会話的説明 《魔法使い》編
本編とは違い、台本チックに。
[コゼット]
「…………」
[和真]
「ちわーっす」
[コゼット]
「また剣道部サボって、ウチの部室に遊びに来ましたの……?」
[和真]
「今日はお姫様一人?
他の連中はいないんスか?」
[コゼット]
「堤さんにはお使いを頼んだので、バイクで外出。
木次さんは理事長に呼び出されてお茶汲み。
クニッペルさんの行方は、高遠さんの方がご存知でしょう?」
[和真]
「ナージャのやつ、最近付き合い悪いんスよ。
放課後になったらフラフラどこか行っちゃうし」
[コゼット]
「貴方に限って言えば、元々付き合いよくなかったと思いますわよ?」
[和真]
「言ってはならないことなのに!」
[コゼット]
「クニッペルさんとの仲は、諦めるのをオススメしますけどね。
貴方と彼女じゃ、どうやってもお友達止まりだと思いますわよ」
[和真]
「じゃあお姫様。俺とお付き合いしてください」
[コゼット]
「ア゛?」
[和真]
「すいません! 冗談が過ぎました!
だからガン飛ばさないでください!」
[コゼット]
「わたくしにだって、男を選ぶ権利くらいあるっつーの……」
[和真]
「俺、そんなにダメ……?」
[コゼット]
「え?」
[和真]
「なにその『自覚なかったの?』的スゲー意外そうな顔!?」
[コゼット]
「貴方、ツラはいいんですから……
その軽薄そうな性格をなんとかなさいな」
[和真]
「この一途な男にそれはないでしょ!?」
[コゼット]
「だから、どこが一途ですのよ?
クニッペルさんに言い寄る端から、わたくしにもそれっぽい声かけたでしょう?
ンなのダメに決まってるでしょうが」
[和真]
「うぃーっス」
[コゼット]
「理解してますのかしらこの人……」
[和真]
「ところでお姫様は、パソでなにやってんスか?」
[コゼット]
「論文書いてるんですわよ。
普通の方は《魔法使い》って存在に誤解がありますし、それを是正するために書いてる文章ですわ」
[和真]
「おぉ。なんか大学生っぽい。
だけど英語でなに書いてんだかわかんね」
[コゼット]
「これドイツ語だっつーの……
つか貴方、受験生でしょう?
『英語わかんね』とか言ってて大丈夫ですの?」
[和真]
「……そういや俺、高三って設定だっけ」
[コゼット]
「設定って……
あー、そうですわ。
受験勉強する気なくて、時間が余ってるなら、これ日本語に訳しますから、読んでくださいな」
[和真]
「俺、論文とか見たことねーっスよ?」
[コゼット]
「そういう一般人に見せる論文ですの。
わかりにくい部分を修正しないとならないですし、読んで指摘してくださいな」
[和真]
「はぁ、いいっスけど」
△▼△▼△▼△▼
■《魔法使い》
正式にはオルガノン症候群発症者。医学的には先天的な脳の異常発達症状を発症した者を指す。
(ちなみに『オルガノン(Oragunum)』とは、ギリシャ語で「道具・器官」を意味する)
この『病気』の特徴は、ブロードマンの脳地図における細胞構築学的区分において、通常の人間の52野にプラスし、前頭葉部分に6野多くなること。その追加領域は、通常のヒト大脳部分とは半ば独立しており、生物脳にはありえない、コン――
△▼△▼△▼△▼
[和真]
「パス」
[コゼット]
「投げ出すの早いっつーの!」
[和真]
「1ページあたり100文字以上使ってたら、とても読む気しないッス」
[コゼット]
「マンガ以外にせめてラノベくらいは読めるようになれ!
つか100文字だと教科書読めないでしょうが!」
[和真]
「だから読んでない!」
[コゼット]
「アホですの!?
ンなくだらねー事で胸張ってんじゃねーですわよ!」
[和真]
「ただ言わせてもらえば。
一般人に見せるなら、もっと分かりやすい言葉を使うべき」
[コゼット]
「う……それは一利ありますわね」
[和真]
「つか、十路から聞いたけど、小中学生にこの手の講義やってんでしょ?
そういう説明の方がいいんじゃ?」
[コゼット]
「そのままは使えませんけど……
取り混ぜて書くことにしましょ」
[和真]
「つか、小中学生相手に《魔法使い》の説明する時、どんな話してんスか?」
[コゼット]
「ゲームやアニメを例にとって、それとの違いを説明してますわね」
[和真]
「ほぅほぅ?」
[コゼット]
「『魔法の素質』ってのは、頭の中にコンピュータがあることだって」
[和真]
「それだけ聞けばドン引きですって!
サイボーグと思われるでしょ!」
[コゼット]
「それは事実ですけど……
目をキラキラさせる子も多いのですわよ……
ジャパニメーションの影響は大きいですわ」
[和真]
「……肉体改造は男の子のロマンですから」
[コゼット]
「ちなみに女の子は、変身ヒロインと混同しますわ」
[和真]
「できないんスか、変身」
[コゼット]
「服の変化だけなら、不可能じゃないですわよ?
