第10話 約束
第10話です。
達也と佳奈の間にあったこととは…?
去年のある日。いつも通り、俺と佳奈はデートをしていた。
「ねえ、次どこ行く?」
「じゃあ買い物しようか。佳奈も欲しいものあるって言ってただろ?」
「うん。じゃあデパート行こっ」
何も変わらない普通のデート。しかし…デパートで俺と佳奈は思いもよらないことに巻き込まれた。それはデパートを歩き回っていた時だった。
『ドン』
俺は誰かにぶつかった。ぶつかった相手が悪かった。
「おい、兄ちゃん。どこ見て歩いてんだ?」
「すいません」
俺は咄嗟に謝る。これで終われば良かったのだが…
「なあなあ、そこの姉ちゃん。アンタの彼氏さんが俺にぶつかったんだわ。どうすれば許すか、姉ちゃんならわかるよな?」
俺だけに絡んでいればいいものを、何と佳奈にも絡み始めた。
「佳奈にだけは手を出すな」
「あ~ん? 兄ちゃん。アンタが何か言える立場か?」
そう言われると何も言えなくなってしまう。俺は何もできない自分自身が一番、許せなかった。
「姉ちゃん、わかったら俺について来い。たっぷりと可愛がってやるから」
男は強引に佳奈の手を引っ張る。
「痛い! 離してください!」
「やめろ!」
俺は直視できず、ただ叫んだ。
「うるせえ! お前は黙ってろ!」
男は佳奈の手を離し、俺に殴りかかろうとしてきた。俺はチャンスだと思った。
「佳奈! 俺のことはいいから、早く逃げろ!」
俺がそう言った瞬間、男の拳が俺の顔に直撃した。周りのお客さんたちは俺らを見て見ぬふりをする。
「たっちゃん!」
「いいから逃げろって!」
「ほら、姉ちゃん早く来いって」
男は再び佳奈に近寄っていく。俺は力を振り絞って、
「やめろー!」
俺は男に突進する。男にぶつかる直前のことだった。
「うっ…」
俺は腹の辺りに痛みを感じた。殴られた痛みではない。恐る恐る自分の腹を見た。俺の腹には…果物ナイフが刺さっていた。血が溢れ出してくる。
「キャー!」
さすがに周りのお客さんが異変に気付いたのか、騒然となっている。俺は立っていることができなくなり、床に倒れこんだ。
「たっちゃん! たっちゃん!」
佳奈が駆け寄ってきて、泣きながら俺の名前を叫ぶ。
「佳奈…ゴメンな。俺…佳奈を幸せにするって言ったのに…」
「たっちゃん、死なないで! 私…私…」
佳奈の目からは涙が止まらない。俺は悲しかった。佳奈の悲しんでいる顔を見たくなかった。
「佳奈…泣くなよ。笑ってくれよ…」
俺は、その言葉と共に気を失った。
気を失った俺は夢を見ていた。目の前には佳奈がいる。
『佳奈?』
俺は何度も佳奈の名前を呼ぶ。しかし、佳奈はこっちを振り返ってくれない。それどころかどんどん離れていく。
『佳奈!』
俺は叫びながら佳奈を追いかける。全速力で走る。だが、佳奈は離れていってしまう。
『何で…何でだよ! 佳奈!』
「佳奈!」
俺は突然、目が覚めた。一体どのくらい眠っていたのだろうと思うくらい夢が長く感じた。ゆっくり身体を起こし、俺は辺りを見渡す。ここは病院のようだ。そっか…俺、刺されて…。あの忌まわしい記憶が呼び起こされる。
「たっちゃん…」
ベットの横で寝ている佳奈が寝言で俺の名前を呼ぶ。
「佳奈…」
「たっちゃん、死んじゃやだよ…」
佳奈は俺が目を覚ますまで、ずっと待っていてくれていたのだろう。そして、ずっと泣いていたのだろう、目が腫れている。
「佳奈…ゴメンな。俺はここにいるよ。俺は無事だよ。だから…だから、泣かないでくれ…」
俺は佳奈の顔を直視できなかった。辛くて自分が泣きそうになる。
「たっちゃん…?」
佳奈がゆっくり顔を上げる。
「佳奈、ただいま」
俺がそう言うと、
「たっちゃん!」
佳奈は泣きながら、俺に抱きついた。
「も~だから、泣くなって」
「だって…だって…」
泣いているため、佳奈は思うように喋れてない。それが何か面白かった。そして、すごく嬉しかった。
「佳奈、心配かけてゴメンな」
「たっちゃん…無事で良かった」
佳奈がやっと笑ってくれた。そして、俺は思った。何があっても佳奈を泣かせたくない。いや、泣かせない。そう決めた。
「佳奈、俺、約束するよ。絶対に佳奈を泣かせないって」
「ありがとう。たっちゃん、これからもよろしくね」
「こっちこそ、よろしく」
こうして俺は、『佳奈を泣かせない』と約束したのだ。
読んでくださってありがとうございます!
まあ、とりあえず達也を刺した男は現行犯逮捕されたということで…。今回は達也と佳奈の過去の話です。第11話では、物語が急展開する予定です。
これからもよろしくお願いします!