4
「よーし!皆揃ったかぁ!」
ゲインの大きな声が訓練場に響く。
「本来であれば明日発表するものだったが、俺に任務が入ったため今発表する」
辺りが騒がしくなる。
「静かに!本日、訓令過程を半分終えた為、明日より編隊を作りその編隊で訓練を行う」
一班より名前が発表されていく。
どうやら各班ごとに指導官が就くみたいだった。
ゲインの後ろに並んでいるのは指導官だろうか。
リルフィは隊列の後ろの方にいたのでよく見えず背伸びをして見ようとしたが一班の指導官が発表された時に、よく知っている名前だったので思わず身を隠してしまった。
「一班、クロシアル指導官!」
クロシアル??
と、とりあえず見つからないように前にいる大きな体の訓練生の後ろに隠れる。
どうか見つかりませんように!
リルフィは最後に発表された五班だった。
サシェも同じ班だったのでちょっとだけ安堵した。
「五班、エヴァンス指導官!」
さっきの人だ。
大きな壁のような訓練生の後ろからこっそり顔を出して様子を伺う。
エヴァンスなんて聞いたことがない。
中隊長クラスかな?
ブラウンの髪に一見若そうな風貌からは彼の実力は一切わからなかった。
「リルフィ」
そんな呑気なことを考えていたら知らない間に解散の号令がかかっていたらしくサシェが目の前まできていた。
「あれ?もう終わったの?…ってああああぁぁぁ!!」
いつの間にか目の前にいて影になっていた訓練生もいなくなっており指導官からこちらが丸見えになっていた。
慌ててサシェの腕を引っ張り寄宿舎に戻った。
寄宿舎に戻るとちょっとした騒ぎになっていた。
特に数少ない女の訓練生は指導官のカッコ良さに騒いでいた。
「あたし、カーゼル様の班だったわ!でもクロシアル様の班になりたかったわ〜!」
「私なんてキイゼイ様が指導官よー!あの知的なお顔を近くで見られる日がくるなんて!」
「ということは指導官舎に当分皆さんいらっしゃるということかしら!」
きゃあきゃあ騒ぐ女子達を横目に男の訓練生のたちは隊長クラスの憧れの存在たちが指導官ということで興奮しているようだった。
「まさかクロシアル様の指導を受けられることになるとは!!」
「いやいや、レイヤード様の今まで残してきた功績も凄いものだからな」
どうやら五人しかいない女子たちは二班と三班に二名ずつ別れたみたいだ。
なんで私だけ一人…。
ちょっと仲間外れの気分になり落ち込んでしまいそうだ。
「リルフィ?もう手を離してくれないかな?服が伸びちゃうよ」
「あ。ごめん…」
まだ腕を掴んだままだったことに気づき慌てて手を離した。
「ねぇ、サシェ。クロシアル、様って何番目?」
「呆れた。見てなかったの?」
「違う。後ろで見えなかったの」
本当は隠れたんだけれども…。
仕方ないな、とばかりにサシェは肩を竦める。
「三番目だよ。蒼騎士団のシゼル=クロシアル公爵子息しか指導官になる人なんていないだろ」
クロシアル公爵には三人の息子と一人の娘がいる。
シゼル=クロシアルは公爵家三男であり蒼騎士団に所属している。
蒼騎士団とは王直轄の騎士団で一人一人の実力はその他の騎士団の隊長クラスだと言われるほどの精鋭が集まっている。
その中でシゼルは一、二を競うほどの実力の持ち主…らしい。
「そ、そうだよね」
よくよく考えればわかることだったのだが動揺していたリルフィはそこまで考えが及ばなかった。
「私、着替えなきゃだし部屋に戻るね」
「そうだね。まだ泥だらけだし早く部屋に戻って着替えた方がいいと思うよ」
「ん。明日からよろしくね」
「こちらこそ」
笑みを顔に張り付けサシェと別れた瞬間に素早く部屋に入り服を着替え湯浴みに向かった。
な、な、な、なんでここにいるのー!?
急いで湯浴みをすると黒を基調とした簡素な服に着替える。
まだ廊下では騒がしい声が聞こえるので窓枠に足をかける。
ここは二階だしあまり目立ちたくない。
そう思っていた矢先に部屋をノックする音がした。
「はい」
窓枠から急いで足を外して扉へ向かう。
「アイザック〜、ゲイン様が呼んでるぞー」
扉を開けると長身の顔にそばかすがある訓練生がいた。
名前、なんだっけ?
あまり交流がない訓練生のため咄嗟に名前がでてこなかった。
いや、それよりなぜゲインに今更呼び出されるのだろう。
「ありがとう」
短く礼をいい部屋をでる。
ゲインに呼ばれたのはちょうど良かった。