第23話 感情不足病
第23話目です!
物語は終盤へ。突然、返事をしなくなった佳奈は…?
俺は佳奈の名前を呼びながら病院へと向かう。一刻も早く、ただそれだけだった。病院に到着すると佳奈は、すぐに集中治療室へと運ばれる。俺は祈る気持ちで待合室にいた。
「達也くん…」
俺が病院に到着して数分。裕美さんも到着した。裕美さんは俺の隣に座る。
「佳奈さんは?」
急いで来たのか、裕美さんの息が上がっている。
「今、集中治療室に入ってる」
俺は、なるべく裕美さんに心配をかけないように平然を保つようにした。それと同時に俺自身に『佳奈は大丈夫だ』と言い聞かせた。
「達也くん…無理してない?」
裕美さんが俺を見て言う。俺はドキッとした。
「な…何でそんなこと言うんですか?」
「達也くん、私を誰だと思ってるの?」
裕美さんにそう言われ、気がついた。裕美さんは他の人の感情がわかる。今の俺の感情だって…
「達也くん、あなたは1人じゃないんだよ。我慢しないで…泣きたい時は泣いていいんだよ?」
裕美さんの言葉で俺は限界だった。涙が止まらなかった。俺は裕美さんの隣で1時間ずっと泣いていた。
「佳奈さんは非常に危険な状況です」
佳奈が集中治療室から出てきたのは病院に到着してから2時間後のことだった。
「どういう…ことですか?」
「佳奈さんは…感情不足病という病気にかかっています。今のところこの病気に対する治療法は、ありません」
感情不足病…その病気を治すために佳奈といろんなことを乗り越えてきた。きっと今回も乗り越えられる…そんな風に俺が思っていた時だった。
「この病気は、かかった人をゆっくり蝕んでいきます。佳奈さんはもう…」
「嘘だろ! 嘘と言えよ!」
俺は医者に掴みかかっていた。裕美さんが必死に止める。
「達也くん! 落ち着いて!」
裕美さんに抑えられ、俺は膝から崩れ落ちた。
「先生…佳奈は死ぬんですか?」
「あとどれくらい持つかわかりません…」
絶望的だった。『死ぬ』…この言葉が身近に迫っている。そんなこと想像もしていなかった。先生の話を聞いた後、俺と裕美さんは佳奈の寝ている病室へと向かった。
病室に入ると佳奈は静かに眠っていた。今は安定してるみたいで、大丈夫らしい。それを聞いただけで俺はホッとする。
「佳奈さん…」
裕美さんも心配そうに佳奈を見る。
「佳奈…俺がついてる。大丈夫」
俺は佳奈にそう言ったが、自分自身を落ち着かせるためでもあった。『大丈夫』、とにかくそう願うしかなかった。
「達也くん、待合室に行きましょう」
俺に気を使ったのか、裕美さんがそう言う。とてもじゃないが、今の佳奈を俺は見てられない。
「佳奈、大丈夫だからな」
そう言って、俺は佳奈にキスをしてから病室を出た。待合室に行くと先に行ったはずの裕美さんがいない。俺は、とりあえずイスに座って待つことにした。待つこと数分、
「はい」
後ろから声がした。振り返ると裕美さんがいた。手には缶コーヒーがあった。
「ありがとうございます」
裕美さんから缶コーヒーを受け取る。裕美さんは俺の隣に座って、
「佳奈さん、大丈夫だよね…?」
と言った。俺は何と言えばいいのかわからなかった。もちろん俺自身は佳奈が助かると信じている。けど…どうしても自信を持って言えなかった。結局…
「正直、わからないです…」
こんな言葉しか出てこなかった。
「佳奈さんって何であんなに優しくできるんだろう?」
「佳奈は、いつも俺のことを『優しい』って言ってくれます。だけど…本当に優しいのは佳奈の方です」
「達也くんはさ~佳奈さんのどこが好きなの?」
「え~と…全て好きですけど…やっぱり笑顔が好きです」
俺がそう言うと裕美さんは頷いている。一体、何なんだ?
「私ね、佳奈さんに教えてもらったんだ。人間には感情が大切だって。人間は感情を失えば何もできなくなる。人間関係も生活も仕事も…どんなことも。私は自分の経験だけで『感情はいらない』と決めつけていた。だけど…私は佳奈さんと出会って知った。感情は人間にとって大きいものだって。それは達也くんを見ているともっと感じる」
「俺?」
「うん。達也くんが佳奈さんを想う気持ち…それを聞いていると私は間違っていたんだって感じる」
「裕美さん…」
裕美さんもきっとたくさん苦しんでたはずだ。俺や佳奈には言わないが絶対に…そんなことを考えていた時だった。
「佳奈さんが目を覚ましました!」
看護師さんがそう叫びながら俺と裕美さんのところに走ってやってくる。俺と裕美さんは急いで佳奈のいる病室へと向かった。
読んでくださってありがとうございます!
感情不足病…現実にあったら、怖いですね。人間は感情があるからこそ、いろんなことができる。それを失ったら…考えただけで怖いです。
第24話目も頑張ります!