会話的説明 《魔法》の科学的考察編
本編とは違い、台本チックに。
[なとせ]
「兄上様。
お願いがあります」
[十路]
『なんだ?
電話かけてきてイキナリ改めて』
[なとせ]
「いやチとさー、学校の宿題で《魔法》のことが出てさー。
全くわかんねんで、本職のクチから教えて頂けませんでしょーかね?」
[十路]
『それはいいんだが、日本語が変だぞ』
[なとせ]
「あたし日本語が不自由なもんで」
[十路]
『…………ま、いいや。
で? なにを知りたい?』
[なとせ]
「兄貴たちが使う《魔法》って、科学技術ってゆーじゃん?
それどゆこと?
図書館で調べたけど、イミフな言葉が多すぎてわかんない」
[十路]
『こういう解説するのは、俺のキャラじゃないんだけどな……』
[なとせ]
「キャラじゃないとかいいから!」
[十路]
『…………』
[なとせ]
「兄貴? 聞いてる?」
[?]
【……は? 私が説明?
誰と話してるのか知りませんけど、部外者でしょう?
私が出るのはマズイのでは……?】
[十路]
『姿を見せてなら問題だけど、声だけなら大丈夫だろ?』
[?]
【ビミョーなラインですね……】
[十路]
『とにかく頼む……
俺じゃうまく説明できない……』
[なとせ]
「? おーい? なんか声が遠いんですけどー?
つか今どこで話してる?
電話して大丈夫だった?」
[?]
【え~~~~。
どこのどなたか存じませんが、初めまして】
[なとせ]
(え゛? 女の人?)
[?]
【経緯不明で説明を押し付けられたましたが……
まぁ、やる事は先にやっておきましょう。
その後に質問タイムということで】
[なとせ]
「…………」
[?]
【Are You OK?】
[なとせ]
「お、おーけぃ。
ざっつ・おーらい」
[?]
【質問は《魔法》がオカルトではなく、なぜ科学技術として成り立っているか、ということですね?】
[なとせ]
「うぃ。そういうこってす」
[?]
【まず最初に結論から定義しますと。
ゲームやマンガのキャラクターが使用する、理論不明でオカルティズムな『魔法』を、科学的に再現することは不可能ではありません】
[なとせ]
「『可能』って断言はしないんだ?」
[?]
【物理法則に縛られている以上、限界があります。
『絶対零度を下回る低温を作る』とか『光速を超える速度で動く』とか『質量のある残像を残す』とか不可能です】
[なとせ]
「あー、物理法則を無視した厨二病的脳内設定?
科学的っぽい説明してるっぽいけど実はしてないってヤツ。
某跳ぶマンガ雑誌の連載に多いよね」
[?]
【あまりそういうこと言うと、お偉い誰かの怒りを買いそうですが……
あと呪いとか、心を読むとか、そういうのも無理ですね】
[なとせ]
「なんで?」
[?]
【呪いとはどういう現象が説明してください。
心というものを大脳生理学的に定義してください】
[なとせ]
「無理っす」
[?]
【そんな科学では解明できないことは、不可能ですね。
それを除けば、科学的な再現はおおよそ可能です。
モンスターを凍らせる。
超強力冷凍庫に入れても、液体窒素をぶっかけても、同じことです。
モンスターに雷を落とす。
スタンガンとか人工落雷装置のように、電源と電極があれば、同じことできます】
[なとせ]
「いや、そーだけど……なんか、夢がないというか?
ゲームで考えたらマヌケじゃん?
『魔法使い』が冷凍庫とかスタンガン背負ってるの?」
[?]
【では、目には見えない冷凍庫やスタンガンならば?
それで同じことを行えば、それは科学技術ではなく、『魔法』だと判断するわけですか?】
[なとせ]
「……そーゆーことになるね」
[?]
【そういった目には見えない冷凍庫やスタンガンを作る、全自動万能工作機械の操作。
それが現代社会における《魔法》――Environmental Controlだと思ってもらえればいいです】
[なとせ]
「???」
[?]
【……理解していないようですので、話を先に進めます。
そうすれば、おのずと理解も追いつくと思いますので。
先に言ったように、『魔法』を科学で再現することは可能です。
しかし、それには以下のような大きな問題点を解決しないとなりません。
①座標、ベクトルの指定。
②エネルギー供給。
③空間への機能情報の記録。
この工程が確立されなければ、科学的に『魔法』を再現することは不可能です。
それがファンタジーにおける『魔法』と科学技術を分ける、最大の要因です】
[なとせ]
「エネルギー保存の法則をシカトぶっこいてるのが最大の要因だと思ってた」
[?]
