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1話:始まりの日

とある森林の奥深く、木々が光を遮り薄暗くなったそこで青年ーーフェイト・エラは逃げ惑っていた。



無骨な棍棒が迫ってくる。

それを振るうのは全長1メートルにも満たない緑色の肌をしたモンスター ーーいわゆるゴブリンだ。


ゴブリンは何かを大声で喚きながらひたすらフェイトへ襲い掛かってくる。


フェイトは棍棒から逃げるように体を横に投げ出す。

なりふり構わず体を投げ出し、服に土が付く感触と少しの衝撃を感じながらもすぐさま体勢を立て直しゴブリンを視界に戻す。


そんな必死に逃げ惑うフェイトをゴブリンは汚く嘲笑う。


その姿にイラっとしたフェイトは腰から剣を抜き放ち、ゴブリンへ斬りかかった。

しかし全力で振り切ったフェイトの剣は、棍棒に簡単に受け止められ、結果お互いが至近距離から睨み合った。


数瞬の間睨み合ったフェイト達は、まったく同時に自らの得物に力を入れ始め押し合いを始める。

均衡出来たのはほんの僅かだった。


力を込めたゴブリンにあっさり力負けしたフェイトは剣を弾き飛ばされ、自身も地面に薙倒される。

隙だらけになったフェイトを見てゴブリンは嗜虐的に嗤うと、そのまま奇声を上げながら飛びかかった。


再び迫り来る棍棒に今度は避けられないと覚悟し、痛みに備え歯を食い縛る。


そして


「はっ、相変わらずゴブリン一匹倒せないなんて情けないわね」


次の瞬間一条の剣線がゴブリンの体を走り、ゴブリンは真っ二つ斬られた。

突然起きたその状況にフェイトは驚き目を大きく見開くと、いつの間にかゴブリンの背後には赤い髪をした少女ーープラハがいた。


ーーいつからそこにいた?

ーーずっと見ていたのか?

