自転車泥棒の言い分
私が、少年野球をしていた頃のお話になります。
練習に行く時は、ボロボロで傷だらけの子供用自転車に乗っていました。
その自転車は、前輪錠が固着していて開錠されたままだったのですが、盗む人がいなかったのでそのままにしていました。
しかし、野球の練習をしている時に、私の自転車が盗まれたのです。
野球仲間は、必死になって探してくれたのですが見付かりませんでした。
家に帰ると、私は両親にこっ酷く叱られました。
数日後、グラウンドの隅で、私の自転車に乗っている青年を発見しました。
私は、野球仲間を呼んで取り返しに行く事にしました。
「これは私の自転車なので返してもらえませんか」
「この傷が証拠ですから」
私は、勇気を振り絞ってそう言ったのですが、
「いいえ、これはうちの自転車ですよ」
という返答でした。
それを聞いた時、野球仲間が青年を取り囲みました。
「そんな訳ないだろ!」
「そうだ、さっさと返しやがれ!」
野球仲間は、口々に言いました。
「だったら、このカゴは君のだって言うのかい」
よく見ると、自転車のカゴだけが違っていたのです。
そこで、少年野球の監督が警察を呼んでくれたのです。
ただ、警察官の反応は芳しくありませんでした。
それは、青年が主張しているカゴのせいでした。
自転車の傷も、偶々同じ所に付いたんだろうと言って、取り合ってくれませんでした。
それから1週間後、野球の練習をしようとグラウンドに行くと、私の自転車が横たわっているではありませんか。
近寄ってみると、自転車は砂塗れになっていました。
野球仲間の1人は言いました。
「これはお前の自転車だよ」
私は、前輪錠を掛けなかった事を悔いて、早々に自転車屋に行く事にしました。
「すいませーん、鍵を替えて貰えませんか」
店の奥から、おじさんが出て来ました。
そして、驚きながらこう言ってきました。
「おや、随分と埃を被っているね」
「つい最近まで盗まれていたんです」
「警察には言ったのかい」
「はい、でも話を聞いてくれませんでした」
「そうかい、それはお気の毒に」
「自転車のカゴが変わっていたからなんですよ」
「へ~、普通はカゴなんか弄らないんだけどね」
「ん、このカゴはベースが動かされているね」
「多分、放置自転車のカゴと入れ替えたんじゃないかな」
「そんな…」
「それより、今度自転車泥棒を見掛けたら俺に言いなよ」
「警察がダメなら、おじさんが捕まえてあげるから」
おじさんは、真剣な表情でそう言いました。