【なにもない空間から、なにかを作り出すことですか?
大気を極低温化させることで、固体窒素の『氷』を作ることは可能ですし、塵を集めてコスチュームや装備を作るといったことは、『無から有を作り出しているように見える』と考えれば、原理的に問題はありません。
まぁ、アニメのように即座には無理ですし、現実的でない莫大なエネルギーが必要だったり、再現するには核爆発か核融合が必要って場合もありますけど】
[なとせ]
「危ないデス!」
[?]
【話が脱線したので、元に戻しますが……
仮に『魔法』という現象を起こすためには、念じてMPを消費することで、どこかに情報とエネルギーを送っているとしましょう。
それは感覚的でも理解できると思います】
[なとせ]
「そりゃそーだよねー。
なにも無く物事が起こせるわけはない。
なにかを得るためには、犠牲は必要。それは物だったりお金だったり人間関係だったり。
小さなリスクで大きなリターンが得られれば一番だけど、人生はそんなに甘くない。リスクに見合わないリターンどころか、リターンがなかったりもする】
[?]
【人生の真理はともかく……
電気で考えると、消費電力量は確かに問題なのですが、大事なのはそこではありません。
原子力発電で発電量毎時100キロワットを超える炉はザラですし】
[なとせ]
「どうやって今世界的にも存在価値がビミョーな原発から、モンスターと戦ってる場所まで、電気引っ張って来るのさ?」
[?]
【送電線不要で、電波やレーザー光線でエネルギーを伝達する技術はあります。
例えば、宇宙空間の太陽光パネルで発電した電力を、地上にマイクロ波で送るなんて構想は、昔から研究されてます。
非接触給電のマウスやセンサー、電気自動車なども、既に2000年代に実用化されています。
しかし私が問題としているのは、そういうことではないのです。
電波やレーザーといった『弾丸』を発射する、発信機や電源という『銃』の引き金を引けば、どうなると思いますか?】
[なとせ]
「ん? ふつーに『弾』が発射されっしょ?
なんも問題ないじゃん?」
[?]
【受信機という『的』はどこにありますか?
数学的には空間座標(x,y,z)という点を定義できますが、実際にはそこに目標はなく、その点に向けて発信しても、ただ通り過ぎるだけです】
[なとせ]
「あ~……
それで問題①の座標、ベクトルの指定ってわけ?
それができなきゃ問題②も解決できない?」
[?]
【はい。
目標もなく高エネルギーを発信すると、レーザー光線を乱射したり、周囲まるごと電子レンジに放り込んだのと変わりません】
[なとせ]
「モンスターを攻撃するなら、それで十分な気がするけど?」
[?]
【それで効果の違いをどうやって発生させるのですか?
冷凍させたり感電させたりするには、どう考えても不可能ですよね?
しかも攻撃ではなく、『魔法』で回復させる場合は?
味方に向けて、敵に向けるのと同じ作業をするわけですよ?】
[なとせ]
「うぉ、そっか」
[?]
【ゲームで考えてください。
『魔法』を使うにはMPを消費します。
しかし『火属性用のMP』『水属性用のMP』なんて分類をしてるゲーム、あります?】
[なとせ]
「レベルごとに使用回数が決まってるゲームなら、昔あったよ?」
[?]
【話がややこしくなるので、古き良き時代のレゲーは出さないでください……
なんでしたら、家の中を考えてください。
ホットプレートと冷蔵庫では、機能が全く異なりますが、どちらもその動力源は、変電所から送られている電気です。
『加熱するための電気』とか『冷やすための電気』なんて区分はありません。
電気をMP、念じて『魔法』を使用することは家電製品のコードをコンセントに挿すことに置き換えると、ただエネルギーを与え、『魔法』を使おうとすることは、コンセントの穴に指を突っ込むようなものです。
それで感電はできますが、ホットプレートや冷蔵庫を動かすことは、どう考えても不可能ですよね?】
[なとせ]
「つまり、『念じるだけで魔法の効果が変わる』ってのは、不自然極まりないんだね?」
[?]
【星の数ほどあるファンタジー作品を斬り捨てたような気がしますが……まぁ、そういうことです。
たとえば精霊や神と契約し、決められた手順に添って準備し、ある決まった形でしか発動できないという設定ならば、問題はないのです。
部品から自分で家電製品を組み立てて、それを使うようなものですから、まだ納得はできます。
しかし全く別の機能――違う属性を使うとなれば、かなり怪しいです。
マッサージ器を分解した部品を組み立て直しても、炊飯器として米を炊くのは無理でしょう?
