第16話 田中医師と裕美
第16話です。
カセットテープを聞いた達也と佳奈は病院へ。はたして田中医師と裕美の関係は? 真実とは?
「佳奈、大丈夫か? 無理しなくていいんだぞ?」
「うん…怖いけど、大丈夫」
俺と佳奈は病院にやってきた。目的は1つ…田中医師に話を聞く。この日、田中医師は午前中で診察が終わる。なので、すべての診察が終わったら、田中医師に話を聞こうと思う。俺も佳奈もいつも以上に緊張していた。
「新山佳奈さん、竹中達也さん、どうぞ」
午前中の診察が終わり、俺と佳奈が呼ばれる。診察室に入った俺と佳奈を田中医師は不思議そうに見る。
「佳奈さん、達也さん、どうかしたんですか?」
田中医師は、いつも通り診察シートを見ながら、そう言う。
「今日は話があって来ました」
「話ですか? 何かありました?」
俺は佳奈と目を合わせる。佳奈は静かに頷いた。
「先生は田中裕美という方を知っていますか?」
『カチャン』
俺がそう言うと田中医師は持っていたボールペンを落とした。
「どうかしましたか?」
「い…いえ、何も…」
田中医師は、そう言ったが、反応からしても裕美のことは知っているに違いない。
「先生、私、真実が知りたいんです。先生と裕美さんがどういう関係なのか、何で裕美さんはあんなことをするのか…私、知りたいんです」
「…………」
田中医師は黙ったしまった。
「先生、俺たちは真実が知りたい。そのためには先生の話が必要なんです」
「…………君たちは何で裕美と俺の関係を知ったんだ」
田中医師が重たい口を開く。
「昨日、私たちのところにカセットテープが送られてきました」
佳奈は、そう言ってカセットテープを再生させた。
「こ…これは?」
田中医師は驚いたようだった。裕美と田中医師の会話が収録されているテープなのだから、驚くのも無理はないだろう。
「このテープに入ってる声は先生と裕美さんの声ですよね?」
「……なぜ、このテープが…?」
「先生、お願いします。真実を話してください」
「……君たちには本当に申し訳ないと思ってる。私は田中裕美の父だ」
やはりテープどおり田中医師は裕美の父だった。
「裕美が迷惑をかけて申し訳ない」
「なぜ、裕美は俺らを狙うんですか?」
「それは…」
田中医師が再び黙ってしまう。その時、診察室のドアが開いた。
「裕美…」
そこには裕美が立っていた。
「私が全て教えてあげるよ。あれは私が小学5年生の時だった」
「やめろ! 裕美、それ以上は…」
「お父さんは黙ってて!」
「裕美…」
田中医師は俯く。一体、何があるって言うんだ…?
「私が人の気持ちがわかるようになったのは小学5年生の時だった。私がやったように、5年生だった私は実験台にされた」
裕美が実験されていた? どういうことだ?
「人間は気持ちや感情を持っている。私は人の感情がわかるように脳を操られた。この人に」
裕美は田中医師を指差す。それに対して、田中医師は何も言えない。
「でも、それがどうしたって言うんだ? 感情がわかることって良いことじゃないのか?」
「達也くん、何を言ってるのよ。感情がわかるということは苦痛なのよ。相手の触れてほしくないところまで私は勝手に触れてしまう。感情は人に知られないからこそ、感情なのよ。人に知られるとそれは感情じゃなくなる。私の前では感情を持てる人なんていない。みんなの感情が私はわかってしまうから」
診察室に重たい雰囲気が流れる。
「大人になった私は思った。感情がわかってしまうなら、私の思うように相手の感情を操ればいい。私が味わった苦しみよりも苦しいことをみんなにしようってね。そこで私は、この人に相談した。でも、この人は私の依頼を断った。私にあんなことをしといて、断った。それから私は自分で研究を重ね、あの機械を完成させた」
「それを佳奈に使ったと」
「ええ。達也くんから話を聞いた後、この人から佳奈さんのことを聞いた。私が送ったカセットテープに入ってたでしょ?」
やっぱりあのテープは裕美か…
「人間は喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、苦しみ…様々な感情がある。その中で1つ欠けてしまった佳奈さんは笑顔に繋がる、いくつもの感情を失った。より他の感情に依存しやすい。だからこそ、感情を操りやすい。達也くん、見たでしょ? 佳奈さんの感情の変化を」
確かに俺は見た。感情の変わる佳奈を間近で見た。その変化は俺にとって苦しく、悲しかった。
「大切な人の感情が変われば、その人に関わってる人の感情も変化する。達也くんも変わったはず」
「…………」
俺は何も言えなかった。
「人間は、ちょっとした事で感情が変わる生き物。私は感情を読むことができる。そして…感情を操ることができる」
裕美は冷淡にそう言い、俺と佳奈を見た。
「あーあ、佳奈さんも可哀想だよねー」
俺は、この言葉に怒りが限界を突破した。
「ふざけんなよ…」
「ん? 何か言った?」
ニコニコして俺を見る裕美。
「何が感情を操れるだよ…アンタのやってることは、ただの拷問だ。アンタ、言ったよな…感情が他の人にわかったら、それは感情じゃなくなるって。じゃあ、操られた感情だって人の感情じゃないだろ!」
俺は大声で怒鳴った。今までにない感情だった。佳奈は俺に少し怯え、田中医師は何が起こってるのかわからないという感じだった。
「達也くん、私にとって感情はどうでもいいの。私は私以上の感情の苦しみを他の人に思い知らせたいだけ」
「そんなんで俺の佳奈を使うな。今度、俺の佳奈に手を出したら…俺はアンタの感情を無くす」
「どうやって? やれるもんならやってみてよ」
「…………」
俺は何も言えなくなってしまった。案が何も思い浮かばない。
「所詮そんなものだよ。人間は。感情任せに言う。後のことなんて何も考えてない。そんなことなら感情なんていらない」
確かに裕美の言うとおりだった。俺の今の言葉は感情任せに言ったようなものだ。
「じゃあ私はこれで」
そう言って裕美は診察室を出る。俺にはもう、何も言えなかった…。
読んでくださってありがとうございます!
田中医師と裕美は親と子の関係でした。そして裕美は感情がわかるように実験されていた…。キツイ言葉に何も言えなかった達也はどうする?
第17話もよろしくお願いします!