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リルフィとサシェがいるのはクロフォード国の騎士養成所であり、騎士を志す者は養成所に入り一年訓練を受けなければ正式な騎士になることはできない。
16歳以上であれば年齢性別身分を問わず志望することができる。
しかし二年に一度しか募集がないのと一度に50名しか募集しないので、国中の騎士を志望する者たちが集まり非常に高い倍率となっているのであった。
ちなみに貴族枠というのもあり最大10名まで入れる。
サシェは伯爵家嫡子なので貴族枠で養成所に入ることもできたのだが一般試験を受け難関を突破した変わり者だ。
本人曰く、コネで入るみたいな実力がない奴がやるようなことをやりたくなかった。ということらしい。
真面目だ!
サシェは試験は上位で突破し実力もあるし、曲がった事が大嫌いな今時の貴族にしては珍しい好青年だった。
リルフィのことも女だからとか、身分などで見下したりせず友人として接してくれるので、リルフィも入隊してすぐ彼と仲良くなった。
リルフィも一般試験を受験したのだが下から数えた方が早いほどギリギリの合格であった。
リルフィの場合、筆記は上位であったのだが実技で持久力が足りず評価があまり良くなかったのだが…。
訓練生になってからはあっという間で気がつけば半年経ち、卒業まであと半年を残すところになった。
「そこにいるのはアイザックじゃないかい?」
食事をしながらサシェとの話に夢中になっていると、不意に声をかけられた。
…この声は!
「汚らしい格好をしているということはまた居残りかい、落ちこぼれアイザック」
嫌な奴が来た。
フィルット=アカシア、こちらも伯爵家の嫡子。
貴族枠で養成所に入り、養成所の中でも家柄が良いということもあり、いつも偉そうに威張り散らしている。
本当はサシェの方が家柄的には良いんだけどね。
サシェは偉ぶるタイプではないので、フィルットの天下なのだ。
今日も金魚のフンみたいな子爵家の息子を引き連れていた。
フィルットはリルフィのことがあまり好きではないようで何かにつけて絡まれる。
リルフィとしてはあまり関わりたくないので無視して食事を続けた。
「人の話を無視するな!アイザック!」
無視されたことが余程気に入らなかったのか食べかけの食事をなぎ払われた。
「なっ!」
ガランッと大きな音を立てて木で出来た皿が床に落ちる。
「フィルット、食べ物は無駄にしちゃ駄目だって親から教わらなかったの?」
静かに、しかし確かに怒りを含んだ声音でリルフィはフィルットに問いかける。
「ば、馬鹿じゃないか!食べ物なんていくらでもあるだろ。こんな不味い食事なんて家畜の餌並だろっっ」
喚き散らすフィルットを無視して、リルフィは床に落ちた食べ物を拾う。
床の土が着いてしまい洗わないと食べれなさそうだ。
ガシャンッ
突然手に持っていた皿をはたき落とされる。
再び落ちた肉をフィルットは踏みにじった。
「無視するな!平民風情がっ!」
「やめないか、フィルット」
サシェがリルフィとフィルットの間に入った。
「チャート伯爵の嫡子である君は、同じ貴族である僕ではなく平民の味方をするんだね」
「僕は貴族だからとか平民だからとかで人を判断するつもりはない」
格好良いよ!サシェ!!
リルフィはサシェの背中に隠れながらフィルットの足の下にある肉を残念そうに見つめた。
流石にもう食べれないかな…。
「このっ「何騒いでるんだーっっ!!」
フィルットが何かを言いかけたが、大きな怒号がそれを遮った。
食堂の入口をみると教官であるゲインがいた。
筋肉隆々な体のゲインの一括する姿は鬼以外の何者にも見えなかった。
ひぇぇぇ!
「ゲイン様!!」
フィルットも先程までの偉そうな態度をころっと変えて薄気味悪い笑みを浮かべている。
ゲインはというと騒ぎの原因がリルフィであると気がつくと溜息を付いた。
「またお前か、アイザック!今度は何をしたっっ」
違うと言いたかったが平民から騎士になったゲインは明らかに貴族の訓練生に対して甘かった。
今もフィルットやサシェがいるにも拘らずリルフィだけに対して厳しい視線を向けている。
「ーーー」
何かを言おうとしたが何を言っても自分の立場は変わらないと思い言葉が出てこなかった。
「そこにいる坊ちゃんが、そいつの食事を散らかしたんだよ」
驚いて声のした方へ向くと食堂の隅に一人の男が座っていた。
見たことがないことから訓練生ではないようだ。
「エヴァンス様!!いらっしゃってたんですか!」
ゲインは自分より年若いその男に頭を下げる。
誰?
エヴァンスと呼ばれた男は表情を変えることなくゲインをみている。
「お前が来た理由を忘れたのか」
「わ、忘れておりませんとも!おい!訓練生全員10分後に訓練場に集合!」
その言葉に騒ぎに野次馬に来ていた訓練生や、まだ食事をしていた訓練生は大慌てで訓練生をかき集めに走った。




