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3話:ステータス

「さて、フェイトさん。これらの書類に記入をお願いします。商人ギルドに加入した人には全員書いてもらっている物なので」


ペアはそう言って二枚の紙をフェイトに渡す。


「あ、嘘は書かないでくださいね。後で調べますので結局バレてしまいますし」


そう警告してくるペアの言葉を聞きながらフェイトは書類を見る。


片方の書類は商人ギルドに加入した事を証明するために名前だけを記入すればいいもの。


もう片方は己のステータスを記入するものになっている。


フェイトは自分のステータスを書かないといけない事に少し嫌な気分になったが黙ってそのまま記入する。


「…はい、書き終わりました。これでいいですか?」


「ありがとうごさいます。少し見せてもらいますね…………え、なんですかこれ!?」


今まで冷静な態度を崩さなかったペアが驚いた声を出す。


それに驚き、なにかおかしな点でもあっただろうかと心配になりフェイトは自分のステータスをもう一度確認する。




フェイト・エラ(18)


Lv 21


MP 265/265


攻撃力 32


防御力 48


敏捷性 45


スキル 補助スキル

【 鑑定B 回復B 付与A 感知C 空間B 解体B】


生産系スキル

【建築C 鍛治B 調合B 製作B 料理B 加工C】




脳裏に浮かび上がるステータスを見て先程書いたのと変わらない事を確認したフェイトは内心ため息を吐く。


MPこそ毎日枯れるぐらいまで使ったお陰か平均的だが、その他は相変わらず戦闘スキルを得た10歳児にも劣るステータス値だ。恥ずかしいどころか情けなくなる。

やはりペアさんはこの貧弱なステータスか戦闘スキルが無いことに驚いたのだろうか?


そんな風にフェイトが考えているとペアは突如立ち上がり、丸い水晶の入った透明な箱を持ってくる。


「フェイトさん、失礼します」


ペアがそう言うと突然水晶が淡い光を放ちはじめる。

なんだ、と思って見ていると水晶に文字が浮かび上がった。


「…………うそ、まさか本当だったなんて」


ペアが呆然と呟く。

その言葉を聞いてようやくフェイトはこの水晶が先程ペアの言っていた調べる魔道具なんだと気付く。

おそらくこれは対象のステータスを測る鑑定と同じ効果を持つのだろう。


同時にやはりそう調べたくなるような事が書いてあると言う事だ。


「あの、何かおかしな点でもあったのでしょうか?…………やはり戦闘スキルがないことですか?」


「いえ、確かにそれも気になる点ではありますが、それ以上になんですかこのスキルの数は!?普通の人の数倍、しかもスキルランクがどれもCを超えてるじゃないですか!?」


ペアがフェイトに向かってそう叫ぶ。


ーーは?なに言ってんだこの人?

フェイトはそう思った。


「なんだそんな事ですか、別に大した事ではないでしょう。別に戦闘スキルが幾つもある訳じゃないですし。どれも補助系、生産系ですよ。そんなランクがあったところで大した意味を持ちません」


そう言うとペアはフェイトに何言ってんだ、というような怪訝な顔を向ける。


「…いえ、フェイトさん。普通これだけのスキル持っていたら戦闘スキルなんて無くてもなにも問題ないですよ?」


「ははは、なに言ってるんですかペアさん。戦闘スキルが無いんですよ。



その時点で問題しかないじゃないですか」



そう言うとペアは急に恐ろしい物を見る様な目でフェイトを見始める。


なぜそんな表情をするのだろうか?


それに彼女は本当に何を言ってるんだろう。戦闘系スキルが無くても問題ない?


そんな訳ない。


あったからこそフェイトは商人の道を選んだのだ。


「…………フェイトさん、貴方は自分が育った場所でどういう扱いを受けていたんですか?」


ペアさんが急に変な質問をしてくる。


「…………扱いですか。そうですね、やっぱり戦闘系スキルが無かったので村の中では役立たずだって言われて、よく殴られたりしてましたね。仕方ない事とはいえ正直辛かったです」


初めてスキル宿った時、戦闘系スキルが無いことに気付いた時の絶望と周りの大人達からの蔑んだ目は今でも忘れる事が出来ない。そしてこれからもフェイトは忘れる事はないだろう。


あの日からフェイトは役立たずと呼ばれる様になったのだ。


「…………フェイトさん、何度でも言います。戦闘系スキルが無くたって問題ありません。それどころかこれだけのスキルがあれば一角の商人になれますよ」


「いや、でも戦闘系スキルがないとーー」


「戦うのは誰かに任せればいいんです!自分を卑下するのをやめて下さい!」


ペアが耐えきれないとばかりに叫ぶ。


「ッ!失礼しました。急に叫んでしまい申し訳ありません。けれどフェイトさん、今すぐにとは言いません。そんな風に卑下する事だけはやめて下さい」


そう言って頭を下げるペアにフェイトは言葉を無くす。


戦闘系スキルが無い時点でフェイトが劣っているのは世間の常識だ。

なのになんでこの人はフェイトを庇うんだろうか?

