第3話 信じることは1つ
医師から、佳奈は笑顔を失ったと言われた達也と佳奈のお母さん…。
佳奈は本当に笑顔を失ったのか…?
「…………」
医師から残酷な現実を告げられた俺と佳奈のお母さんは、待合室に戻っていた。もちろん、会話など無い。お互いに現実を受け入れられない。いや、受け入れたくないのだ。
「佳奈はね…」
そんな沈黙を先に破ったのは佳奈のお母さんの方だった。
「佳奈は、いっつも達也くんの話ばかりしてたわ。帰ってくる度に必ず達也くんの話をしていた。すごく幸せそうだったわ。私は、そんな佳奈の笑顔を見て、元気になれた。でも…もう、佳奈の笑顔は帰ってこないのよね…」
佳奈のお母さんは再び泣き出してしまった。そんな佳奈のお母さんを見て、俺は苦しくなった。『佳奈の笑顔は帰ってこない』と佳奈のお母さんは言ったが、俺は考えたくもなかった。俺の一番好きな顔が見れなくなるなんて…きっと佳奈は笑顔を見せてくれる。そう俺は信じた。
「新山さん、佳奈さんの意識が戻りました!」
佳奈の意識が戻った。俺は不安に押しつぶされそうになっていた。もし、本当に佳奈から笑顔が無くなっていたら…いや、何を考えているんだ俺は。大事な人のことを信じられなくてどうする…。大丈夫、きっと佳奈は笑ってくれる。笑って『たっちゃん』って呼んでくれるはずだ。そう思いながら、俺は佳奈のお母さんと一緒に病室へと向かった。
病室に入るとすぐに佳奈を見つけることができた。見たところ佳奈に変化は何もない。ただ、表情を見ると少し悲しそうに見えた。
「佳奈!」
佳奈のお母さんが名前を呼ぶと佳奈は、こっちを向いて
「お母さん!」
と言った。佳奈も佳奈のお母さんも泣いている。
「佳奈、大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ」
それから佳奈は俺に気付いた。
「たっちゃん…」
佳奈は俺を見て、すごく悲しそうな顔をした。俺の苦手な顔だ。
「どうしたんだよ、佳奈?」
「今日は大事な日なのに…ごめんね」
「佳奈が謝ることじゃないだろ。気にすんなよ」
「ありがとう」
そうは言ったが、佳奈の表情は悲しそうなまま。こんな時はいつも…
「佳奈、そんな顔するなよ。笑って」
「う…うん」
佳奈がそう言うが、表情は何か複雑そうな表情をしている。
「佳奈?」
「たっちゃん、『笑う』って何だっけ?」
「えっ?」
「『笑う』って何?」
頭の中に医師から告げられた残酷な言葉が思い出される。
『佳奈さんは一生、笑うことができないかもしれません』
こんなことがあっていい訳がない。今は意識が戻って間もないから笑えていないだけ。明日になれば絶対に笑ってくれる。俺は、そう信じるしかなかった…。
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はたして佳奈の笑顔は戻るのか…?
第4話も頑張ります!!