第25話 心
最終話です。
佳奈のいない生活に達也は…?
朝になって俺と裕美さんは、佳奈のいた病室から出た。ずっと泣いていたせいか、お互い目が真っ赤になり、腫れている。俺は医師や看護師さんに礼をして、病院を出た。
「達也くん」
病院から出る時、裕美さんに呼び止められた。
「何ですか?」
「後で…達也くんの家に行っていい?」
「大丈夫ですよ」
俺は裕美さんと約束をして、自分の車へと向う。運転席に乗り、助手席をしばらく眺めていた。つい数時間前までは佳奈が乗っていた。そんなことが信じられなかった。
「あれ?」
その時、1枚の紙が助手席に落ちていることに気がついた。俺は手に取って見てみる。そこには…
『たっちゃんへ』
この言葉を見た瞬間、俺は紙から目をそらした。見たくない。怖い。俺の目からは止まったはずの涙が再び流れ出す。佳奈からの手紙。読まなければならないことはわかっている。でも、読みたくない。いや、読まなきゃダメだ。そう思って俺は再び手紙を見る。
『今日もデート、楽しかったよ。いきなり何も言わないでデートすることになったから最初は心配だったけど、楽しかった! いつもありがとね! 私、今でも覚えてるよ。たっちゃんが最初に言ってくれたこと…『俺、佳奈さんを幸せにしたいです』って。私は今、すごく幸せです。たっちゃんは、ちゃんと約束を守ってくれたね。これからもよろしくね!』
手紙を読み終えた時、手紙は俺の涙でぐちゃぐちゃになっていた。『これからもよろしくね!』…佳奈が静かに目を閉じた時も『これからも・・・』と言っていた。きっとこのことを俺に伝えたかったのだろう。
「佳奈…」
俺は、いろんなことを思い出しながら家に帰った。
家に到着した俺は自分の部屋に入った。俺の手には…カッター。俺は何も考えずにカッターの刃を手首にあてる。佳奈がいないのに俺が生きている意味は無い。それしか考えなかった。そして手首を…
「達也くん!!」
後ろから声がして、振り返ると裕美さんがいた。
『バシッ!』
裕美さんは俺を見るなり、俺の頬に思いっきりビンタをした。カッターを俺から取り上げ、近くにあったゴミ箱に捨てる。俺は呆然とした。
「バカじゃないの!? 何やってるのよ!」
「裕美さん…俺、死にたいんです」
心からの叫びが声に出た。
「達也くん、あなたがそんなに弱いと思わなかったわ。佳奈さんが亡くなったのは達也くんにとって辛いと思う。けど…だからって何であなたが死ぬのよ!」
「佳奈のいない世界に俺は…今は空っぽの心なんです…」
そう言って、言葉が詰まる。言いたいことがたくさんありすぎて何を言えばいいのかわからなくなった。
「私は、お父さんを失った。自分のせいで。私は自分自身を責めた。だけど…同時にお父さんの分まで生きようと思った。達也くんは佳奈さんの分まで生きなくていいの?」
「それは…」
裕美さんの言葉に俺は胸が痛かった。裕美さんも大切な人を失っている。
「達也くんが死んで、佳奈さんは喜ぶと思う? 喜ぶわけないじゃない! あなたの心が空っぽの心なら、少しずつでいいから心を満たしていけばいい。1日、1ヶ月、1年…どれくらいかかってもいい。私は、ずっと達也くんを見守ってるから」
「…………ごめんなさい」
裕美さんに言われて、俺は自分が何をしようとしていたのかを気付かされた。佳奈がいないからこそ、これからは生きたくても生きれなかった佳奈のために一生懸命、生きなきゃ。
「ありがとうございます。俺、目が覚めました」
「佳奈さんもきっと見守ってくれてるわよ。『たっちゃん』って笑顔でね」
裕美さんがそう言って笑う。俺も笑った。
「私は、そろそろ帰るね。達也くん、ゆっくり休むんだよ」
「はい。ありがとうございます」
裕美さんが帰った後、俺はベッドに横になった。今でも佳奈が亡くなったなんて信じられない。けど、佳奈が帰ってくるわけでもない。俺は佳奈を幸せにできたのだろうか? ポケットから手紙を取り出す。『私は今、すごく幸せです』。俺が佳奈をどれだけ幸せにできたかわからない。けど…佳奈は幸せと感じてくれたみたいだ。俺は、それだけで幸せだった。佳奈、今何してる? 俺、佳奈のためにも頑張って生きてくよ。だから、佳奈は少し休んでて。俺の空っぽの心は佳奈によって満たされていた。そして今、再び俺の心は空っぽの心になってしまった。けど…これから少しずつでも満たしていきたい。満たされた時は必ず佳奈に報告するよ。俺は、そう決意して目を閉じた。
読んでくださってありがとうございます!
『空っぽの心』は、これにて完結となります。最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました! ここまで書き続けられたのは、みなさんのおかげです。
地震の関係もあり、『空っぽの心』を更新してもいいのか悩みました。でも、更新させてもらうことにしました。1つは数少ないかもしれませんが、この作品の更新を待ってくれている人がいてくれるかもしれないと思ったからです。2つ目は僕自身、小説を読むことも書くことも大好きだからです。
新作も今、考えてます。またよろしくお願いします! 『空っぽの心』を読んでくれたみなさん、本当にありがとうございました!