第34話「オリヴァンとルキシアナ、ときどきデート」
本職もあるため、更新遅めです……。
ご了承くださいませ<(_ _)>
中層の住民と機械が協力して祭りの準備を進めている中央広場にセリュオスたちがやって来ると、ルキシアナは自身の発明品の準備に没頭し始めた。
小型の機械を組み立て、光や風を操る装置を調整しているらしい。
正直言って、セリュオスには何をしているのかさっぱりわからない。
だが、彼女の手が止まることはなく、非常に楽しげな様子で作業に夢中になっていた。
「……よし、この仕組みなら絶対に派手な演出になるわね!」
「……」
一方、セリュオスとエレージアは、完全に置いてけぼりを食らってしまったので、中層の街を巡ることにしたのだった。
「……ルキシアナ、子どもみたいに熱中していて、本当に発明が大好きなんだな……」
「そうね。祭りって聞いただけでは全然動かなかったのに、発明品で勝負するとわかった途端にやる気を出すなんて……。まあ、あの子の好きにさせるしかないんじゃない?」
目に入ってくる街並みは、色鮮やかな装飾や光を放つ装置で賑わい始めていた。
色とりどりの提灯が並び、祭り前の街並みを一層華やかに彩っている。
まだ始まっていないというのに、祭りへの期待が高まっていく。
屋台を組み立てている大人たちの声、運ばれる楽器が鳴らす音、子どもたちの笑い声があちこちから聞こえてきて、セリュオスは立ち止まって目を細めた。
「……中層の文明って、下層と違ってとても楽しそうにしているよな」
エレージアは冷静に街の様子を見渡す。
「祭りというのは住民が感謝と喜びを表すためにおこなわれるもの。そういう文化が、魔王の統治下で発展すること自体が不思議な感覚だわ」
「その視点が、魔王って感じするよな……」
そうセリュオスが言った時、二人の前に一人の青年が現れた。
黒いコートに整えられた髪、知的な目を輝かせる青年――オリヴァンだ。
「あ、セリュオスさんとエレージアさんじゃないですか」
「アンタはオリヴァンだったな。こんなところで何をしてるんだ?」
「祭りで使う機材が足りなくなったので、取りに来たんですよ。今年こそは、ルキシアナに負けられませんからね!」
すると、やる気に満ちたオリヴァンの視線が自然にセリュオスの方を向いた。
「セリュオスさんが、勇者、なんですよね……。見るからに力が強そう……。あ、そうだ! ちょうど荷物を運ぶ人手が足りなくて、あの~、もし暇だったらでいいんですけど、少しだけ手伝っていただくことは可能ですか?」
セリュオスは優しい笑顔で頷いた。
ルキシアナが負ける姿を見てみたいと思うのは性格が悪いだろうか。
決して加虐的な趣味があるわけではなく、どういう反応をするのか見たいだけである。
「もちろん。そういうことなら、手伝わせてもらうぞ」
エレージアは遠巻きにセリュオスたちを観察しながら、僅かに唇を吊り上げる。
「ありがとうございます! おかげで準備に時間を回せそうです!」
オリヴァンは満足そうに笑い、三人を先導するように歩き始めた。
街の雑踏の中、オリヴァンの指定した荷物を持ったセリュオスは祭りの舞台へと向かっていく。
セリュオスは重そうに機材を持っているオリヴァンに尋ねる。
「……そういえば、ルキシアナとオリヴァンって、どういう関係なんだ?」
オリヴァンは微かに笑みを浮かべ、目線を遠くに向けた。
「ルキシアナとは……幼馴染なんですよ。生まれた時から一緒に過ごしてきたというのは言いすぎですけど、物心がついた位からお互いに発明で競い合ってきたんです」
セリュオスは軽く眉を上げる。
「子どもの頃から発明って、アンタらどうかしてるぜ……」
オリヴァンは頷きながら、少し苦笑した。
「ハハハ……。それは私も思いましたけど、彼女は生まれつきの天才だったんです。私は彼女に影響されて発明に興味を持ちました」
「まあ、その気持ちはわからなくはないな。ルキシアナの発明は本当にすごい。俺には全く理解できないぐらいにすごい」
「そうなんです、彼女の発明品は常に完璧なんです。私も努力だけでは追いつけないことが多々ありました……」
エレージアが冷静に横から口を挟む。
「あなたは努力型というわけね……でも、あの子に負けずに競い続けているんでしょう?」
「ええ」
オリヴァンの声に誇りが混ざる。
「天才の隣に立つために、凡人にできることは努力しかないとわかっていますから……。ルキシアナの閃きに追いつくためには、何度も試作を重ねて、どれだけ失敗しても諦めてはいけません。それが、私の流儀なんです」
セリュオスは感心しながらも、少し微笑んだ。
