第十九話:風と炎の「混合(ハイブリッド)」
館山の夕暮れ。表彰式の喧騒が去った後、健吾は一人、自身の未熟さを噛みしめながら『炎(HOMURA)』の熱を冷ましていました。そこへ、足音もなく近づいてくる影がありました。
那須妙子です。彼女は青いスーツを脱ぎ、潮風に髪をなびかせながら、健吾の隣に腰を下ろしました。
第十四話:風と炎の「混合」
「……あの子、桜庭葵は、私たちの想像を超えているわ」
妙子の視線は、遠く館山の海を見つめていました。
「私の『風』も、あなたの『熱』も、あの子の底知れないマブイの深度に飲み込まれた。一人で戦う『単騎』の限界……あなたは、どう考える?」
健吾は悔しそうに拳を握りしめました。
「限界なんて認めたら、俺のレースは終わりだ。でも……あの『深度7000』の壁は、今の俺の力じゃどうあがいても壊せねぇ」
妙子は健吾をじっと見つめ、驚くべき提案を口にしました。
1. 異端の提案
「次のレース……京王閣競輪場での『桜庭葵・凱旋記念戦』。あそこは葵のホームよ。あの子が完全に覚醒する前に、私とあなたで、一時的な『ライン』を組まない?」
「……っ!? ラインを組むだと? お前も俺も、単騎を貫いてきたはずだろうが!」
健吾は驚愕しました。単騎としての誇りを誰よりも持っているはずの妙子の口から、その言葉が出るとは思わなかったからです。
2. 「混合」の真意
「勘違いしないで。馴れ合うつもりはないわ。……これは**『マブイの共鳴実験』**よ」
妙子は、自身の指先で風の流れをなぞるように説明を続けます。
「あなたの破壊的な熱を、私の風で『指向性のある炎』に変える。私の風があなたの熱を運び、あなたの熱が私の風に爆発的な圧力を与える。……一人では届かない領域へ、二人で到達するのよ」
* 戦術名:【昇龍火炎】
妙子が前を走り、健吾の熱を気流で吸い上げることで、巨大な「火の鳥」のような上昇気流を作り出す。これにより、後ろにいる健吾の空気抵抗をゼロにし、さらに妙子自身の加速を熱膨張で加速させる、双方向の強化。
3. 健吾の決断
「……俺の熱をお前に預けろってのか」
「嫌ならいいわ。一人でまた、あの子の底に沈むだけだから」
妙子が立ち上がり、去ろうとしたその時、健吾は叫びました。
「待てよ! ……分かった。乗ってやる。ただし、ゴール前では容赦しねぇ。お前の風ごと、俺の熱で焼き切ってやるからな!」
妙子は一瞬、ほんのわずかに、氷が解けるような微笑を見せました。
「……ええ。それでこそ、私が認めた『熱』だわ」
4. 修羅の特訓:館山の秘密バンク
二人は京王閣への遠征を前に、館山の山奥にある、海風が不規則に吹き荒れる秘密の練習場で、マブイの同期訓練を開始しました。
「遅い! 速水、もっと熱を上げて! 風が冷え切っているわ!」
「無茶言うな! これ以上上げたら、お前のスーツが溶けちまうぞ!」
熱と風。相反する二つの力が、一筋の光へと収束していく。
一方、京王閣では、桜庭葵が不気味なほど静かに、その「深度」をさらに深めていました。