そうプラハ対し問おうとすると、真っ二つになったゴブリンの血が吹き出しフェイトの顔面を赤く染めた。


「は、はははははっ!なっさけなっ!!ゴブリンの血で真っ赤よあんた!」


赤く染まった視界と鉄臭い臭いで何も言えなくなったフェイトにプラハの笑い声が降り注ぐ。

それをした元凶であるにも関わらず笑ってくるプラハにフェイトは心の中で怒りが溜まるのを感じた。


はっきり言って、やろうと思えば血を出さずに倒す方法なんていくらであったのに、それをしなかった此奴がフェイトは嫌いで仕方ない。


苛立ちを押し隠すと背中のカバンからタオルを取り出し、顔面を掛かった血を拭い始める。


そしてタオルを二枚も消費し血の大部分を拭った頃、森の奥から複数の足音が聞こえてくる。顔を拭くのを続けながらそちらに目を向けると予想通り二人の少女が出てきた。


「あー、その様子ですとまたフェイトさんはゴブリンに勝てなかったんですか。わざわざ戦わせるために逃がしたというのに情けないですね」


「…………弱い」


出てくるなりそう言ってフェイトを貶してくる二人の少女ーーフィーネとレルにまたフェイトの心の中で怒りが溜まる。


そう今フィーネが言った通り、プラハ達ははフェイトの方にゴブリンを一匹逃がしたのだ。

ーー戦う力がないフェイトと戦わせるために。


「まったくよね。此奴みたいなのが同じパーティだなんて、パーティメンバーとして恥ずかしてくて仕方ないわ」


プラハは大袈裟に肩を竦め、悲しんだ様な声を出す。

それにフィーネとレルが同意するように首を縦に振る。


「本当ですよね。冒険者なら倒せて当然のゴブリンすら倒せないなんて、本当に冒険者なんですかね?」


「…………情けない」


そう言うと三人は嘲るような笑みを浮かべフェイトを見る。


「まぁ、フィーネの言う通り冒険者じゃないかもね。なんたってこいつ戦闘系スキルが一つもないんだから」


「冒険者どころか一般の人でも持ってて当然のスキルなんですのにね」


「…………役立たず」


そう言って耐えきれないとばかりに大声で笑いだす三人に、フェイトは歯を食いしばり耐える。



この世界では10歳になった子供にはスキルと呼ばれる力が宿る。

宿るスキルの種類は様々だが、現在大まかにスキルは三つの分野に分けられている。


戦闘系スキル


補助系スキル


生産系スキル


この中で最も数が多く、宿っている人数が多いと言われているのが戦闘系スキル。


戦闘系スキルは現在世界中の人間が持っていると過言ではない程有り触れたスキルだ。

誰もが当たり前に持つスキル、それが戦闘系スキルという物。


けれどフェイトにはプラハ達が言う通り、その持ってて当然と言われる戦闘系スキルを持っていなかった。

他の人間の平均的なスキル数より多くのスキルが宿った。しかしそのどれも生産系、もしくは補助系スキルだったのだ。


同い年でもあり、幼馴染でもある三人がそれぞれ剣術、魔術、弓術といった優秀なスキルが宿った事もあり、フェイトは故郷の村では彼女達と比較されていた。


そんな環境で育ってきたからこそプラハ達が自分達は優秀だと思うのも仕方のない事であり、事実プラハ達が同年代の中冒険者の中では優れている方なのは間違いではないとフェイトは思う。


しかし。


「(冒険者を諦めて商人ギルドで商人を目指そうとした俺を無理矢理冒険者ギルドに入れてパーティを組ませたのはお前等だろうが!!)」


心の中でそう吠える。


このモンスター蔓延る世界で、モンスターと対抗するには戦闘系スキルが必須である。

もっと正確に言うならば戦闘系スキルを手に入れた事による恩恵が必要だ。


戦闘系スキルを授かった者は総じてステータス値が格段と上がる。

そこには個人差があったり、修行次第で変わったりもするが少なくとも戦闘系スキルを持っていない奴とは比べ物にならないぐらいの力が手に入る。

事実、フェイトを押していたゴブリンは初心者の冒険者向けの練習台とされている。


けれど戦闘系スキルがないとそれすらも勝てない。

モンスターと戦うのが多い冒険者という職業に置いて、戦闘系スキルがないフェイトは欠陥品とも言える存在だった。


「ほら、役立たず。さっさと私達を回復させなさい。傷でも残ったらどうしてくれるのよ」


「そうですよ、私達は貴方と違ってしっかりとモンスターと戦っているんです。わかったらさっさとしてください」


「…………早くして」


フェイト自身の傷と比べて、無いと言ってもいい擦り傷程度をわざわざ見せつけてくる三人に、また苛立ちが溜まるのを感じながらフェイトは手を向けて補助系の一つ『回復』を発動させる。


