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9話:魔剣

「それじゃあね、フェイト。また明日」


アランは手を振りながらそう言うとフェイトに背を向け歩き出した。


フェイトとアランがパーティを結成した後、運ばれてきた料理を食べた三人はそれぞれ解散した。リーナはフェイト達のパーティ申請の手続きをしに、アランはこの後あるという用事をしに。


アランを誘おうとしていたフェイトはその事を残念に思ったが、また明日会うという約束をしたので気を持ち直し動き出す。


「あー、俺も帰るか」


一人になったフェイトはそう呟くと自宅への道を歩き始める。


予想よりもはるかに早く顔合わせ、及びパーティ結成が出来たので、これからエーラ君1号で商売をしに行く時間は充分にある。

けれど何故かその気が起きなかったフェイトは家ーー工房の現状を思い出す。


「掃除、だな」


フェイトは家に帰り着くとそのまま家の隣に立っている小屋へ向かう。そして扉を開き、


「うわ、こりゃひでぇ」


目の前の小屋の現状を見てそう呻く。

このポーションや剣、その他の諸々の商品を作る小屋ーー 一般的に工房と呼ばれる設備が整えられているここは、この家の最大の特徴と言えるものだ。


生産系加護を持っている者が借りる事を前提に作られたこの家は見た目に反し、様々な用途で使える様に出来ている。


事実、フェイト自身もこの家を借りてからは随分とポーション造りや鍛治作業がやり易くなったと感じていた。


しかし、現在そんな魅力溢れるこの小屋は本来の姿が見る影もなかった。様々な物が散乱し、足の踏場さえ殆どない現状に頭を抱える。

最近のフェイトは毎日様々な商品を集中して作っていたせいか片付けをしっかりして無かったらしい。

でなければここまで汚れる事はないだろう。


フェイトは一度ため息を吐くと袖を捲り上げ近くの物を手に取り片付け始める。


流石にこの状態で人を呼ぶ事は出来ない。

今日アランが来れなくて良かった、と思いながら同時に今日は掃除だけで残りの時間が潰されそうだと心の中でため息を吐いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



翌日、夜遅くまで掃除をしていたフェイトは眠気を抑えながら商業区の噴水広場に来ていた。昨日アランと約束した集合場所が此処だからだ。

集合時間より30分も早く来てしまったフェイトは食べ損ねた朝食でも食べようと、噴水の周りの様々な食べ物が売っている出店へ向かう。そして串肉を一つ買い、ベンチで頬張る。

噛み締めた瞬間に口の中で溢れ出す肉の旨みを満足に味わいながら、なんとなく周りの人々をぼんやり眺めた。


噴水広場や、そこに繋がっている大通りでは多くの人々が食べ物を買ったり、商品を見て話し合ったりしていた。


ーーーーーーいいな。


フェイトはそれを見てふとそう思った。

今までフェイトはこんな風にのんびりと人々を眺めた事はなかった。毎日毎日なにかしらやらないといけない事があったからだ。


けれどパーティーを抜けて穏やかな日々を過ごす様になって初めて気付いた。

街の人々のほとんどが気力に満ちて溢れているという事だ。もちろんそうじゃない人もいるが、そんな人々は見た限り本当に少数だった。

遣り甲斐を感じ、充実した毎日を過ごしているような表情で歩く人々の様子は今までのフェイトにはなかったものだ。


(......いつか俺もあんな表情で過ごす日が来るんだろうか?)


そんな事を思いながら食べ続け、そして食べ終わる頃フェイトの視界に白い影が映った。

そちらに顔を向けると予想通りアランが此方へ向かって来ていた。


フェイトの視線に気付いたのかアランはフェイトの方へ向くと手を振りながら駆けてくる。


「ごめん、フェイト。おくれちゃった?」


「いや、俺が早く来過ぎただけだから気にしないで..........って、誰?」


フェイトはアランの後に続いてやって来た壮年の男を見て怪訝な顔をする。白と言えば首を傾げ、黒と言うには白すぎる髪。あえて表すなら暗い銀髪だろう。

灰色の服の上からでもはっきりわかる程鍛え上げられた肉体、さらに鋭くフェイトを見定める瞳から只者でない事がわかる。


もし戦いになったら瞬く間にフェイトは殺されてしまうだろう。

それがわかりながらも本能的に身構えてしまうフェイトに老人は、


「あ、フェイト。この人はーーー」


「初めまして、私はバアル・ミルウッドと申します。アランの....そうですね、保護者代わりをしている者です。この度は私の我が侭で一言も連絡をせずアランに同行して来てしまい真に申し訳ありません」


そう言ってまるで貴族がするような優美さで胸に手を当て一礼をする。

そのあまりにも様になっている動作に慌てながらフェイトも頭下げる。頭を上げた時には先ほどまでの値踏みをする様な視線は無くなり、この人本来であろう鋭いながらもどこか優しげな瞳でフェイトを見ていた。


そして、僕が言いたかったのにーー、とバアルをペシペシ叩き始めるアランとそれに困った様子を見せながらもしっかりと受けているバアルを見て自然とフェイトの警戒は解けてしまっていた。まぁ、しといた所でまったく意味が無いというのもまた事実なのだが。


