第十三話:無限の直線、枯渇の果て
仙台競輪場の特徴は、その圧倒的な広さです。
400mバンクに比べて直線が長く、後方の選手がマブイを温存して最後に「差す」時間がたっぷりあります。ここで単騎の逃げを打つのは、まさに「的」になるようなもの。
1. 仙台の刺客:影山零の「消音ギア」
この一般戦には、小倉支部の影山零も出走していました。
影山のスーツは「消音」。健吾のような熱い排気を出さず、気流の乱れを最小限に抑えて、獲物の背後にピタリと張り付く死神です。
「速水。高松での大逃げ、見させてもらったよ。……でも、ここは仙台だ。お前のマブイが尽きるまで、僕はずっと君の『影』に居続ける」
2. レース展開:孤独な「死のロード」
「構えろ!」
号砲とともに、健吾は再び前へ出ます。もう迷いはありません。
「また行った! 1番車・速水健吾、迷わず主導権を取る!」
健吾は一人で巨大な500mバンクの風を切り裂きます。
しかし、高松と違うのは、背後の影山が健吾の背中に「吸い付く」ように追従していることでした。影山は健吾が作る真空地帯を完璧に利用し、自らのマブイ消費を$10%$以下に抑えています。
3. 「無限」の直線
残り半周。
健吾のコアマブイは、すでに臨界点に達していました。
500mバンクの広さは、健吾の精神を削ります。漕いでも漕いでも、最後の直線が見えてこない。
(まだか……まだゴールは遠いのか!? 兄貴、この道は……どこまで続いてるんだ!)
第四コーナーを回り、ついに現れた**「無限の直線」**。
ここからゴールまでが、他場とは比較にならないほど長い。
「――仕掛けるよ」
影山が、ついに音もなく横に並びました。マブイを温存しきった影山の加速は、まさに一陣の涼風。
4. 健吾の秘策:『不完全燃焼』
(影山……お前が俺の影に隠れるなら、その影ごと焼いてやる!)
健吾は、あえてクランクの回転を微妙にズラし、スーツの燃焼効率を「最悪」に落としました。
本来なら失速する行為。しかし、源さんが施した『マグマ・ラジエーター』が異音を立て、排気口から真っ黒な**マブイの煤**を噴出させたのです!
「なっ……視界が!? スーツの吸気口に煤が詰まる!」
影山の消音ギアは精密すぎるがゆえに、健吾が撒き散らした「マブイの燃えカス」に敏感に反応し、一時的な不具合を起こしました。
5. 執念の一般戦初優勝
「おおおおおおおっ!!」
影山が怯んだ一瞬。
健吾は、残ったコアマブイの最後の一滴を、足ではなく「意志」で回しました。
膝の震えが止まらず、意識が遠のく中、前輪が白線を越えました。
「1着、1番車・速水健吾! 逃げ切り、一般戦初優勝!」
ゴール後、健吾は自転車を降りることすらできず、そのままバンクに横転しました。
真っ黒な煙を吐くスーツの中で、健吾は空を見上げます。
仙台の広い空。そこには、下関の海でも阿蘇の山でもない、自分自身で掴み取った「勝利の風」が吹いていました。
プロデビュー編、完




