第2話 失ったもの
第2話です。
よろしくお願いします。
佳奈に異変が…
デートも終わりに近づき、そろそろ帰ろうと思っていた時、信じられないことが起こった。
『バタン!』
俺の横で何かが倒れた音がした。俺は恐る恐る横を見た。
「佳…奈?」
俺は、その光景を飲み込むまでに時間がかかった。さっきまで元気だった佳奈がそこにはいなかった。佳奈は倒れていた。何が何だかわからない俺には、どうしようもなかった。
「ちょっと! 大丈夫ですか!?」
女の人が駆け寄ってきて佳奈に呼びかける。俺は、まだ信じることができなかった。
「救急車、呼んできます!」
異変に気づいてくれた男の人がそう言った。その言葉でようやく俺は我に返った。
「佳奈! 佳奈!」
何度も大事な人の名前を呼ぶ。佳奈は全く反応しなかった。
30分後、やってきた救急車に佳奈は乗せられた。俺も一緒に救急車に乗る。俺はずっと佳奈の名前を呼び続けた。
「佳奈! しっかりしろ! 目を開けてくれ!」
俺は何度も叫んだ。だが、佳奈が目を開けることは無かった。救急車に乗ってから15分、病院に到着。すぐに佳奈の診察が始まった。俺は『待っててください』と言われたので待合室のソファーに座って、佳奈の診察が終わるのを待った。
「達也くん…」
俺が待っていると佳奈のお母さんがやってきた。ずっと心配で泣いていたのだろう、目が腫れている。俺は軽くお辞儀をした。佳奈のお母さんは俺の隣に座った。
「…………」
俺と佳奈のお母さんとの間に重たい空気が流れる。時計を何度も見たが、進む時間は1分くらい。まるで時が止まったかのような感覚に襲われていた。それから15分後、
『ガチャ』
ようやく診察室のドアが開き、医師が出てきた。
「先生! 佳奈は! 佳奈は大丈夫なんですか!?」
「お母さん、落ち着いてください。詳しい話は診察室でお話しますから」
医師がそう言い、佳奈のお母さんは診察室へと案内された。その時、
「達也くんも先生の話、聞いて」
佳奈のお母さんにそう言われ、正直びっくりした。まずはお母さんだけで…と思っていたからだ。
「いいんですか?」
「何か私、達也くんは、この話を聞かなければならない気がするの。だから…」
「わかりました」
俺と佳奈のお母さんは診察室へと入った。
「まず、命に別状はありません」
医師に最初に言われたのは佳奈の命についてだった。『別状がない』ということを聞いて、すごく安心した。
「先生、佳奈は何か病気なんでしょうか?」
「いえ、病気ではありません」
「じゃあ、何で…?」
病気じゃないのなら、何で佳奈は倒れたのだろうか…? 俺は訳がわからなかった。
「佳奈さんは貧血と低体温で倒れたんです。意識を失うほどでしたので、よっぽど重たい症状でしょう」
貧血と低体温…普段、元気な佳奈を考えると関係が無い気がした。確かに貧血と低体温は症状が重くなると大変だ。俺も経験したことがあるから、わかるが…頭痛や吐き気が酷くなり、冷や汗が止まらなくなる。立っていることさえ辛くなるほどだ。でも…貧血と低体温で倒れた、ということは聞いたことがない。そんなに重たいのならば『別の病気では?』と思ってしまう。
「あの、先生。佳奈は何ともないんですか?」
「それはですね…」
医師は何か言いずらそうにしている。貧血と低体温が原因で何かあるのだろうか。
「聞いて驚かないでくださいね…。佳奈さんは一生、笑うことができないかもしれません」
「えっ?」
その言葉の意味を俺も佳奈のお母さんも理解することができなかった。
「佳奈さんは『笑う』ということを失ってしまったようです」
「先生、でたらめなことを言わないでください! 何故、佳奈が笑わないって言えるんですか! どこにもそんな証拠は無いじゃないですか!」
「達也くん、落ち着いて」
俺は、つい大きな声を上げてしまった。佳奈から笑顔が消える…そんなことを受け入れることなどできなかった。
「佳奈さんの脳を調べさせてもらいました。佳奈さんの脳は感情を司る部分の中でも笑うことの中枢が傷つけられていたんです。私たちも驚きました。この症状は1億人に1人の割合と言われているので…」
「…………」
俺も佳奈のお母さんも何も言えなかった。俺は、この医師を信じることができなかった。
「信じられないとは思いますが…」
「先生、治すことはできないのですか?」
「残念ながら、今のところありません」
医師から残酷な言葉が告げられる。佳奈のお母さんは泣き崩れた。俺は、どうすることもできず、ただ立ちすくんでいた…。
読んでくださってありがとうございます!!
医師から告げられたのは佳奈が失ったものが『笑顔』だということ。佳奈は本当に『笑顔』を失ったのか…?
第3話も頑張って書きますので、よろしくお願いします。