フェイトはペアの姿を見て疑問に思ってしまう。


「…………話を戻しましょう。フェイトさんには様々な生産系スキルがあります。これだけあれば生産系の仕事ならどんな物でも直ぐに始められるでしょう。フェイトさんはどうするつもりですか?」


「え、あぁ、そうですね。実は情けない事にあまり考えていないんです。商人になりたいという気持ちが大きくて」


「そうなんですか、よろしければ私の方から二つの道を提示させてもらいますが、どうでしょう?」


「あ、お願いします」


「わかりました。では、一つ目は何処かの商会に入って修行する道です。実際に売り側としてのやり方などを学べますし、いい経験にもなります。しかし、時間が掛かるという欠点もあります。二つ目は最初から自分の店を持つ方法です。経営が上手くいかないリスクはありますが一つ目の方法よりも早く学べ、実際に自分の店を持つという実感も手に入ります。フェイトさんはどちらがいいですか?」


ペアが指を二本立てながら問いかける。

フェイト自身正直修行という道は考えつかなかったし、店を持つというのも自分にはまだ早いと思っていた。けれどペアから教えられそういう方法もあるにはあるのかと考え直す。


「出来れば最初から自分の店を持ちたいです。けれど、こう言ってはなんですけど自分の商品が売れるかどうかわからなくて。それこそ店を持ったところで売れなかったら悲惨ですし」


「それなら露天で実際に商品を売ってみるという方法がありますよ。一般の方でも参加料を払えば売ることが出来る露店街は多くの人が来ますし、生の声を聞くこともできますよ」


「本当ですか!それはいいですね。はい、そうしてみようかと思います」


そう言ってフェイトは参加料を払い椅子から立ち上がるとペアに頭を下げる。


「とりあえず露天で商品を売ってみてから後の事は考えようと思います。なんか色々と教えて頂きありがとうごさいます」


「ギルド職員として当然の事をしただけです。それよりも何かあればまた頼ってください。なんでも相談に乗りますよ」


「本当ですか!ありがとうごさいます!」


「なんだか放っておけませんからね」


そう言って笑うペアにフェイトは感謝し商人ギルドを出ようとする。


「フェイトさん!」


ギルドを出ようとしたフェイトに何故かペアが近付いてくる。


「はい、どうかしましたーー」


「ペア・ルーブル」


「か…………はい?」


ペアはフェイトの耳に口を寄せ、そっと言う。


「私の名前はペア・ルーブルです。本名ですよ。内緒にしてくださいね」


そう言うとさっさと離れていくペアをフェイトは呆然と見つめる。


「へ?」


そう呟いたフェイトは間抜けな姿をしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



今日は不思議な人にあった。

普通では考えられないようなスキルを持った青年、いや少年と言うべきだろうか。


商人ギルドの玄関ホールでオロオロと周りを見ていたのが気になってつい声を掛けてしまった。


ギルド加入希望者だと言うので、カウンターに案内し話を聞いてみるとまた不思議な少年だと思わせた。

誰もが持っている、それこそ私達商人ギルドの職員ですら持っている戦闘系スキルを持ってない事もそうだが、それ以上に、異常な数の補助系スキルと生産系スキルを持っていた。しかも一流と言っても過言ではないランクでだ。


これだけのスキルがあればこの街で一番の商人になる事も夢ではないのに、少年はどういう事か自分を卑下していた。

いや、違う。あれは卑下ではなくそれが当然だと考えているようだった。


戦闘系スキルがない、だからこそ生産系スキルや補助系スキルが多くあっても意味がない。

そんな感じだった。


はっきり言って異常だった。普通なら大喜びして調子づいても可笑しくないのに、そういう気持ちが一切感じられなかったからだ。


一体どんな環境で育ったらあんな風に育つのだろう。


そのせいか虐げられるのは仕方のない事だと言った少年に、思わず叫んでしまった。本当に私らしくもない。


だけど、そんな彼に興味を持ったのもまた事実だ。

だからこそ私の名前を教えたのだ。


「ペアさん、ギルド長がお呼びです。至急来るように、だそうです」


「ギルド長が?わかりました。直ぐに行きます」


ギルド職員の一人にそう伝えられギルド長室へ向かう。


フェイト・エラ


異常なスキルの数と質を持つにも関わらず、自分を卑下する少年。


あの不思議な少年を少しの間見守るのもいいだろう。

ギルド職員のペアとしてだけでなく、ペア・ルーブルという一個人としても。


不思議で興味を深い少年が脳裏に浮かび上がり、口許が緩むのを感じながらペアは父親であるギルド長に会いに階段を登った。



アラベスクです。

読んで頂きありがとうごさいます。

今回は短かったので夕方午後6時頃にもう一話投稿するつもりです!

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