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ビオトープ 番外編  作者: ヒレカツ定食
2/2

01.Diary

ほぼモリーの日記帳です。

本編のキャラクターもそうですが、基本的にどのキャラクターにもシリアスな過去を用意してあります。

ただ、そのシリアス感を伏線として上手く出せるかどうかはまだまだわかりません。

 私たちは孤児だった。生まれてすぐに、母親と呼ぶべき人物に捨てられた。

 私たちを拾った人物によると、とても冷え込む冬の日、人気のない寂れた高架下に段ボールすら用意されない状態で廃棄されていたらしい。

 それぞれの右腕には名前と血液型、生年月日と両親の国籍が記されたタグが付けられていた。

 拾われた時には、既に二人とも衰弱しきっていて、助かる見込みはほとんどない状態だったという。

 この中で唯一の幸いと言える事は、一番最初に私たちを拾った人物が、この界隈で有名な闇医者だったという事だろう。彼の処置がなければ、私たちは間違いなく死んでいたのだから。

 その命の恩人である闇医者はモリーズ・ディアーナ・テッセと名乗った。長ったらしい名前は自身でも良く思っていないらしく、本人の希望もあって私たちはモリーと呼んでいた。

 モリーに拾われてから、私たちが十二歳になるまでは彼の元で暮らしていた。後になって見つかった彼の日記には、私たちを拾ってから別れるまでの十二年間が描かれていた。


「○○○○年○○月○○日 今日は午後に得意先のマフィアからの依頼を受け、都心部の外れまで出向いた。

予定よりかなり長引いてしまったが、無事に手術を終え、急ぎ足で自宅に向かうその帰り道に、赤ん坊が二人捨てられていた。

赤ん坊はかなり衰弱していて、すぐに私が処置しなければ恐らくはあのまま死亡していただろう。

子供が捨てられている事など、この街ではそう珍しくはない。私自身、普段であれば見向きもしない。

しかし、何故かこの時に限って、この子達を救わなければという強い使命感に駆られていた。

私の中にも命を尊いと思う気持ちが残っていたのだろうか。気付けば、煙草の次に大切にしていた真っ黒なロングコートを脱ぎ捨て、毛布代わりにして赤ん坊をグルグルに包んでいた。

患者が幼ければ幼いほど、手術の難易度は何倍にも増幅する。㎜単位の手先の狂いで、文字通り命を左右する事になるからだ。

その場での応急措置を終え、大急ぎで赤ん坊を自宅に運び込んだ私は、自宅にある手術室で大掛かりな手術、しかもそれを幼い赤子二人同時に行うという無理難題を見事に完遂し、その場に倒れ込むように眠りについた」



「○○○○年○○月○○日 あれからしばらく、二人はすっかり回復して、元気に自宅をハイハイで歩き回っている。

私はただ捨てられていた彼女たちを拾っただけだし、たまたま医学を心得ていたから、気まぐれに命を救ったに過ぎない。

私なんぞが父親になるつもりも、また、なれるとも思っていないので、名前はタグに付いていたカイリ、ハクリというのをそのまま使用させてもらう事にした。

あまり泣き喚いたり、活発に行動をしたりはせず、私やハクリが何かをしている様子をじっくり観察しているのが、蒼色の髪をした姉のカイリ。

それとは対照的に、何事にも興味を示し、自ら行動して、よく笑いよく泣くのが、翠色の髪をした妹のハクリ。

幸いなことに、私が生業としている闇医者は金銭の収入が抜群で、子供が二人増えた程度では全く困る事もない。

時折、緊急の案件が飛んでくる以外は、まだしばらく自宅で面倒を見ることができるだろう。

ただ、こうして幼い女の子が元気に笑いかけてくる姿を見ると、どうしてもあの頃の事を思い出して、不意に感傷的な気分にさせられる。

自分では立ち直ったつもりだったが、やはり、そう簡単には折り合いをつける事はできないのだろうか……」


「○○○○年○○月○○日 彼女たちを拾ってから、既に六年の時が経っていた。

カイリはとても頭がよく、初めて言葉を発したのが歳の時だったので、当時はとても驚いた記憶がある。同じくらいの○歳の子供ができないような事を、一度教えただけで完璧にこなしてしまう。

知識を収集するのが好きなのか、私の家の書籍をほとんど読破してしまい、仕事の帰りに新しい本を買って帰ると喜んで読み始める。

一方、ハクリの方と言えば、カイリほどの頭の良さはないものの、○歳を迎える頃には二本足で歩き始め、歩く事にも慣れた後は元気に飛んだり跳ねたりしたものだから、こちらにも驚かされた。

