10話:後始末
「…ハッ」
目を開いたときに視界に広がった青空を見ながら少しの間呆然としていたフェイトは最後の記憶を思い出すと飛び起きる。そして周りと見渡しほかの二人の姿を探す。
「あ、フェイト起きたんだ!本当に良かった」
「おぉ、フェイト殿ご無事で何よりです。傷などは特にないのは確認しましたが、それでも気がかりでしたので」
そういって水などを差しだしてくる二人を手で遠慮しながらフェイトは
「一体何があったんですか」
そう問いかけるフェイトに二人はバツが悪そうに顔をしかめる。
「実はー」
「ご、ごめんフェイト!僕が天井吹き飛ばしちゃった」
説明しようとするバアルを遮ってアランが頭を下げる。アランの言っていることがわからず、とりあえず顔を天井に向けてみるとそこには確かにアランの言う通り屋根という物がなく、青い空が広がっていた。
もはや小屋とも呼べなくなった工房を見てフェイトは少しの間呆然としたが、頭を振って切り替える。
「えっと、俺最後らへんの記憶が曖昧で何が起きたのか教えて欲しいんだけど」
「…フェイトの言っていた魔剣をとってみたこと覚えてる?」
「あぁ」
「フェイトが使えないって言ってたから試しに魔力を流してみたら剣から爆炎が出て天井を吹き飛ばしたんだ」
「馬鹿な、魔剣が発動したのか!?」
フェイトは思わず目を見開きながら問う。そして首を縦に振り肯定する二人を見てまた驚く。
「あ、いや、ごめん。それはアランは悪くないって。使えないって言ってた俺が悪いし。でもなんでなんだ?俺が使っても一回も発動しなかったのに」
まさか本当に人によって使えるかどうかが変わるのだろうか。そう悩みだしたフェイトはバアルに視線を向ける。その視線の意味を理解したのかバアルは頷くとアランから魔剣を取り、小屋の外へ出る。
「ふん!」
そしてバアルが魔剣に魔力を込めたと思われる瞬間巨大な火柱が立ち上がり、そして数秒後その炎は剣に纏わりつき炎剣になった。アランに続いて何一つ問題なく魔剣の力を発揮したバアルを見て一つ嫌な考えが脳裏を走った。-もしかして俺だけが魔剣を使えないんではないか、と。
「あー、見るのは二回目だけどすごいね。あれ。ってどうしたのフェイト?すごい汗かいてるよ」
「い、いや気にしないでくれ」
嫌な汗が流れるのを感じながらフェイトは笑ってごまかす。もし。もしの話だ。もしフェイトの予想が当たっていた場合
「(な、なんの意味もねぇー!)」
心の中で叫ぶ。本来魔剣を作った理由はフェイトの戦力増加を図るためだ。戦えないフェイトでも魔剣を持っているだけで自己防衛能力が格段に上がるのだ。市販の魔剣というのは総じて高く、とてもフェイトの手には届かない。そのためフェイトは自分の手で魔剣を作り上げたのだが
「(肝心の俺が使えなきゃ意味ねぇだろ!)」
あまりのこの世の理不尽に嘆く。これはあくまでも予想である。けれど、ほぼ確信に近い予想でもあった。
色々と嫌な想像を膨らましているフェイトを見てアランはまた謝り始める。
「ほ、本当にごめんね。屋根のお金はしっかり払うから」
どうやら屋根が吹き飛んだこと落ち込んでいると勘違いしているアランに慌てて気にしないで欲しいと笑ってごまかす。これは謙遜とかではまったくなく、はっきり言って天井なんていつでも簡単に直すことが出来るのだ。なのでそんなに謝られてもむしろ申し訳なくなるのだ。
(さてどうしようか)
使えないと思っていた魔剣が使えたり、それなのに俺だけが使えなかったりと考えなければならないことは腐るほどある。ならば、
「俺から呼んでおいて悪いけどアラン、今日はかえってもらってもいいか?本当にすまん。やらないといけないことができた」
頭を下げて、アランに、そしてバアルさんに謝る。もしかしたら今までフェイトが失敗だと思ってきた物の中にこの魔剣のように実は使えるものはあるかもしれない。
