第12話 実験
第12話です。
はたして裕美が考えていることとは…? そして佳奈は? 達也の運命は?
様々な気持ちと思惑が交差する第12話です。
裕美に案内されて30分。とある病院に到着した。
「ここは?」
「私が実験用に作った建物よ」
俺は裕美に案内されながら、中に入る。中は薄暗く、恐怖を感じるほどだ。奥に行けば行くほど不気味な雰囲気になる。
「佳奈は、どこにいるんだ?」
「慌てないで。もう少ししたら、いるよ。泣き喚いた姿でね」
俺は怒りを必死に抑える。ここで俺が怒ったら、佳奈には会えないし、佳奈に何が起こるかわからない。そんなことを考えている内にある部屋の前に到着した。
「ここに佳奈さんはいるわ」
「じゃあ、早速…」
「ちょっと待って! 1つだけ約束して」
「約束?」
ここまで来て、約束だって…?
「そう。絶対に実験を邪魔しないこと。いい?」
「佳奈は無事に帰してくれるんだな?」
「ええ。もちろん」
裕美のその言葉で俺はホッとした。そして恐る恐る中へ…
「佳奈!」
実験している場所と俺らがいる場所はガラス1枚で仕切られている。だが、俺の声が聞こえたのか佳奈がこっちをちらっと見た。佳奈は、かなり辛そうだった。
「たっ…ちゃん…助けて…」
佳奈が何か言っているのだが、俺のところには届かない。
「達也くん、どう?」
「どうって…こんなこと…」
俺は怒りを通り越していた。何も言えない…。
「じゃあ、そろそろ良い物を見せてあげるよ」
裕美は、そう言い、横にあったスイッチを押す。佳奈の表情が一変する。
「いや! もうやめて! いやあああ!!」
佳奈の悲鳴がガラス越しに伝わる。見るに見れなかった。
「もうやめろ! やめてくれ!」
「達也くん、言ったよね。実験は邪魔しないでって」
佳奈の悲鳴が嫌でも耳に届く。まるで佳奈も俺も拷問を受けているかのようだ。そんな俺らを見て、裕美は笑っている。この人は悪魔だ。
「何で佳奈なんですか! 俺らに何か恨みでもあるんですか!」
「ううん。恨みなんて無いよ」
じゃあ何で俺らなんだ…俺がそんなことを思っていると、
「佳奈さんは笑顔を失った。それが好都合なのよ」
佳奈が笑わないことが好都合だって!? どういうことだ?
「人間には様々な感情がある。けど、その中の1つを失えば全ての感情のバランスが崩れる。ただでさえ、感情の起伏が激しい佳奈さんは、もっと起伏が激しくなる。だからデータが取りやすいんだよ。ほら、佳奈さんを見てみなよ」
俺は裕美にそう言われ、佳奈を見る。佳奈は放心状態だった。
「何か変化があるのか…?」
俺がそう言った時だった。
『バン!』
急に大きな音が響いた。佳奈を見ると、両手で実験台を叩いている。その手からは血が出るほどだ。
「や…やめろ! 佳奈!」
俺には、そう叫ぶしか出来なかった。
「早く佳奈を元に戻せよ!」
「はいはい。データも取れたし、戻しますよ」
裕美は、さっきと違うスイッチを押した。すると、だんだん佳奈の身体が落ち着いていく。
「もういいだろ…早く佳奈を解放してくれよ…」
「う~ん、そうだな~…。まあ、そろそろいっか」
やっと佳奈が解放される。俺と佳奈を仕切っていたガラスが外される。
「佳奈! 大丈夫か!」
俺が呼びかけると佳奈は静かに頷いた。そして俺は裕美を睨みつける。
「アンタがやったことは絶対に許さない。俺と佳奈はアンタを許さない」
俺は佳奈を抱きかかえて、建物から出た。裕美は最後まで俺らを嘲笑っていた。
「またね。達也くん、佳奈さん」
佳奈を抱えながら俺が向かった場所は自分の家。佳奈の家は大荒れ状態なので自分の家に寝かせようと思った。佳奈は俺と会ってから、すぐに眠ってしまった。何時間あの機械でいじめられていたのだろう。考えただけでも胸が痛くなる。俺は自分を責めていた。俺が裕美に佳奈のことを言わなければ…こんなことにはならなかった。俺が…俺がもっとしっかりしていれば…。
「たっちゃん」
佳奈が俺を見て、名前を呼ぶ。
「佳奈…」
「ゴメンね…」
佳奈は急に謝った。俺の目から涙が溢れる。
「何で佳奈が謝ってんだよ…何も悪くないのに、何で謝ってんだよ…」
「ううん。私、たっちゃんをたくさん傷つけた。あんな酷いことも言って…だから…」
佳奈を見ると佳奈の目からも涙が溢れていた。
「何言ってんだよ…悪いのは俺の方だ。いっつも佳奈に迷惑ばかりかけて…」
そう。いつも俺が佳奈に迷惑をかけていた。去年のデパートのことだって、元は俺が悪かった。俺は佳奈に何度も助けられた。今回だって…
「私ね…今、夢を見てたんだ。目の前にたっちゃんがいるの。私が何度、呼びかけても振り向いてくれなくて…。たっちゃんは、どんどん離れていくんだ。私は泣きながら、たっちゃんを追いかけた。でも、どんどん離れちゃって…そこで夢は終わったの」
あの日、俺が見た夢と同じ内容だ。
「佳奈、俺は佳奈から離れたりしないよ。絶対に」
「たっちゃん…ほんとにゴメンね」
「もういいから。そんな顔するなよ」
俺がそう言うと佳奈は一旦、下を向いてから…
「あれ?」
俺は驚きを隠せなかった。一瞬だが佳奈が笑ったのだ。まだぎこちない笑顔。でも、俺は嬉しかった。
「佳奈、今…」
「ん? どうしたの?」
「いや、何でもない」
俺は佳奈に確認しようかと思ったが、言うのをやめた。それでも俺は、確実に前に進めてると確信を持つことができた。
読んでくださってありがとうございます!
裕美は恐ろしい人ですね…書いている僕自身が怖くなりました。実際にあったら…そんなことを考えてると寒気がします。そんな中、佳奈に笑顔が…?
第13話もよろしくお願いします!