03:危険な先輩に襲われた
ミミと私は、すっかり仲良くなった。
授業も滞りなく進み、クラスメイトとも上手くやっている。
そんなある日、私は、移動教室の途中で知らない男子生徒に声をかけられた。ミミが体調を崩して早退したので、私は今、一人で教室を移動しているーーそんな最中のことだった。
相手は見かけない顔なので、他の学年の生徒なのだろう。
「君、一年生だよね」
なぜか緊張した様子で話しかけてくる彼の様子に不信感を抱きながらも、私はそっと口を開く。
「……はい」
「俺、二年のグレイ=モング。ちょっと、一緒に来てもらっていいかな?」
少し強引なグレイ先輩に連れられ、私は近くの中庭に出た。
四本の大きな柱に囲まれた中庭には、綺麗な花が沢山植えられていて、その中央に大きな白い噴水がある。
ーー何だろう、告白……? それとも、人に言えない話?
グレイ先輩は、中庭の柱の近くのーーちょうど周りから死角になる場所に来ると……いきなり私を乱暴に柱に押し付けて言った。
「お前、良い匂いがする。味見させろ……」
「先輩! 何するんですか、やめてください!!」
ーー怖い
けれど、強い力に抗うことができない私は、体をこわばらせて抵抗の声を上げることしかできない。そうしていられるのも、時間の問題だろう……
先輩が嗤いながら顔を近づけてきたので、私は恐怖に耐えられなくなり目を閉じた。その時ーー
「そこの君、こんな場所で何をしているんだい!? もう、授業の始まる時間だけど」
不意に響いた鋭い声に、私を押さえつけていた先輩の手が緩んだ。
その隙に先輩を突き飛ばした私は、この機を逃すまいと慌てて彼から離れる。
突き飛ばされて後ろにふらついた先輩は、私の背後を見たままその大きな体を強張らせた。
「か、会長……これはっ……その……」
先輩の声につられた私が、後ろを振り返ると……入学式に見た、あの生徒会長が、冷たい目をして置物のように立っている。彼の瞳は、後ずさる先輩に鋭く突き刺さったまま外れない。
「僕は、君に何をしているのか聞いているんだけど……」
「あの……っ……」
グレイ先輩は、モゴモゴと何か言い訳しているのだが、距離があるせいかよく聞こえなかった。
会長は、私の方に向き直ると、さっきとは打って変わった優しい口調で話しかけてくる。
「大丈夫だったかい? 彼には、何もされてない?」
「……はい……助けて頂いて、ありがとうございます」
「間に合って良かった……」
こちらに手を伸ばした彼は、安心させるように私の髪をそっと撫でた。
「彼は僕が連れて行くから、君はもう行っていいよ」
「あ……はい」
入学式の時もそうだったけれど、会長は第一印象に違わず親切な人だ。
「あ、あの……本当にありがとうございました」
私は、彼に向かってペコリと頭を下げーーそのまま、まっすぐに次の教室へと向かったのだった。