それらをもう一度調べて、それっぽいのをアランたちに頼んで試して貰う必要があるだろう。
こういうのは早めにした方がいい。そう考えたフェイトだがアランは
「フェ、フェイト本当にごめん!本当に屋根の修理代は払うから!」
そう言って頭を下げた。
フェイトは一瞬アランが何をしたのか理解できず呆然としたが、まだ自分が怒っていて、やらないといけない事があるとアランに嘘を言って帰らせようとしていると勘違いしている事に気づき、慌てて今からする事について説明する。
フェイトの説明を聞いたアランは
「あぁそうなんだ。よかったー、てっきり組んだばかりなのにもうパーティ解散することになるかと思ったよ」
そう言って笑うアランの後ろで苦笑しながらも同意するように首を縦に振るバアルに、フェイトも同じ様に苦笑する。
流石にそんな事で解散する程俺も心は狭くないつもりである。
「でもそれなら僕達も手伝ったほうが良くない?」
「いや、色々奥の方に置いていたり、危険な物とかあるから出来ればそういうのを分けた後に手伝って欲しい」
「んーわかった!その時は呼んでね。ところでなんだけど明日はどうする?何もする事がないならギルドにクエストでも受けに行く?」
「いや、明日は街に出て商売をしに行くつもりなんだ。アランもついてくる?」
そういうとアランは目を輝かせる。
「良いの?!」
「い、いや、良いも何もそう言う契約だったし、アランに用事がなければなんだけど」
「ないよ!用事なんてないよ!」
「そ、そうなんだ。なら来る?」
「うん!」
やったー、なんて言いながら手を上げて嬉しそうな表情をするアランに思わずフェイトは口元が緩むのを感じた。
「それじゃあ明日9時に今日と同じ噴水のある広場に集合ってことでいい?」
うん!と言って首を振るアランと同じように笑いながらそれじゃあまた明日と手を振る。
「うんそれじゃあね、フェイト!」
「フェイト殿、今日は本当に申し訳ございませんでした。明日からは私はついて来ませんのでどうかアランの事をよろしくお願いします。」
アランに続いてそう言うバアルに目を少し見開く。明日からついてこない、それはつまりーー
「俺は一応合格って事ですか?」
アランには聞こえないようにそう言うとバアルはにっこりと笑う。その笑顔を見て自分の考えが合っていた事に気づく。
つまりだ。俺がバアルを本当にアランの保護者なのか疑問に感じたように、バアルはフェイトがアランにとって危険な人物ではないかと疑っていたのだ。
そしてどうやらフェイトはバアルの御眼鏡にかなったようだ。
「それにしても過保護ですね。アランだって自分の身を守る事ぐらい出来る力はあるでしょうに」
少なくともこの街でアランに勝てる人物など殆どいないだろう。
暗にそう言うフェイトにバアルは苦笑し
「そうなんですがこちらにも少々事情がございまして、やはり自分の目で確認しておきたかったんです」
「事情?」
「申し訳ございません。それを申し上げることは出来ないのです。少なくともフェイト殿に迷惑を掛ける事はない、とだけ言っておきます」
フェイトと同じ様に、暗にそれ以上は聞くなというバアルにフェイトは戸惑いながらも自分に迷惑が掛からないというバアルの言葉を信じ口をつぐむ。
「それではフェイト殿、失礼します。アランが何かしらご迷惑をお掛けしましたらいってくださいませ、私は街の東のはずれの方に居ますので」
そう言って扉を開け出て行く。そんなバアルが視界から消えるのを確認した後、はぁ、息を吐く。とりあえずバアルは信用してもいいだろう。何か隠し事をしているとは思うがそれは自分に害を与える物ではないのは確かそうだ。
そう考えたフェイトは床に寝転がり体を伸ばす。
今日は色々あった。魔剣やバアルの事。そして今からしなければならない事。でもまぁ、
「とりあえず、屋根を直すとするかぁ」
どこまでも青く続く空を見上げながらそうつぶやいた。