呪詛の森の王子 共通シナリオ1
[共通1章:イザナイ]
「グレナ!」
「え?」
私は今までぼうっとしていて、呼び掛けられてようやく気がついた。
「話を聞いていた?」
「えっと、ごめんなさい。なんの話だったかしら?」
「だから……森の話よ」
「ああ、呪詛の森のことでしょう? 街中その噂持ちきりだもの、知ってるわ」
―――その森には恐ろしい魔物が住んでいる。
それは人を喰らう。ただの噂か、真偽は定かではない。
一度魔物と出会った人間は幾度となく森へ通うようになるそうだ。
けれど人が死んだなんて聞いたことはない。
「その噂が広まって今日で一週間になるけど、ついに死人が出たんですって!」
「え?」
「被害にあったのは若い男女、なんでも全身の血が抜かれていたとか―――」
「なんてこと、怖いわ……」
楽しいお喋りも終わって家へ帰る途中、森への入り口の前を通りかかった。
ここから見えるのはやはり木々だけ、じっと目をこらしていると、手招きする人の姿が見えた。
―――あれはなに、ただの幻?
きがつけば私は、森へ入ってしまった。
「素敵……」
あたりは一面、黄やピンクの可憐な草花でおおわれている。
恐ろしげな森に、こんな綺麗な場所があったなんて――――
「ねえ」
どこからか声がした。きょろきょろと辺りを見渡す。
けれど姿が見えない。足に小さな衝撃がある。
下を見ると、小さな人間がその可愛らしい手で私の足を叩いていた。
手を差し出して、上にのせる。美しい顔立ち、ヒラヒラと透けた羽を背にした青年。
「もしかして妖精さん?」
「そうだよ」
生まれて初めてみるそれは、好奇と恐怖を駆り立てるには十分だった。
青年は私を妖精の集落へ案内するといい、羽を広げ宙を舞う。
惑うことなく誘われる。それは悲劇を招くのか、それとも―――――
全ての終わりは神のみぞが知るだろう。
「ようこそ人間のお嬢さん」
羽のはえた青年の妖精たちが入り口で迎えてくれた。
ここに住む妖精たちは人と変わらない大きさだ。
森の中にこんな場所があったなんて―――――――
_________
「新たな人間が現れました」
「へえ……今回はどんな結果になるだろうね」
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妖精たちは私を歓迎してくれた。木々のテーブルにごちそうがのせられている。
――妖精の羽ばたき、金の粉が舞う宴。私は微睡み、眠りに誘われる。
うっすら日が差し込み、目を冷ます。頬に触れるのは滑らかでつるりとした布。
私が使っていたのは信じられないくらい柔らかでまるで貴族が使うように高そうな寝台だった。
「おはよう」
「あなたは……」
私に声をかけたのは、昨日森へ連れてきてくれた妖精だった。
他の妖精とは違い、絵本の通りに小さな体をしている。
ひらひらと周りを飛んでいる姿が可愛い。
「僕はスワウムだよ」
「珍しい名前ね」
「お嬢さん、この森はどう?」
「グレナでいいわ。そうね……素敵だと思うけれど、家へ帰らないと」
私がこんな時間まで帰っていないのだから、家族が心配している。あのとき眠ってしまったのがいけなかったんだ。
「そっか……じゃあまた来てね」
「ええ、できることなら来たいわ。でも森へ行く道は危険だから獣が出て街の人が血を抜かれて死んでしまったたらしいの」
「それなら獣が入ってこられないように僕がお迎えにいくよ。それなら大丈夫だよね?」
「妖精さんはそんなことができるのね、すごいわ」
獣がいないならきっと安全だろう。
「ああ、そうだグレナ」
「どうしたの?」
「僕がこの森にいること、君を森へ連れてきたことや話していることは他の妖精には秘密にしてほしいんだ」
「わかったわ」
理由がなにか気になったけど、聞かないでおく。言えることならいつか教えてくれるだろう。
もしかしたら他の妖精は大きいのに彼だけ小さいのと関係があるのかしら。
「待って」
「どなた?」
私が帰ろうとしていると、呼び止められた。
「私はヴァルム、妖精の王子だ」
「王子様……!もうしわけありません森へ来てしまったのに、挨拶もしなくて!」
「君、帰るのかい?」
「はい……」
もう来るな、と言われるのよね。
「帰らないで」
「え?」
なぜそんなことを言い出すのだろう。
「どうして、そんなことを」
「なぜなら君は街に戻ってもただ家の仕事をするだけだろう?
