プロローグ
■プロローグ
『うぐっ……、き、貴様っ……!』
『ブハハハハ、ついに剣豪と名高いアストゥール国の姫君もここまでだな!』
――剣を弾き飛ばされ丸腰となって座り込むシャロンに、オークは下品に歪んだ笑みをこぼす。――
『くっ……、殺せ!』
『クク、そんな勿体無いことが出来るか。これからお前は、奴隷となるのだ』
『なんだと……? ど、どういう……』
『とぼけるなよ』
『っ、最低なクズめっ……!』
『ブフフフフッ! なんとでも言うがいい』
――オークはその巨体で、シャロンの体の自由を奪うと……――
「『そんなものっ……入るわけが、ないだろうっ……!』」
「うおぉぉおおぉっ!?」
耳元でささやかれ、驚いて椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「な、何ですか先輩!」
今まで俺が見つめ合っていたディスプレイに、今度は先輩が眼差しを送る。
「あ、ちょっ、まだ見ないで下さいよ! 途中なんですから」
「うん、実に王道だ。捻りはないが、そういうのも必要だ。問題はないだろう。うん」
制止の声を無視して、続けて読み上げる。
「えっと、『どうだ、感じてきただろう?』」
「ちょっ」
「『くっ、そんなわけが……うぅんっ……!』」
「あの」
「『ブハハハッ、体は正直じゃないか』」
「先輩ストップ、ストップ!」
その大声で、ようやくディスプレイから目を離す先輩。
「恥じる必要などない。ただのシナリオのチェックだ」
そう、シナリオだ。
俺達はここ、名ばかりの文芸部でアダルトゲームを作っていた。
俺の役職はシナリオライター。先輩が読み上げていたシナリオが担当だ。
「む、この表現はエロい、エロいぞ、高峰!」
「それじゃ、まるで俺がエロいみたいじゃないですか」
突如一文を指さして興奮する先輩。
「エロくないやつに、こんなものが書けるか。君はエロゲーのライターだ。もっと胸を張れ」
「そんなの無理ですから!」
望んでこんなことを始めたわけではない。クリエイティブなことをしたくてこの部に入ったわけではなかった。
だが、すでにここで過ごす創作活動の時間が日常の一部になっていた。
高校生が、文芸部で、エロゲーを作る。そんな、どこから突っ込んでいいのかさえ分からない部活でも、俺にはほかならぬ青春だった。