イメージでどんな『魔法』でも発動できるとなったら、もっと考えられません。
粘土細工が実際に動くようなものですよ」
[なとせ]
【それで問題③ってのはわかったけど……
『空間への機能情報の記録』ってのは?】
[?]
【先の例では、家電製品を買ってきて、コンセントに挿すことです。
言いましたよね?
『見えない冷蔵庫やスタンガンがあれば、科学ではなく魔法と思うのか』と。
だったらまずは、それを用意しないと】
[なとせ]
「具体的にはどーやって?」
[?]
【ここから先は、その三つの問題をどうやって解決しているのかという話にもなるのですが……
ずばり《マナ》――《Multirole Atteibute Nano-technology Artifacts》の作用です。
30年前に出現した、大気中に満ちていて、力学制御を行うナノテクノロジー群。
それがあることで――
①なにもない空間の座標とベクトルを指定。
②エネルギーをそこに向けて発信し、安全に受け止めさせて供給。
③狙った効果を得るために空間への情報記録を行う。
オカルトと科学技術を分ける『魔法』の問題を解決しているのです】
[なとせ]
「《マナ》って呼び方、そのままズバリだよね」
[?]
【狙ったのか偶然なのか、ファンタジーではお馴染みの名称ですからね……
《マナ》は大気中に漂っていますから、目標座標の機体を『的』として、電波やレーザーを放てば、そこに情報やエネルギーを止めさせることが可能です。
そして多くの《マナ》に機能情報を与えて協力させて、総合的な力学制御を行わせることで、現代科学では作れない超テクノロジー電気製品を、擬似的に作っているわけです。
ごく小さな機械が集まることで、その場で見えない超強力冷凍庫や人工落雷装置や医療機器になると思ってもらえば、理解が早いと思います】
[なとせ]
「えーっと。
実際にある《魔法》が科学技術ってのは、ナノマシンがあるからって解釈でいいのかな?」
[?]
【実はSFファンタジーなどでは、お馴染みの設定なのですけどね……
それから、問題の全ては、《マナ》の存在だけでは解決できません。
《魔法》を運用するための膨大なエネルギー源の確保。
一度の《魔法》使用で数万基にもなる《マナ》個体への的確な無線通信技術。
《魔法》を起こすためのプログラムの汎用性。
プログラムを高速で処理するための莫大な演算能力。
そういった技術的な問題も発生し、そしてその解決の話が残っていますが、あなたの質問の意図とは外れるので、今回は説明を割愛します】
[なとせ]
「ってことは……これで講義は終わり?」
[?]
【一応は。
あなたが理解しているかは別問題ですが】
[なとせ]
「そんじゃーお待ちかねの質問ターイム!
おねーさん誰?」
[?]
【バイクです】
[なとせ]
「…………へ?」
[?]
【まぁ、そう言われても、反応に困るでしょうね……】
[なとせ]
「んと……
質問を変えるけど、おねーさん?
ウチの堤十路とどういう関係でせうか?」
[?]
(え? 『ウチの』?
さすがに私のことは説明してないようですけど……
トージの家族ですか?)
[?]
【……そういえば、私もなにも聞いていないので、質問したいのですが?
あなたはトージとどういう関係ですか?】
[なとせ]
(え? 兄貴のこと呼び捨て?
なんかスゲー馴れ馴れしい……?)
[なとせ]
「…………」
[?]
「…………」
[なとせ]
(なんじゃこりゃー!?)
[?]
(この意味不明な緊張感はなんですか!?)
[十路]
『……つーことだ。わかったか?』
[なとせ]
「いや突然話し相手が換わったけどなんか最大の謎が残りましたですけど!?
さっきの誰よ!?」
[十路]
『あー……
アイツの事は説明するのが難しいんだよな……』
[なとせ]
「一言で説明できない関係なのか!?」
[十路]
「俺との関係を一言で言うなら……
……俺が跨いで、アイツが跨がれる関係?
あと週一くらいでアイツの体を整備ってる」
[なとせ]
「…………へ?」
[十路]
『それじゃまたな(ガチャ)』
[なとせ]
「おーい! 兄貴ー!
跨るってなに!? Sなの!? Mなの!?
エロか! エロなのか! エロい関係なのかーーーー!?」




