10円でお前を消し炭にしてやろう(キリっ)
おはようございます。
「お金貸して!」
生きてきて美少女に話しかけられた言葉が金を貸してくれ、だった。
*①
この日は僕にとって厄日だった。とてもじゃないが言えない事ばかりだ。
僕は小さな社会に虐げられている。詰まる所、いじめを受けている。そんな僕が厄日なんて言う日なのだ。
「帰りたい」
何かあればすぐこれだ。口癖になるほど口にした言葉。ボソボソと呟くと気味悪がられるのに何故ウェブ上で呟くと返答がくるのか。
「はぁはぁ、もう出させてくれ」
今、話し相手ができるのなら絶賛募集中だ。
何しろ今は暗闇で一人待機中。半泣き状態の僕は跳び箱の中で膝を抱えて今か今かと待っていた。
なんでそんな所にいるのかって? 聞かないで欲しい。僕はクラスの女子に虐められている。女子達曰く僕は【サイフ】らしい。
そんなサイフはいつも財布を持ってこなければ殴られ、蹴られを繰り返されるんだろう。
そして今日、財布を忘れた為にひ弱い僕は超ひ弱い(自称)少女達に物理的衝撃を受け、気絶したのだ。
起きて目に付いたのは木製の囲い。上にはとても重い物が乗っているのか、しかし重いため持ち上げることが出来ない。
「さむっ」
もう外は暗いのかもしれない。先程よりも温度が下がり、体育館倉庫であろうこの場所に人が来ることはあるのか……。
「ちょっと! ここに何の用?」
誰かがこの体育館を開ける。クラスの女子達にはいないような声。聞き入る声に僕は耳を澄ます。
その声の主は誰かと話しているようだった。
「この近くに俺様の金蔓の匂いがする」
ハスキーボイスの男性の声もするが辺りは暗くてわからない。
僕は跳び箱を叩く。手が痛いくらいに叩き、少女と男性に向けて合図する。
「助けてくれ!」
キャっと驚く声が聞こえた。いきなり静かな所で大きな音が聞こえたのだ。驚きもするだろう。
「だ、だれ!?」
「ビンゴだ」
足音と共に近づく気配がする。少女は二回、僕の入った木製の箱を蹴る。手荒い。
「お金貸して!」
「いや起きたらここにいて……は?」
助けてくれるんじゃないの!?
僕は隙間から声を出す。今日は持って来ていないんだ、と。
「ジエロ! 持っていないってるけど、本当にコイツなの?」
「うむ。奴が吾輩の財布だ」
こいつら無茶苦茶言いやがって。何が吾輩の財布だ!
「僕はお前らの財布じゃない。どいつもこいつも僕を財布扱いしやがって」
「あんた財布じゃないの?」
「違うに決まってんだろが!」
少しの間が空き、少女は立ち去って行く。まるでもう忘れられている様に。
「待ってくれ。いや、待ってください! 100円持ってます。100円だけっ!」
「100円! あんたを助けてもお釣りができるわ」
隙間から100円を投入する。壁一枚の向こうでは喜ぶ声がする。100円でとても大げさだ。
「全て消えろ。我呼ビ起コス魔、価値アリ。其ノ焔、不屈ノ表ワレ二成ル」
物凄い厨二病だ。それが本物だと知るまでは。
視界全体が真赤に染まり、熱風が顔面に吹き、先程までそこにあった囲いは形すらない。
「90円残ったわ。これでお菓子が買える!」
「……」
なんだったんだこれ。灰すら残っていない。
前髪が少し焦げ臭いんだ。これ全て焼き払っているのか……?
「感謝しなさいな」
僕はいつの間にか叫んでいた。
(Ⅰ)
「魔法使いなの」
自称かと思ったが本物だった。彼女はお金で魔法を償還するらしい。償還って、返済してまで魔法を使う必要はあるのか?
彼女曰く、
「魔法少女に憧れていたのっ!」
顔を真赤にするがテロでも起こすのだろう。それ程に目の前で壮絶な非日常がぶつかったのだ。
「あたしの名は深条せつね。コイツはあたしのサイフだ!」
指を指された僕は机に縮こまるのだった。来てそうそうコイツは一体何がしたいんだ。
頭を抱える僕はこの日早退したのだった。
そしてお休みなさい。