる事には変わりないですし、少し見ましたけど露店街の商品って安く売られているじゃないですか?それと同じつもりなんですが」
「バッカ、そう言うのは大体素人が作った物だったり、中古だったりするからだよ。ここだってプロが作った物だったり、新品だったら普通の店と同じくらいするぞ。お前みたいに安く売ってる奴はいねぇよ」
「いや、でも俺素人ですし」
「お前レベルで素人だって言うならこの街の多くの奴は素人だよ、もうちょい自分を認めてやれよ」
全く此奴って奴は、なんてブツブツ呟きながらの親方は商品に目を戻す。
ーーいや、でもこれでいいよな。儲けも出てるし。
心に何かが引っかかるのを感じながらもフェイトは商品を売りに戻る。
それから1時間後。
「うそだろ?全部持って来たのに…………完売だと」
何もなくなったシートの上を見ながらフェイトは呆然と呟く。
信じられなかった。正直3割ぐらい売れれば御の字だと思っていたのに、蓋を開けてみれば全部売れるとは。
その現実が受け入れられなくてフェイトは自らの頬を引っ張るが、痛いだけで変わらない。
「お、予想通り完売か。良かったなじゃねぇかフェイト」
それでもなお呆然としていると、途中で何処かに行っていた親方がフェイトの肩を叩いてくる。
「お、親方!俺弱いんですから力入れて叩かないで下さいよ!」
「おっ、そうだったな。わりぃわりぃ」
片手でポーズを取りながら謝ってくる親方にフェイトはそれ以上何も言えなくなり口を閉ざす。
「にしても随分早かったな、まだ一時間ちょっとだろ?もうちょっと掛かると思ってたんだが」
「いえ、俺からしたら完売した事が驚きですよ。というか今でも現実だと受け入れられていません。」
「何言ってやがる。ここの連中はな、中古なんかを毎日のように見てやがるからな、良い物かどうかなんてすぐ見分けちまうんだよ。そんな連中がお前の商品を見て買わない訳ないだろ」
異常なほど安いしな。
そう言う親方にフェイトは困惑する。
もしかして
「…………親方、もしかして俺の商品って良い出来なんですか?」
「は?ほんと何言ってんだお前?良い商品だから売れて完売になったんだろ?当たり前じゃねぇか」
バカを見るような目で俺を見てくる親方を見てようやく自分の商品が良い物なんだと理解する。
「…………もう一つ聞いても良いですか、親方?」
「ん?これ以上変な事言うなよ」
「いえ、例えばの話なんですが、これ等を普通の店で売っても売れると思いますか?」
「そりゃ売れるだろうさ、あれだけの品揃えだ。ポーションだけでも毎日多くの人が来るだろうし、他の道具もあるんだ。そりゃ賑わうだろうな」
そう断言する親方を見て自分の心の中でなにかが満たされるのをフェイトは感じた。
ーーこれは一体なんだ?
「って、普通の店?お前冒険者じゃなかったか?」
「あー、実は冒険者を辞めてはいないんですが、商人と兼業する事にしまして。ここに来る前に商人ギルドに加入して来たんです」
「ほぉ、って事はお前も自分の店を持つつもりか?」
「一応そのつもりです」
「そうか…………ちょっと心配だけど俺は応援してるぜ!店を作る時は俺達を頼りな!お前一人でも作れるだろうけど、俺達がいたらもっと早く作れるしな!お代はいらねぇからよ、じゃあな!」
そう言って露店街の出口へ帰っていく親方に、フェイトは自然と深々と頭を下げた。
そして親方の姿が露店街から消えたのを確認したフェイトは頭を上げ、なんとなく周りを見る。
周り露店は変わらず活気に溢れ賑わっていた。
そしてフェイトの目の前には、何も乗ってない青いシートだけが残っていた。
「…………俺も帰るか」
そう呟いてフェイトは後片付けを始めた。
本日の売り上げ金貨5枚、大銀貨7枚、銀貨3枚の、計573万セル。
セルとはお金の単位です。
詳しい事は明日上げるつもりの設定集に乗せて置きます。
参考にしてください。
※明日は設定集と第5話を6時と18時に上げます。
※後短編を消した方がいいという意見を貰いましたので短編を今年中をもって消したいと思います。読んでくださった人はありがとうございます。