次の瞬間翡翠色の光が三人を包み込み、みるみると傷が塞がっていく。


10秒ほど掛け、三人の傷が完全に治ったのを確認したフェイトは今度は自分に回復を掛けようと手を自分の体へ向ける。


そしてスキルを発動させようとした瞬間甲高い声が遮った。


「ちょっと、なにしてんのよ!自分を回復させるのなんて帰ってからやりなさいよ!あんたはさっさと私達が狩ってきたモンスターを解体しに行くべきでしょ!」


「そういう自分勝手はやめて下さいよ。貴方が解体してくれないと私達が帰れないじゃ無いですか」


「…………自分勝手」


ブチッ。

フェイトの中で何かが切れる音がした。


16歳から1年。

フェイトはこれまでひたすら三人の横暴に耐えてきた。


パーティのクエスト報酬分配が自分だけ極端に少なくても、厄介なモンスターの囮にされても、三人の内誰かが問題を起こすとフェイトのせいにされても、ひたすら耐えてきた。


いつかまた幼い頃のように仲良くなれると信じて。


けれど、もう無理だ。もう我慢の限界だ。

これ以上は耐えられない、否、もう耐えたく無い。


フェイトは回復しようとした手を止め、腰のポーチから解体用ナイフを取り出す。


そして解体スキルを使いさっさと目の前のゴブリンと、森の奥のゴブリンの討伐証拠を集めると空間スキルで収納し、三人の元へ戻る。


「さて、役立たずに時間を取られちゃったけど帰るわよ。いい加減疲れたし」


「そうですね、早くシャワーを浴びたいです」


「…………疲れた」


三人はそう言って武器と荷物を放り出し、街に続く帰路へ向かう。


フェイトは黙って武器と荷物を拾うと、また空間スキルで収納し後を追う。


…………大丈夫、耐えろ。これで最後だ。


日の落ちる夕焼けの空を見ながらそう思った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



フェイト達が現在拠点としている街、『ガリア』は少々特殊な造りをしている。

円状に造られたその街は大きく3つの区に分けられているのだ。


生活区

商業区

冒険者区


その名の通り、これらに区別された作りは街の住人からも、街の外からやってくる人々からもそれなりに好評価を得ている。


そしてその中の一つ。

冒険者区の中心に聳え立つ巨大な建物、それが冒険者ギルドだ。


街の冒険者は全てこのギルドに所属し、日夜様々なクエストを行っている。


そんな冒険者ギルドへ着いたフェイトはプラハに命令された通り討伐証拠と武器を渡し、待機するよう言われる。


これもいつもの事だ。恐らく自分達だけで討伐したのを見せびらかすためだ。いや、それは間違いではないのだから仕方ない事だろう。


そうフェイトは思うとギルドの壁に寄りかかりプラハ達の話が終わるのを待つ。

壁に寄り掛かって目を瞑っているフェイトに冒険者や通行人から視線が向けられるが、フェイトだと気付くと直ぐ様興味を無くす。

いつもの事だと、冒険者や通行人も理解していたからだ。


そして10分程が経ち、プラハ達がギルドから出てきた。


「ほら、これが今回のあんたの取り分よ」


そう言ってプラハは硬貨を放り投げる。フェイトが受け取ると銀貨が一枚だけそこにあった。


今回の受けていたクエストの報酬を全て合わせると大銀貨3枚ーー30万セルはいったはずだ。

そうなると一人当たりの取り分は7万5千セルーー銀貨7枚と大銅貨5枚になるはずだ。


フェイトは顔を上げプラハ達を見る。

相変わらずプラハ達はフェイトを馬鹿にしきった目で見ている。


ーーやはりいつもの通り俺だけ極端に少ないのか。


その事に落胆を感じ、そして覚悟を決め直す。


反応がないフェイトにつまらなくなったのかプラハは他の二人に声を掛け宿屋に帰ろうとする。


そんな三人を呼び止めはっきりと言う。


「俺はパーティを抜けさせてもらう。後はお前等で好きにやればいい」


そう言ったフェイトの言葉が理解できなかったのか三人は顔をキョトンとさせ、次の瞬間烈火のごとく怒りの表情を浮かべた。


「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!今までの恩を忘れたの!?」


「そうですよ!常識を知らないんですか!?」


「…………自分勝手!!」


ギャーギャーと煩く喚く三人にフェイトは顔を顰める。


「元々恩なんてお前等にはねぇし、常識知らずと言うがお前等が無理矢理俺を冒険者にさせたのは常識知らずじゃないのか?後、自分勝手はてめぇらの方だ」


冒険者になって三年が経つが殆ど反論しなかったフェイトが強く言ったからか三人は顔を真っ赤に染める。


「あっそ!ならさっさと消えなさいよ!もう謝ったって二度とパーティに入れてあげないんだから!」


「貴方なんて元々私達には必要なかったんです!」


「…………早く消えて!」


「はっ、それはこっちの台詞だ!もう二度とお前等とは組みたくなんかねぇし、会いたくもねぇよ!!」


そう吐き捨ててフェイトは三人に背を向ける。

そして未だ背後からギャーギャーと何かを言って来るが無視し、現在借りている家を目指し歩く。


駆け足気味で生活区ではなく商業区の端にあるその家に着いたフェイトは自分に回復魔法をかけた後、よろよろとベットに倒れ込んだ。


柔らかい感触がフェイトを包み込み、しばらくその感触に身を任せた後仰向けになった。


ーーこれで俺は自由だ。


そう思うと心が軽くなるのを感じ、ゆっくりと迫ってきた眠気に身を任せる。


今日は気持ちよく眠れそうだ。


意識を失う直前フェイトはそう思った。

アラベスクです。

まずは読んでいただきありがとうごさいます。

短編の方で連載版を希望してくださる方々がいてくれて連載する事を決めました。

亀更新ですがよろしくお願いします。

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