第十七話:館山の風、紺碧の刺客
房総半島の先端、館山。
潮騒が聞こえるバンクには、九十九島で「ラインを粉砕した怪物」として名を上げた健吾を一目見ようと、大勢の観客が詰めかけていました。
しかし、健吾の背後には、彼を凌駕する熱量を持つ「華やかな、けれど鋭利な刃」のような女子選手たちが並びます。
1. 「風読みの天才」那須妙子との邂逅
検車場で健吾の『炎』の横に、深海を思わせるブルーのスーツを置いた少女がいました。那須妙子。
「……あなたが、速水健吾。九十九島の動画、見たわ」
妙子は一切の表情を変えず、淡々と自身のスーツ『潮騒(SHIOSAI)』の気圧を調整します。
「大逃げはいい。でも、ここ館山は私の庭。私の風は……あなたの熱を奪って、海に沈める」
彼女のコアマブイ6000は、健吾の2500を遥かに上回る潜在能力。さらに外付12000という圧倒的なエネルギーを背景に、彼女は「単騎で男子を狩る」ために生きてきた孤高の天才でした。
2. 賑やかな刺客たち
そこへ、明るい声が響きます。
「わあ、本物の健吾先輩だ! 意外と熱苦しそうなオーラ出てますね!」
立川の若き才能、桜庭葵が屈託のない笑顔で駆け寄ってきます。彼女のコアマブイは7000。未完の大器ながら、その純度は健吾すら圧倒する輝きを放っていました。
「おい葵! 先輩をからかってんじゃねぇよ!」
横から怒鳴り込んできたのは、奈良の爆弾娘、葉月凛。
彼女の背中には、コアの3倍以上の容量を持つ巨大な外付タンクが積まれていました。
「速水、アンタの単騎哲学、ウチの爆発マブイで粉砕してやるから覚悟しな!」
3. 館山333バンクの洗礼
館山は一周333mの小回りバンク。直線が短く、逃げ・捲りが圧倒的に有利な「那須妙子の聖域」です。
「構えろ!」
号砲。
真っ先に飛び出したのは、意外にも健吾ではなく、葉月凛でした。
「外付15000、全ブッ放しやぁぁぁ!!」
狂気とも言える加速。凛は最初からスーツを焼き付かせる勢いで、巨大な黒煙を上げて先頭を奪います。
その後ろ、最短距離のインコースをピタリと通るのは那須妙子。彼女は館山の海風を計算し、空気抵抗を極限まで減らした「風の隙間」を縫うように滑走します。
4. 健吾、包囲される
「……っ、こいつら、男子より動きが鋭い!」
健吾は後方から仕掛けようとしますが、桜庭葵が驚異的なハンドリングで健吾の進路を塞ぎます。
「先輩、甘いです! 私のマブイは、まだ底が見えないんですよ?」
葵のコアマブイ7000が、健吾の熱を吸収するかのような不思議な静寂の壁を作り、健吾の『炎』の加速を殺します。
前方は爆走する凛、中央は計算された妙子の風、横は葵のポテンシャル。
「ラインなし」のはずの単騎戦。しかし、女子選手たちの「単騎としての生存本能」が、期せずして健吾を完璧な包囲網へと追い込んでいました。
5. 逆転の予兆:熱か、風か、深度か
残り一周。
館山の海から、冷たい突風が吹き込みます。
「……来たわ。私の風」
妙子の『潮騒』が、風を味方につけて一気に加速。爆走して失速した凛を軽々と抜き去ります。
健吾は包囲網の中で、修復された『炎』の新しい鼓動を感じていました。
(源さん、言ってたな……。女子のマブイは、男子より『深い』って。……だったら、もっと深いところから、俺のマグマを引きずり出してやる!)