二人の様子にすっかり毒気が抜けたフェイトは。


「あー、アランとバアルさん。とりあえずウチに行きませんか?いろいろ話すにしても此処じゃなんですし」


そう言って自身の自宅へ続く道を指差す。


そして同時に


―――――保護者代わりとは言ったが、まだよくわからなく只者でない様子のバアルの事を此処で聞くのはそっちとしても良くはないだろう


言外にそう言うフェイトの意図をバアルはしっかりと理解し、控えめに首を振る。


「そうだね、お願いしてもいいかい?」


そうアランも同意したのを確認し、自宅へ歩き出したフェイトはなんだかめんどくさい事になりそうな予感がしていた。



       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「...............ここがフェイトの家」


アランは目の前の家を見ながらそう呟く。その隣ではバアルも興味深そうに眺めている。


あれから10分後、フェイトの家に辿り着いたアラン達は目の前の家に目を見開いていた。

フェイトの家はこの辺りでは珍しい作りをしている。

生活をする家と商品を作る工房の小屋。この二つから形成されているフェイトの家は普通の家に比べて土地面積が広くなっている。


フェイトはジロジロと見られる事で感じた羞恥心を振り払うように咳をし、 


「えっと、こっちの家が生活をするスペースで、もう片方の小屋が商品を作っている工房です。昨日アランと約束したので先に工房の方へ案内しますが、バアルさんの話はその後でいいですか?」


「いや、私は構いませんが、フェイト殿はそれでいいのですか?私の様なこんな得体の知れない男を共にしても」


「ええ、それはもちろん。アランの保護者代わりと言うのは嘘ではなさそうですし、どういう関係なのか少し教えてもらいたかっただけですから」


もしフェイトに危害を加えるのならもうとっくの昔にフェイトは死んでいただろう。しかしここまで何もしてこなかった事からとりあえずは安心しても問題はないだろう。


そう判断したフェイトは早く中を見たそうにしているアランを連れて工房へ行き、そして扉を開け


「これが今の俺の工房です」


「おおーー!」


「む、これはまた随分と」


工房の中を見て驚きの声を上げる二人を見てフェイトは昨日掃除しといてよかったと心の中でほっと息をつく。

工房内は丹念に掃除した事でゴミはおろか埃もほとんどない。さらにいくつかの剣やポーションを壁に立て掛けたり、ガラスウィンドウに保管した事でちょっとだけお洒落な雰囲気を醸し出していた。


「まあ工房の中はこんな感じに出来ています。主に生産しているものは剣などの武器類とポーション関係。後は他のものをちょくちょく作っているような感じです。」


「へぇ、ねえフェイト、近くで見てもいいかな」


「あ、大丈夫だぞ。危険なものはないし」


フェイトがそう言うとアランはありがとう、と一言告げて中に入る。


「フェイト殿、私も入ってよろしいですか?」


「え、あぁ大丈夫ですよ。ぜひ見てください」


そう言うとバアルもアランと同じようにありがとうございますと言って中ーーー剣や槍のある方へ進む。

それを見てフェイトは似てるなーと和やかな気持ちになる。

色々な種類のポーションを眺めるアランの横でバアルはフェイトの許可を取り剣の一つを手に取る。

そして少しの間それを眺めた後、


「これはまた随分良い剣です。これほどの物を作れるとはフェイト殿の腕は素晴らしい」


「い、いえそのありがとうございます」


バアルさんの言葉に顔が赤くなるのを感じる。確実にAランク以上の実力を持つであろうこの武人から賞賛されるのは照れくさくもあり、それ以上に誇らしかった。

フェイトが今も剣を熱心に見ているバアルから顔をそらし頭を掻いていると、いつの間にかアランが近くに来ておりフェイトを見ていた。


「うぉ?!な、なんだよ」


「あ、驚かしてごめん。ちょっと聞きたい事があってさ」


「なんだ?」


「あそこにある箱開けてもいい?」


アランは部屋の隅に置いてある木箱を指さす。それを見てフェイトは顔をしかめる。


「あ、別にいいけどあの中にあるのは失敗作だぞ。あんまり見る価値はないと思うぞ」


「失敗作?」


フェイトの言葉にアランは首をひねる。フェイトは、あぁ、と言うと木箱に近づき蓋を開ける。

中には剣や槍、弓など様々な武器が所狭しと入れられていた。

フェイトはその中の剣を一つ取り、複雑な顔をしてそれを見る。


「見た所あちらの立てかけてある剣には劣りますが、それでも中々の出来をしていると思うのですが。一体その剣のどこが失敗作なんでしょう?」


俺たちの会話が聞こえていたのか、いつの間にかバアルが近くに来ていた。何故と問うバアルにフェイトは苦々しそうな顔をしながら


「実はこの剣は普通の剣じゃなくて魔剣なんです」


「ま、魔剣?!」


アランが驚いた声を出す。バアルも声には出していないが、驚いた顔をしながら剣をじっと見つめる。

魔剣。普通の剣とは違い火や水を刀身にまとわせたり、ステータスが上がったりする特殊な武器だ。

切れ味や耐久度こそ斬ることに特化したものには劣るが、それを補うほどの恩恵を所有物にもたらす。

魔剣を作り上げるには鍛冶のスキルを持った者と付与のスキルを持った者が必要になる。

しかもスキルが低ければ魔剣と呼べないものが出来、成功率も低くなる。

そのため魔剣を作り上げるには最低でもスキルのランクがCを超えてないといけない。

そして運が良いことに俺はその両方を持ち、スキルレベルも超えていた。

なので作ってみたがどれも魔剣としての力をを発揮してくれなかった。

魔剣として力を発揮しない魔剣。それは切れ味と耐久力が劣っただけの普通の剣でしかない。故に失敗作。

フェイトは箱に詰められた魔剣に成りえなかった武器達を悔しそうに見つめた。

そんなフェイトにアランは


「まぁ僕に使わせてみてよ。もしかしたら使えるかもしれないし」


「下手な慰めはいらないぞ。それに人によって使える使えないが分かれている訳がーーー」


「えいっ!」


次の瞬間、天井が吹き飛んだ。


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