05:クラスメイトに異変が起こった
夏休みも近くなったある日のこと、事件が起こった。
その日、私のクラスはマナーについての勉強をしていた。
三年生の先輩と一緒の授業で、生徒一人につき先輩が一人付いて指導を行うというものだ。
しかし、若干一年生の人数の方が多いので、私とミミは二人一緒で一人の先輩に見てもらっていた。
私達の担当はユンナ=オロンジュ副会長、生徒会の副会長をしている美人で聡明な女の先輩だ。
「ふふ、二人とも優秀だから楽でいいわ」
澄んだグレーの目を細めて、微笑む副会長は私とミミの憧れの女性でもある。
今はお茶の作法に着いて勉強しているところだ。
私は、この日の為に何度も予習をして来たし、ミミに至っては家にいたときから普通にやっていた事なので、他の生徒よりも早く終わってしまった。
ミミの他にもお嬢様育ちの生徒達は、すんなり終わらせている子が多かったが、男子生徒は少し苦戦しているようだ。
その時、隣のテーブルで授業を受けていた女生徒が倒れた。
倒れたのはナノ=パスティックという女生徒で、ミミや私とも仲がいい女の子だ。
「どうしたの?大丈夫?」
彼女の担当の三年制が慌てて駆け寄る。私も彼女に駆け寄った。
「!」
顔が青白い……
貧血を起こしたのだろうか。教師がナノに声をかける。
「パスティックさん、大丈夫ですか?聞こえますか?」
ナノがビクッと動いた。
気が付いたのかと安堵したのもつかの間、突如彼女の目がカッと見開く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
手足をばたつかせ、ナノは叫び声を上げた。尋常ではない様子だ。倒れた時に怪我したのだろうか、首からも血が流れている。
「ナノ!どうしたの、ナノ?!」
目が血走っている……
「早く、医務室へ!」
少し離れた場所で男子の指導をしていた会長も駆け寄って来る。三年生の男子達が、用意した担架にナノを乗せて担ぎ上げた。
「リル、大丈夫よ。ナノには私が付き添うわ……」
副会長が動揺した私に優しく声をかけ、顔を覗き込む。
「……はい……宜しくお願いします」
彼女は頷くと、担架を運ぶ生徒と共に医務室へと歩いていった。
ーーこの時の私は、動揺しすぎていて気がつかなかった。
授業でナノの指導をしていた三年生の先輩を、会長が底冷えする様な目で見つめていた事をーー
ナノは自宅療養が必要だという事で、学校を休学して急遽実家に帰ったそうだ。
翌日、教師が生徒達に説明した。
仲が良かった子だけに、急に居なくなってしまって寂しい。
また一人、一年生の生徒が減ってしまった。