でも、やりませんわ」
[和真]
「なんで?」
[コゼット]
「電気代がかかる。
あと普通に着替えた方が安全確実」
[和真]
「お姫様! わかってない!
パツ金ブルーアイの王女様が魔法少女とかスゲーロマンに溢れてる人なのに!
魔法少女は光の中で全裸になってからコスチュームに変身するのがお約束でしょう!?」
[コゼット]
「言いたいことは色々ありますけど、ひとつに絞りますわ。
わたくし20歳ですし、『少女』は厳しいですわ」
[和真]
「三度目の年女までは『少女』を名乗っていいそうでっせ?」
[コゼット]
「36歳までって……どこの異世界理論ですわよ」
[和真]
「理事長がそう言ってたっス」
[コゼット]
「……アラサーへのツッコミは無視するとして、話を戻しますわね?」
[和真]
「うぃ」
[コゼット]
「子供に《魔法》に関するする説明をする時は、やはりオカルトやフィクションの存在ではなくて、科学的な説明ができる人間だって話しますわね」
[和真]
「具体的には?」
[コゼット]
「《魔法使い》は頭の仕組みがコンピュータに近い人間。
呪文を自動作成するソフトと、『杖』とリンクする無線LANを持ってるって」
[和真]
「それで理解するんスか?」
[コゼット]
「理解してくれれば苦労しませんわよ……
ま、子供はまだマシなんですけどね」
[和真]
「大人への説明が大変?」
[コゼット]
「えぇ。《魔法》は科学だっつーの、なかなか理解してもらえない……
つか、それだけならいいですけど、偏見持ってますもの。
だからこんな論文を書かなきゃならないんですわよ」
[和真]
「偏見っつーと、あれ?
生きた軍事兵器って思われるってやつ?」
[コゼット]
「えぇ……この学校でも、やっぱりそういう認識はありますし、一部の方からは嫌われてますわよ」
[和真]
「え? お姫様でも?」
[コゼット]
「つか、貴方とクニッペルさんの方が不思議ですわよ?
よく平然と、人間兵器の溜まり場に遊びに来ますわね?」
[和真]
「お姫様はお姫様でしょ?
俺たちと大して変わんないし、他の連中だってそうだし」
[コゼット]
「ふふっ……ありがとうございます。
でも、そう考える方ばかりではありませんのよ?
わたくしたちはその気になれば、簡単に人を殺せるのは事実ですし、ゲームの『魔法使い』とは違って、恐怖の対象にもなりうるのですわ」
[和真]
「そりゃ一般人が銃を持ってる国と大して変わらないでしょ?
銃持ってる人間が、いつも撃つかってのとは、また別の問題だし」
[コゼット]
「それとは少し違いますわね。
銃の仕組みは、誰だって理解できますし、撃つことも可能。
でも《魔法》の仕組みは理解しがたいですし、誰にでも使える能力じゃありませんもの」
[和真]
「だから偏見はなくならない?」
[コゼット]
「人類の歴史から、人種差別や宗教抗争や格差社会がなくなれば、可能性はありますわ」
[和真]
「ムリ」
[コゼット]
「ちなみに、《魔法使い》が国家に管理されるのは、そういう一般人の差別から守る意味もありますの。
特殊育成機関に集めて、同じ境遇の子供たちばかりにすれば、最低限『《魔法使い》に生まれた』って差別は回避できますわね」
[和真]
「なるほろなるほろ」
[コゼット]
「それから、一般的に《魔法使い》は好待遇ですわ」
[和真]
「給料いいんスか?」
[コゼット]
「育成校では学費も生活費も無料。
それに自動的に国家公務員になりますわ。
もしも国の存亡に関わるような時、働いてくれなきゃ困りますから、『嫌なことはあってもメリットも大きいですよ』って思わせないと。
差別を放置してて冷遇してたら、国の敵になる可能性もありますわよ」
[和真]
「……十路も樹里ちゃんもお姫様も、国に管理されてないから、ここにいるんスよね?」
[コゼット]
「えぇ。そうですわよ?」
[和真]
「なんで?
管理されてた方がよかったんじゃ?」
[コゼット]
「女の過去を探る男は嫌われますわよ?」
[和真]
「ぐはっ! ここでそう来るか!」
[コゼット]
「堤さんや木次さんの理由は知りませんけど、いずれにしても、ロクでもない理由には違いないでしょうね……
ハイ・ファンタジーで『魔法使い』が、人里離れた場所で隠棲してる理由を想像してもらえれば、きっと間違いではないと思いますわよ?」
[和真]
「? ふーん」
[コゼット]
「ま、論文の修正に、一応の参考になりましたわ。
ありがとうございますわ」
[和真]
「あ、そこのフォルダってなんスか?
