年上の彼氏
冷たい部屋でスマホを開く。
遠距離恋愛。画面越しの彼
「なにしてるの?」――低いのに、どこか無邪気な子どもみたいな声。
毎晩こうして声を聞くのが、二人の約束だった。
仕事の愚痴、今日見た夢、くだらない冗談。
そのどれもが、私の一日を終わらせる魔法だった。
「また明日ね」
「うん、また明日」
通話を切ったあと、部屋に残る冷たさだって許せた。
1人で寝るには広すぎるベッドは
いつも私をアラームより早く目覚めさせた。
夜を思い出して、寂しくなる事にも少しは慣れた。
夜になると、またスマホを開く。
「なにしてるの?」――低いのに、どこか無邪気な子どもみたいな声。
昨日と同じ声、同じ調子。
あなたは私が何をしても怒らない。
その変わらなさに、もうどうしようもなく胸が詰まる。
「ねえ、いつ会えるのかな」
漏れた本音に返ってくるのは、いつもと同じ言葉。
「かわいいね~?」
「いつ?」
「怒ってる?」
「誕生日なんだけど」
「だいすきだよ」
「誰もいないの」
「ごめんって!ケーキ食べなよ!!」
言葉は交わされているのに、どこかかみ合わない。
私はスマホを閉じ、深く息を吐いた。
深夜。
目が覚めてしまった私は、またアルバムを開く。
三年前、あの頃は暖かくて幸せだった。
息の合った二人で、よく近所のカフェに通った。
ケーキを食べる彼を隠し撮りした動画を見つけ、指が止まる。
再生すると、あの日と同じ声が部屋に広がった。
「なにしてるの?」――低いのに、どこか無邪気な子どもみたいな声。
画面の中の彼は笑ったまま、変わらない。
もう私の方が、年上になってしまったのに。