「なるほど……天才と秀才か。なおさら負けられないわけだな」
オリヴァンは軽く肩を竦め、さらに説明を続ける。
「ですが、彼女からすれば私なんて、たいした存在ではないでしょう。私が彼女の刺激を受けることはあっても、彼女が私から得るものは特にないんです……」
「……天才に張り合って努力できるアンタはすごいよ」
自信なさそうなオリヴァンに向かって、セリュオスは告げた。
「もしかすると、ルキシアナの情熱にも理由があるのかもしれないわよ。たとえば、天才を刺激しているのが、凡人の努力だったりね」
エレージアも僅かに口角を上げていた。
二人に励まされてオリヴァンは少し照れくさそうにしていたが、自信を込めて続ける。
「そうだったら嬉しいですね。なら、私は彼女に勝つために努力をし続けます。それが私の道ですから。そして、彼女がどれだけ素晴らしい発明品を作ろうと、私は必ず挑み続ける。……それが、私たちの関係性なんです」
セリュオスは小さく息をつき、頷いた。
「天才の幼馴染を持つと、こんな性格に育つんだな……」
「必ずそうなるとは限らないわよ」
エレージアは軽く目を細め、感心するようにオリヴァンを見つめる。
「……でも、あの二人が造り出す発明勝負がどんなものになるのか、祭りが少し楽しみになってきたわね」
「ええ、楽しみにしていてください。……ルキシアナ、今年こそ私が勝たせてもらうぞ!」
オリヴァンは満足そうに笑みを深め、ルキシアナの方向をジッと見つめていた。
彼女は小型装置を設置するために忙しなくしていたが、突然こちらの方を振り返った。
「ねえ、オリヴァン! ちょっと手伝ってよ! 重くて運べないの!」
「そう言えば、ゼルフは壊れてしまったんだったな! 今行くよ!」
オリヴァンはセリュオスたちに会釈してから、ルキシアナのもとへ駆けて行った。
もちろん、その後にゼルフを壊してしまった張本人であるセリュオスも手伝わされることになるのは言うまでもなかった。
翌日。
賑やかな中層の祭りが始まりを告げることになった。
なぜかセリュオスとエレージアは二人で肩を並べながら、街を歩いていた。
すると、隣にいたエレージアが口を開く。
「ねえ、セリュオス。こうやって、少しだけデート気分で歩くのも悪くないわね」
エレージアは、セリュオスの腕に軽く触れながら楽しげに言った。
セリュオスは一瞬目を丸くしたが、すぐに肩を竦める。
「……お前、魔王だろ……。勇者と一緒に歩いているのにデートって、熱でもあるのか? そもそも半霊体の状態で風邪ひくのか?」
「祭りの時くらい、魔王であることを忘れたっていいじゃない……セリュオスの、いじわる……」
少し拗ねたような表情を見せるエレージアだったが、祭りの熱に浮かされているのか、その顔はすぐに柔らかくなる。
たまにエレージアに胸がときめいてしまう自分がいることは胸の内に秘めておこう。
口に出してしまえば、揶揄われてしまうに違いない。
さすがに、エレージアとの距離が近いとは思っているのだが、引き離そうとしてもすぐに近づいてきてしまうので、これはもう仕方がなかった。
ひとしきり歩き回った後、二人が中央広場にやって来ると、子どもたちが発明品や出し物を眺めて歓声を上げ、大人たちも興味深げにそれを見守っていた。
その中心にいるのは、ルキシアナとオリヴァンで間違いない。
ルキシアナの目は輝き、オリヴァンもまたその横で微笑んでいる。
二人の競争心が祭りの賑わいに火をつけていた。
セリュオスとエレージアは少し離れた場所で立ち止まり、街の景色を見渡す。
「……祭りって、こんなに楽しいものだったんだな」
セリュオスが知っている祭りは、リオネルディアの村でおこなわれる小さなものだけだ。
子どもたちがはしゃぐというよりは、伝統的な祈りの場であったため、賑やかという表現とはかけ離れたものだった。
「そうよ。人々が喜びと感謝を形にするだけじゃなくて、大人も子どもも関係なく、素直に祭りを楽しむの。……それに、私たちも巻き込まれているけどね」
エレージアは楽しそうに微笑み、セリュオスはその隣で少し照れながらも、静かに頷いた。
(そうやって無邪気に笑っていれば、魔王なんて思わずに済むのにな……)
セリュオスは彼女の隣で歩きながら、心の中で呟いた。
少しだけ微笑み、セリュオスは目を細める。
その目には、魔王と戦わなければいけないという使命よりも、今この瞬間の輝きと穏やかさだけが映っていた――。
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