ここなら君の好きなことが好きなときに出来る」
何もせずただ食べて寝る生活は魅力があるが、私は普段それほど働くわけでも、食事に困るような酷い生活をしているわけではない。
「この森に人間が来ること自体が珍しいんだ。だからいなくなられると僕たちは寂しい」
普通の妖精は人間を歓迎しないものだと思っていたわ。
彼等は体が人間と同じだから、警戒心があまりないのかしら。
「……そういうことならまた来ますから」
――それにしても、彼は私がどうやってこの森へ入ったかを尋ねないのね。
まるで私がここへくることを知っていたかのように、宴会もすぐに開かれたし。
まあ、今は気にしてもしかたないわ。
[共通2章:獣王]
「まったく年頃の娘が外泊なんて!」
母はあきれ果てたようにため息をつく。私は平民なので叱りのほどは軽くすんだ。
貴族の令嬢ならもっと酷いだろう。理由を聞かれ答えようとすると―――
「言わなくていいわ当てるから。隣村のサーカスに行ってきたんでしょう?
そしてサーカスの役者の目にとまったとか」
「うん、そうなの。とても素敵な王子さまもいたわ」
サーカスの点は嘘だが、素敵な男性はたしかにいた。
盛大な誤解を招いたが、妖精の森を追求されずにすんだので結果的にはこれでいいのだろう。
「ああグレナ!」
「昨日はどこにいっていたの!?」
いつものように水を井戸から汲みにいくと、友人達が皆青ざめた顔をしていた。
「……ええと」
行方がわからなくなっていた私を心配してくれているのは嬉しい。
だけど森が恐ろしいと噂されている手前、妖精と会ったなどと正直に話しても信用されないだろう。
`私は昨日のことを―――
《正直に話す》
《覚えていない》
→《道に迷った》
「帰り道でサーカスの客引きを見つけて、隣村で観覧していたのだけど……」
もちろん観覧など嘘なのだが、実際にサーカスは隣村で開かれていたようだ。
「貴女あのコロムビーナ・サーカスにいったの?」
「ええ、そんなに有名なの?」
まさか食いつかれるなんて。
「あまりよくしらないわ。でも滅多にいない女座長なんですって」
「それよりも聞いた?」
「なに?」
話題が切り替わったみたいでよかった。
「また森で死者がでたんですって!」
「ええ……」
私が森から帰ってくるときは死体などなかった。
妖精が招いたのとは違うなら、いったいその噂はどこの森を差しているのか。
私は知りたいと思う好奇心半分、聞きたくないと未知への恐れを感じた。
それにもし私がいた森で知らぬ間に人が死んでいたら。
もしあの妖精等が人間を招いて油断させて殺していたら?
きっとそんなことを妖精がするはずない。
―――妖精に招かれた私が無事に生きているのがおかしいもの。
サーカスはまだやっている。行っていないことがバレてしまわないように本当に行ってみよう。
サーカスなんて小さな頃にいったきりで、ほとんど記憶にない。
移動するものだからかテントのようなものが張ってあり、どこも同じようなつくりだと思う。
鞭をもった猛獣使いやジャグラー、玉に乗ったクラウンかピエロがいる。
ショーが始まる。はじめは猛獣使いが珍しい黒のライオンを火の輪をくぐらせ会場を沸かせた。
サーカスを子供の頃はなんとも思わなかったのに、今見てみると獣がかわいそう。
それにこういう雑技団は怪しい悪徳商法をしているもの、なんて考えは本の話に影響されすぎているのかも。
「あぶない!!」
《ガアアアア!!》
「え!?」
玉乗りをしていた熊が、突然私のほうにむかって突進してきた。
もうだめだと思っていると、黒い何かが私の前にたつ。
それはさっきの黒いライオンで、熊を威嚇し私を護ってくれているようだ。
暴れだした熊は檻にいれられる。それにどうしてあの熊は暴走してしまったのだろう。
―――やはり殺処分されてしまうのか心配になった。
あれからサーカスは中止となった。あれはコロムビーナではなく評判のよくないファリス一座だった。
なんでもファリス一座はこの前から会場を買収してコロムビーナ一座の舞台を妨害していたらしい。
今回私が襲われたことで、ファリス一座の悪行が暴かれ捕まったという。
私はただ偶然その場にいただけなのに、なんだか出来すぎた物語のようで腑に落ちない。
サーカスも中止されたので、私は約束の通り森にいく。
すると、その場に男性が傷だらけで倒れていた。
「……大丈夫ですか!?」
長く後ろが跳ねた黒髪に褐色の肌をした若い青年。
その身体にはところどころ細かい傷がついている。
「……ああ」
彼はゆっくり目を開いて私をみる。私は軽くハンカチで顔をぬぐう。
「あの、なにがあったんですか?」
「サーカスの団員の男に捕まり、鞭で叩かれた」
もしかしてこの辺りで死体が見つかるのは、あのサーカスのせいだったのだろうか。
「歩けないのでしたら肩をおかしします。お家はどこですか?」
「森の奥だが……危険すぎる。人間の弱き娘がきていいような場ではない」
たしかに獣たちがうろついているから危険だろう。だけど怪我人をここに放置しておくのは――――
◆
《妖精の森へ》
《森の奥へ》