01:入学式で優しい生徒会長に出会った
学園もので、吸血鬼の話です。
鬱蒼とした森の中に、限られた生徒達が通う学園がある。
ノワール・シュヴェルツェ学園ーー
霧深い山奥に佇むこの全寮制で閉鎖的な学園は、私ーーリル・グルナードが今日から通う場所だ。
名前こそ知られているものの、その内部事情は謎に包まれている。
今日は入学式なのだが、慣れない学園を前にして私は少し緊張していた。
というのも、この学園に通う生徒は、すべて金持ちの子供だからだ。彼らとうまくやっていけるのか……ド庶民の私は、今から不安でならない。
父親は、モスリンという田舎町のただの地方公務員で、母親は町の薬剤師。そんな私の家では、本来この学園の授業料を払えない。
うちは、ごくごく普通の収入しかなく、私の下には妹が二人もいるのだ。
この学園に入れたのは、ひとえに主席入学により授業料が全額免除になったからである。
なぜ、そこまでしてこの学園へ通うことにしたのかというと、ノワール・シュヴェルツェ学園を出れば就職には困らないからだ。
卒業後、全生徒に学校が仕事を斡旋してくれ、待遇の良い職場で働く事が出来る……と学園から取り寄せた資料に書いてあった。
だから、卒業後は良い仕事を紹介してもらい、私が家族を支えたいと思っている。
それにしても……入学式というのに、私の頭上には陰鬱な灰色の雲が広がっており、辺りは真っ白な霧に包まれていて近くしか見えなかった……残念だ。
私の地元から少し離れたこの地域は天気がよくないと聞いていたけれど、こんな日まで曇らなくてもいいのではないだろうか。
そんなことを思いながら、私は固い足取りで、入学式が行われる講堂へと向かった。
ノワール・シュヴェルツェ学園の講堂は、重厚な歴史のある建築物だ。
黒ずんだ石造りの壁と天井に金色の装飾が施しており、窓には濃い色のステンドグラスが嵌められている。壁に取り付けられた蝋燭は、不気味に揺れながら赤々と燃えていた。
「ようこそ、ノワール・シュヴェルツェ学園へ」
黒い修道服のような、格式ばった衣装を着た教師の代表が壇上に上がり、堅苦しい挨拶を始める。
薄暗い講堂内は静まり返っており、その教師の声だけが壁に反響していた。
教師の次には、生徒の代表として、生徒会長の挨拶が続く。
主席入学をした私も新入生代表挨拶をしなければならないので、頃合いを見計らって待機場所へと移動した。
「新入生の皆さん……」
銀髪で群青色の目をした生徒会長が、新入生への挨拶を始める。とても綺麗な男性である会長を、新入生達が憧れの眼差しで見つめていた。
会長の挨拶が終わると、次は私の番だ。
緊張しながら歩いていると、壇上へと上がる階段の手前で降りてくる会長とすれ違った。
「頑張って」
淡く微笑んだ会長は、私に向かって優しく声をかけてくれる。
「は……はい。頑張ります!」
少し心強くなった私は、頭の中に今日のために用意した原稿を思い浮かべ、勢いよく壇上に立ったのだった。