第14話 どこまでも
第14話目です。
佳奈の笑顔のために再出発した2人。仲直りした2人に待っていることとは…?
『ジリリリリ…』
「う~ん」
朝6時。俺は重い身体を起こし、目覚まし時計を止める。今日は普通に仕事だ。
「あれ? 佳奈?」
横を見ると一緒に寝ていたはずの佳奈がいない。どこに行ったんだろう? そんな風に思っていると、
「たっちゃん、起きた? 朝ごはん出来たよ」
「あ、うん。今行く」
俺は急いで着替えを済まし、佳奈の元へと向かう。
「はい。いっぱい朝ごはん食べて、仕事頑張ってね」
「佳奈…ありがとう」
佳奈は、わざわざ朝早く起きて朝ごはんを作ってくれていた。さらに…
「あと、これ。お弁当作ったの」
「うわ~嬉しい! ありがとう!」
朝からこんなに嬉しいことがあるなんて…
「じゃあ、いってくるね」
「うん。いってらっしゃい。頑張ってね」
「佳奈、何かあったら、すぐにメールな」
「うん」
俺は佳奈にそう言って、会社へと向かった。
「おはようございます!」
会社に着いた俺は挨拶をして、自分の席へと向かう。今日も1日、頑張るぞ!
「みんな聞いてくれ」
俺が仕事を始めて5分。上司が何かを話し始めた。俺は、ゆっくり上司の方を見る。そして、言葉を失った。
「今日から、ウチに新しい社員が加わる。じゃ、自己紹介して」
嫌だ。聞きたくない。背中に冷や汗が流れる。
「田中裕美です。みなさん、これからよろしくお願いします」
こんなの夢だ。現実なんかじゃない。そう俺は自分に言い聞かせる。
「じゃあ、竹中! お前の横、空いてるな。そこ座って」
「はい」
嘘だろ!? よりによって何で俺の横なんだ…やめろ! やめてくれ!
「お願いします」
裕美は俺の横に来る間、一人一人に丁寧に挨拶をしている。そして、俺の前で立ち止まり…ニヤッと笑った。
「よろしくね。達也くん」
俺の横に座った裕美がそう言う。俺は振り向かない。というか振り向けない。
「達也くん、逃げられないよ」
俺の耳に残虐な言葉が告げられる。こんな…こんなことがあっていいのか…俺は朝の喜びから一転、地獄に落とされた気分だった。
「そうそう。竹中、田中さんは新入社員だ。いろいろ教えてやってくれ」
上司からも残虐な言葉が届く。この人もつるんでるんじゃないかと思うくらいだ。
「は…はい」
俺は返事したが、目も合わせたくないので、裕美を無視した。
「達也くん、今日、仕事が終わったら残って」
俺は無視し続ける。
「佳奈さんにまた酷いことしてもいいのかな~?」
「佳奈に何かしてるんですか!」
思わず大きな声を上げる。他の社員が一斉に俺を見る。
「すいません」
「だから、残って」
「何が狙いですか?」
「達也くんと話がしたいの」
俺に話? 話なら、あの日にたくさんしたはずだ。だけど、俺が裕美の言うことを聞かないと佳奈が…
「わかりました」
俺は渋々、残ることにした。本当は話なんかしたくない。顔すら見たくない。
仕事が終わり、みんなが帰った。会社内には俺と裕美しかいない。
「話って何ですか?」
佳奈のこともあったので、早く話を済ませて帰りたかった。
「まあまあ。佳奈さんのことも心配だろうし、そんなに長く話すつもりはないよ」
俺はマイペースに喋る裕美に苛立ちを隠せなかった。
「早くしてください!」
俺はつい怒鳴ってしまった。裕美は相変わらず笑ってる。
「はいはい。話というか忠告かな?」
忠告? 何があるって言うんだ…?
「まず、私から逃げれると考えないで」
裕美は恐ろしいことをさらっと言う。
「俺も佳奈も、もうアンタには関わらない」
「そんなこと言っていいの?」
裕美は、そう言うとスイッチを取り出した。
「まさか、それは…?」
俺は恐る恐る裕美に聞く。あのスイッチは佳奈に何か影響を及ぼすのか…?
「ふふ。このスイッチを押すと、ここにある監視カメラの映像を達也くんの家に映し出せるの。佳奈さんは達也くんの家にいるんでしょ?」
「…………」
くっ…やっぱりバレてたか…。
「佳奈さんが私と達也くんが一緒にいるのを見たら、どう思うでしょうかね~」
裕美は悪魔の笑顔で俺を見る。そんなことされたら、大変なことになる。
「忠告はそれだけ?」
そう言って、俺は帰る準備をする。
「そうね…もう1つ。あなたの身近な人も私の味方かもよ」
今度は冷淡な笑みを浮かべ、俺を見る。俺の身近な人…?
「アンタ、一体何がしたいんだ…?」
「さあ?」
俺は裕美の方を見ずに会社から出た。帰り道、気になったのは裕美が言った『あなたの身近な人も私の味方かもよ』という言葉。俺には全く理解できなかった。
読んでくださってありがとうございます!
ついに達也の会社内にも裕美が…この人は本当に恐ろしい人だ…。
一体、裕美は何がやりたいんだ?
第15話では、1つ鍵となることがわかります。