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空っぽの心  作者: ヒロ
12/25

第12話 実験

第12話です。


はたして裕美が考えていることとは…? そして佳奈は? 達也の運命は?

様々な気持ちと思惑が交差する第12話です。

 裕美に案内されて30分。とある病院に到着した。


「ここは?」

「私が実験用に作った建物よ」


 俺は裕美に案内されながら、中に入る。中は薄暗く、恐怖を感じるほどだ。奥に行けば行くほど不気味な雰囲気になる。


「佳奈は、どこにいるんだ?」

「慌てないで。もう少ししたら、いるよ。泣き喚いた姿でね」


 俺は怒りを必死に抑える。ここで俺が怒ったら、佳奈には会えないし、佳奈に何が起こるかわからない。そんなことを考えている内にある部屋の前に到着した。


「ここに佳奈さんはいるわ」

「じゃあ、早速…」

「ちょっと待って! 1つだけ約束して」

「約束?」


 ここまで来て、約束だって…?


「そう。絶対に実験を邪魔しないこと。いい?」

「佳奈は無事に帰してくれるんだな?」

「ええ。もちろん」


 裕美のその言葉で俺はホッとした。そして恐る恐る中へ…


「佳奈!」


 実験している場所と俺らがいる場所はガラス1枚で仕切られている。だが、俺の声が聞こえたのか佳奈がこっちをちらっと見た。佳奈は、かなり辛そうだった。


「たっ…ちゃん…助けて…」


 佳奈が何か言っているのだが、俺のところには届かない。


「達也くん、どう?」

「どうって…こんなこと…」


 俺は怒りを通り越していた。何も言えない…。


「じゃあ、そろそろ良い物を見せてあげるよ」


 裕美は、そう言い、横にあったスイッチを押す。佳奈の表情が一変する。


「いや! もうやめて! いやあああ!!」


 佳奈の悲鳴がガラス越しに伝わる。見るに見れなかった。


「もうやめろ! やめてくれ!」

「達也くん、言ったよね。実験は邪魔しないでって」


 佳奈の悲鳴が嫌でも耳に届く。まるで佳奈も俺も拷問を受けているかのようだ。そんな俺らを見て、裕美は笑っている。この人は悪魔だ。


「何で佳奈なんですか! 俺らに何か恨みでもあるんですか!」

「ううん。恨みなんて無いよ」


 じゃあ何で俺らなんだ…俺がそんなことを思っていると、


「佳奈さんは笑顔を失った。それが好都合なのよ」


 佳奈が笑わないことが好都合だって!? どういうことだ?


「人間には様々な感情がある。けど、その中の1つを失えば全ての感情のバランスが崩れる。ただでさえ、感情の起伏が激しい佳奈さんは、もっと起伏が激しくなる。だからデータが取りやすいんだよ。ほら、佳奈さんを見てみなよ」


 俺は裕美にそう言われ、佳奈を見る。佳奈は放心状態だった。


「何か変化があるのか…?」


 俺がそう言った時だった。


『バン!』


 急に大きな音が響いた。佳奈を見ると、両手で実験台を叩いている。その手からは血が出るほどだ。


「や…やめろ! 佳奈!」


 俺には、そう叫ぶしか出来なかった。


「早く佳奈を元に戻せよ!」

「はいはい。データも取れたし、戻しますよ」


 裕美は、さっきと違うスイッチを押した。すると、だんだん佳奈の身体が落ち着いていく。


「もういいだろ…早く佳奈を解放してくれよ…」

「う~ん、そうだな~…。まあ、そろそろいっか」


 やっと佳奈が解放される。俺と佳奈を仕切っていたガラスが外される。


「佳奈! 大丈夫か!」


 俺が呼びかけると佳奈は静かに頷いた。そして俺は裕美を睨みつける。


「アンタがやったことは絶対に許さない。俺と佳奈はアンタを許さない」


 俺は佳奈を抱きかかえて、建物から出た。裕美は最後まで俺らを嘲笑っていた。


「またね。達也くん、佳奈さん」












 佳奈を抱えながら俺が向かった場所は自分の家。佳奈の家は大荒れ状態なので自分の家に寝かせようと思った。佳奈は俺と会ってから、すぐに眠ってしまった。何時間あの機械でいじめられていたのだろう。考えただけでも胸が痛くなる。俺は自分を責めていた。俺が裕美に佳奈のことを言わなければ…こんなことにはならなかった。俺が…俺がもっとしっかりしていれば…。


「たっちゃん」


 佳奈が俺を見て、名前を呼ぶ。


「佳奈…」

「ゴメンね…」


 佳奈は急に謝った。俺の目から涙が溢れる。


「何で佳奈が謝ってんだよ…何も悪くないのに、何で謝ってんだよ…」

「ううん。私、たっちゃんをたくさん傷つけた。あんな酷いことも言って…だから…」


 佳奈を見ると佳奈の目からも涙が溢れていた。


「何言ってんだよ…悪いのは俺の方だ。いっつも佳奈に迷惑ばかりかけて…」


 そう。いつも俺が佳奈に迷惑をかけていた。去年のデパートのことだって、元は俺が悪かった。俺は佳奈に何度も助けられた。今回だって…


「私ね…今、夢を見てたんだ。目の前にたっちゃんがいるの。私が何度、呼びかけても振り向いてくれなくて…。たっちゃんは、どんどん離れていくんだ。私は泣きながら、たっちゃんを追いかけた。でも、どんどん離れちゃって…そこで夢は終わったの」


 あの日、俺が見た夢と同じ内容だ。


「佳奈、俺は佳奈から離れたりしないよ。絶対に」

「たっちゃん…ほんとにゴメンね」

「もういいから。そんな顔するなよ」


 俺がそう言うと佳奈は一旦、下を向いてから…


「あれ?」


 俺は驚きを隠せなかった。一瞬だが佳奈が笑ったのだ。まだぎこちない笑顔。でも、俺は嬉しかった。


「佳奈、今…」

「ん? どうしたの?」

「いや、何でもない」


 俺は佳奈に確認しようかと思ったが、言うのをやめた。それでも俺は、確実に前に進めてると確信を持つことができた。

読んでくださってありがとうございます!


裕美は恐ろしい人ですね…書いている僕自身が怖くなりました。実際にあったら…そんなことを考えてると寒気がします。そんな中、佳奈に笑顔が…?


第13話もよろしくお願いします!

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