全員分の名前が書いたファイルがあるから、気になってんですけど」
[コゼット]
「わたくしの日本語の勉強も兼ねたメモ書きですわ。
大したことは書いてませんから、別に見ても構いませんわよ」
[和真]
「じゃ、失礼して」
△▼△▼△▼△▼
■木次 樹里 (Jyuri Kisuki)
電磁気操作と生体組織操作を得意とする《治癒術師》
長杖を使った武器戦闘にも長けており、あらゆる状況に対応できるオールラウンダー。
ゲームの職業に例えるならば、『魔法戦士』か『神官戦士』
技術的にも精神的にもまだ未熟な面があり、堪忍袋の緒が切れると、ヤケを起こした《魔法》の使い方をするため、たびたび被害(主に停電)を引き起こす。
現状でも優秀な《魔法使い》だとは思うが、もっと我慢強くなればさらに優秀になるであろう。
というか、被害を修理する身としては、キレないでもらいたい。
△▼△▼△▼△▼
[和真]
「……樹里ちゃん、そんなに短気ッスか?」
[コゼット]
「意外と短気ですわよ、あの娘……
しかもキレると怖いタイプですし」
[和真]
「怒らせないようにしよ……」
[コゼット]
「それが懸命ですわ。
あんま調子に乗ってセクハラ発言してたら、再起不能にさせられますわよ」
[和真]
「回復職なのに……」
[コゼット]
「ゲームでは回復職って、光属性の最強攻撃魔法を習得するでしょう?
場合によっては即死魔法も。
攻撃能力がないって思うのが間違いですわよ」
[和真]
「……気を取り直して、次」
△▼△▼△▼△▼
■堤 十路 (To-ji Tsutsumi)
本人曰く、『出来損ない』
いかなる理由か不明だが、《魔法》を使えないと思われる?
ただし、《使い魔》に搭乗した場合は、《魔法》が使用可能な模様。
ゲームの職業に例えるならば『騎兵』
生身の運動能力は高い。
たまに一緒に部活するの、不安になる。
△▼△▼△▼△▼
[コゼット]
(あー……堤さんが《騎士》ってのは書いてなかったですわね。
ま、広めることでもないですし、丁度よかったですけど)
[和真]
「十路のこと、あんまり書いてないっすね」
[コゼット]
「説明しにくいんですわよ……
あの人、《魔法使い》のクセに《魔法》を使わないですもの」
[コゼット]
(だからって、生身で《魔法使い》と渡り合うって、どんな化け物ですわよ……
戦車も戦闘機も身の回りのもので破壊しそうで、あの人ちょっと怖いんですけど……)
[和真]
「てか、《魔法使い》なのに《魔法》が使えないとか、あるんスか?」
[コゼット]
「そりゃあるでしょう。
《魔法》を使うのに必要な脳機能が傷ついたりしてれば、使えなくなるでしょうし。
堤さんの原因は、知りませんけどね」
[和真]
「で、次は……お姫様自身のことも書いてるんスね」
△▼△▼△▼△▼
■コゼット・ドゥ・=シャロンジェ
(Cosette De-Chalonge)
手前味噌になるが、幅広い分野に渡る《魔法》を持っているために、一般人が想像する『魔導師』に一番近いとあると思う。
運動が苦手であるのは自覚しているため、後衛からの前衛支援や遠距離を主に担当。思考が物質操作に傾向しているため、壊した街の修理といった戦闘の後処理も担当。
また《付与術師》と通称される、アビスツールの設計製作を行なうエンジニア技術を学んでいるため、部員の装備の製作と保守を行っている。
てかなんで理事長は急にワケわからなくてしかも時間のない時に備品作れだなんて仕事を持ってきますのよ設計してシステム組んで部品作って完成させるのも簡単じゃないし所有者いない状態で装備作れって後々の調整がスンゲー面倒になるって理解できるでしょうがなに考えてますのあの人いーかげんにして欲しいですわねヘラヘラ笑って『お願いするね♪』じゃねーしあとわたくしは修理係じゃないっつーのに木次さんだけでなく堤さんまで遠慮なくなんでもかんでもブチ壊しやがるから後始末が大変なんだっつーの口の減らないAIがケンカ売ってきやがるし部室には部員じゃないパンピーが来て堂々と長々と居座りやがるし昨日買って名前書いて冷蔵庫に入れてたお高いケーキ食いやがったヤツは誰だ次なにか面倒ごと起こしやがったらシメるぞコラァ!!!!
△▼△▼△▼△▼
[コゼット]
(しまった……
メモ書きですから、思うままに書いたきり……)
[和真]
「…………」
[コゼット]
(高遠さんがわたくしの地を知ってるとはいえ、さすがに引いてますわね……)
[和真]
「……えーと。お姫様」
[コゼット]
「オホホ……あまり気にしないでくだいね?
ちょっと気が高ぶってしまって……」
[和真]
「え? 気にしないでいいんスか?」
[コゼット]
「え? えぇ……」
[和真]
「ケーキ食っちまったの俺でした!
食った後に名前が書いてあったの気づきやした!」
[コゼット]
「貴様かシメるぞコルァ!!」
[和真]
「えー!?」