男の子程の腕力こそないものの、身体を動かす事がよほど得意なのだろう。私が若い頃に習っていた古武道を教えてやると、驚くべき速度で技術を吸収していった。

特に相手の思考の隙をついたり、いわゆる合気と呼ばれる、力の流れを感覚的に掴む事に長けていて、たまに私ですら出し抜かれそうになる事があるので困ったものだ。

そして最近、私は自身の中に持ってはならない感情が少しずつ生まれ始めている事に気付いた。

私は、同じ過ちを二度と繰り返してはならない」


「○○○○年○○月○○日 二人も遂に12歳を迎える歳になった。

奇跡的にも、未だ私の中の感情が暴発してしまうような事は起きてはいない。

今までにニアミスは何度かあった。だが、私にはここまで彼女たちを育て上げた責任も、曲がりなりにも父親代わりの自負もある。

しかし、それもそろそろ限界だ。昨日は寝ている彼女たちに手をかけてしまいそうになった。

あと一歩という所でハクリが寝返りを打ったので、我に帰り、急いで自室まで戻った。

カイリは元々、頭の良い子だ。もしかすると私の事情にも気が付いているかもしれない。それでも何も言わずに居てくれるのは、彼女なりの優しさなのだろう。

私は、彼女たちの幸せを壊してはいけない。それが、死にかけた人間を助け、新たな幸せを与えてしまった者としての責任、父親モドキとしての、私の最期の意地だ」


「○○○○年○○月○○日 やってしまった。

昨日の晩、ついにカイリに手をかけてしまった。

今日の朝に顔を合わせたカイリは、普段とは違う表情で私と目を合わせようとはしなかった。

記憶はない。でも身体に疲労感がある、間違いない。

あれは、信じていた者に裏切られた時の、怨みを、憎しみを込めた、そんな軽蔑の目だった。私の、私の一番深い部分が痛いほど知っている目だ。

こうなってしまったら、私はもう歯止めが効かないだろう。

早急に彼女たちと別れる必要がある。だが、彼女たちはこの世界で生きていけるだろうか。

今まで、ほとんど街に連れていった事はなかった。体面的な問題もあるが、この世界は子供には辛すぎる。

幼い少女が二人で生き抜いていけるような優しい世界ではないのだ。私の貯金を全て使ったとしても、できる事は限られている。

彼女たちの前から消える前に、この問題だけは何とかしなければならない」


「○○○○年○○月○○日 あの晩から、カイリとの関係が続いている。

初めてカイリに手をかけた次の晩、カイリが私の部屋にやってきたのだ。

そして、自分が相手をするからハクリには手を出さないでほしいと申し出てきた。

私には、自身の行いを否定することも、カイリの誘いを拒否することもできなかった。

私は歪んでいる。どこかで自覚はあった。だが、周囲に親しい人間を作らない私の性格なら何も問題はないと思っていた。

彼女たちを救った日、そのまま育てようなんて考えずに、さっさと闇市場にでも流した方が彼女たちのためだったのではないか、最近ではそんな風にすら考えるようになった。

私は一体どうすればいいのだろうか。このままでは罪悪感と劣等感に押し潰されてしまう。私が私でなくなってしまいそうな気すらしている」


「○○○○年○○月○○日 今日はある一人の男と出会った。

仕事の帰り、私の知り合いの中でも数少ない信頼できる人物と会って、久しぶりに酒を飲み交わした。その際に紹介された男だ。

私の内情までは伝えていないが、二人の娘を今後どうするか迷っている、と何度か相談していたのだ。

それなら、と込み入った事情を持つ事件の処理するプロフェッショナルを連れてきてくれたのだろう。

初めは疑いながら接していたものの、なるほど、確かに仕事の出来に関してはこれ以上ない程のクオリティだった。

もしかしたら、カイリとハクリの件についても、上手く事を運んでくれるかもしれない。

そう思った私は、更に詳しい状況を説明した後、連絡先を交換して男と別れた」


「○○○○年○○月○○日 男から連絡があった。

準備が整った。説明と最終確認がしたいから初めに会ったバーに来てほしい、との事だったので、彼女たちを留守番させて急ぎ足でバーに向かった。

男の話は要約するとこうだった。

まず、この界隈で女が暮らすのに身売りをしないで済むのは、マフィア幹部の女か、もしくはその娘、あとは女に興味を持たない富豪の使用人くらいだという。なので、今回は後者を狙っていこう、と。

そして、各方面へ声をかけ探し回った所、運良く貰い手の金持ちが見つかったので、男が交渉を持ちかけてみたら、見事にOKをもらえたらしい。

そして私は男から彼女たちの待遇、給料、休日などの細かい条件を聞いていった。

さすがにプロフェッショナルと呼ばれるだけの事はあるのだろう。私に話を通す前に、既にこちらが求めていた要求をほとんどクリアしている案件に仕上がっていた。

なので、あまり変更する点もなく、そのままの条件で依頼する事にして、約束の代金を払い、男と別れた。

彼女たちの引き渡しは今日からちょうど一ヶ月後、それで彼女たちとも別れることになるだろう。

引き渡し後も、彼女たちと会ってはならないという決まり事はなかったが、私のような人間とは関わらないまま生きていくのが正しいのだ。

残された一ヶ月の間に、気持ちの整理をつけ、笑って送り出してやろう」

次の投稿は未定です。

本編は一日一更新を目安にしていますが、こちらは連続で投稿する事もあれば

全く投稿しない場合もあります。


あとから気付きましたが、日付や年齢設定がまだできていませんでした……。

一般的な赤ん坊が話し始める時期や、運動ができるようになる年齢などについて、調べようと思ってそのままにしていたみたいです。

暇な時に埋めておきます。。。

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