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時空勇者 ~過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました~  作者: 白浪まだら
第1章「地下世界ネクロラド〜中層編〜」
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第33話「発明家と勇者」

本職もあるため、更新遅めです……。

ご了承くださいませ<(_ _)>

 食後の空気が少し落ち着いた頃、セリュオスは意を決して口を開いた。

「……なあ、ルキシアナ。さっきから気になってたんだけどさ……なんでジアに対して、あんなに興味を持ったんだ?」

 ルキシアナは椅子に腰かけたまま、真剣な表情でセリュオスの顔を見た。


「理由なんて、一つしかないわ。――半霊体なんて存在、ウチの技術でも魔法でも説明できるものじゃない。もしその構造を解明することができたら……魔王を打倒する術だって、見つけられるかもしれないって思っただけよ……」

 彼女はぎゅっと拳を握る。


「ウチは外に出たい! でも、その夢は魔王がいる限り達成できないの……。唯一の希望だった勇者も死んでしまって。残されたウチらが奇跡を起こすには、何でも(すが)っていくしか、ないでしょ……」

 ルキシアナの声が震えていた。

 自分の無力さを()みしめるように、唇を噛んで悔しがっている。


 天才発明家でさえも魔王に抗えないという事実にセリュオスは胸を刺される想いだった。

「……ルキシ、アナ……」


 セリュオスは気づかぬうちに、自身の左手を握り締めていた。

 魔王を倒したいという彼女の想いが強く心に刻まれたのだ。

 すると、その時――。


 左手の甲に刻まれた紋章がはっきりと光を放った。

 彼女の強い想いに、紋章が反応したのだ。

 最初はただ(まぶ)しそうにしていたルキシアナだったが、やがてその目を見開いた。


「……それ……!!」

 彼女は椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がり、セリュオスの手をがしっと掴んだ。


(うそ)でしょ……! この光……勇者の紋章じゃない! なんで!?」

 セリュオスは動揺し、慌てて手を引こうとする。

 だが、ルキシアナの手は意外に力強く、離してくれなかった。


「待て、ルキシアナ。落ち着いてくれ!」

「落ち着けるわけがないでしょ! 勇者は魔王に殺されたはずなのに……ウチの前に現れた、アンタが……勇者……?」

 ルキシアナの瞳はその事実が信じられないという想いと僅かな希望によって揺れていた。


「……本当に……アンタが、勇者なの?」

 部屋に一瞬、静寂が落ちる。

 セリュオスは言葉を探しながら、しかし隠しきれない真実の光をその手に抱いていた。

 それから、少し照れたようにセリュオスは肩を(すく)める。


「まあ、そういうことになるな……。ジアの視線が怖いから、その手を離してくれないか?」

 エレージアの視線が(つな)がれた二人の手だけに注がれている。

 彼女はひたすら、その一点だけを見つめていた。


「私はルキシアナがセリュオスの手を握っていたところで何も気にしてなんかいないけど? そんなに女児が好きなら、いつまでも手を繋いでいればいいんじゃない?」

「いや、めちゃくちゃ気にしてるだろ……」

 そんなこと全く気づいていないルキシアナはセリュオスの手をパッと離すと、両手を打ち鳴らして跳ねるように喜んでいた。


「やったわ! つまり、新たな勇者が生まれたってことでしょ! こんなにワクワクしたのは、寝起きで新しい発明品のアイディアが思いついた日以来だわ!」

 彼女のワクワク度合いの基準はセリュオスにはわからなかった。

 ルキシアナは興奮冷めやらぬまま、セリュオスの前にぴょんと飛び出した。


「ねえ、お願いっ! アンタに手伝ってほしいことがあるの! 魔王を倒すための――究極の発明品を完成させたいのよ!」

 それを聞いて、セリュオスは眉を(ひそ)めた。


「……手伝うって言われても……。俺にはどんな利点があるんだ?」

 ルキシアナは少し考えるために(うつむ)いたが、すぐに瞳を輝かせた。


「利点? ふん、そんなのありありのありに決まってるでしょ! 魔王を倒せば、この世界から恐怖がなくなって、平和が訪れる。それに――アンタだって外の世界に出たいでしょ!? っていうか、勇者なのに魔王を倒すことに迷ってるとか言わないよね!?」


 セリュオスは腕を組み、まだ少し慎重な表情を見せる。

 どうしても気がかりなのはエレージアのことだった。

 本当に自分は魔王を倒すべきなのか、たまに疑問に思う時があるのだ。


「……外の世界か。それは確かに魅力的かもしれないが、もっと俺に魅力的な提案はないのか?」

 ルキシアナは悔しそうに唇を噛みながらも、次の言葉を吐き出す。


「アンタは勇者なんだから、そんなこと考えなくていいの! 勇者は人々に平和な世界を(もたら)してくれる存在なんでしょ! 魔王がその秩序を壊してる元凶なんだから、打ち倒さないでどうするの!」


 必死に語り掛けるルキシアナの想いがセリュオスに流れ込んでくる。

 どうして試すようなことを言ったのかというと、彼女の中で研究をしたいという感情と平和を望む感情のどちらが強いのか、知りたくなったのだ。


「それに、ウチはアンタが勇者とわかっただけで、もう信じられないくらい胸が高鳴ってるのよ! 一緒に作れば、きっと魔王だって倒せるような発明品ができるんだって!」


 無邪気に喜ぶ彼女の姿を見て、セリュオスは少し微笑む。

 ゼルフを破壊したお()びも兼ねて、彼女の研究を手伝わないという選択肢は最初からなかった。


「……悪かった。少しルキシアナの覚悟を試したかったんだ。ルキシアナのためじゃなくて、世界のためになら、俺は協力すると約束しよう」

 すると、彼女はさらに嬉しそうに飛び跳ね、机の上の装置を抱きしめた。


「やったわ! これで研究は一気に加速する! すぐに完成させてやるからね! 勇者と天才発明家の史上最強コンビ結成よ!」


 ご機嫌のルキシアナに対して、セリュオスはあまり素直に喜ぶことはできなかった。

 そもそも、セリュオスをここに連れて来たのはエレージアだ。


 魔王であるはずの彼女が、勇者と手を組みそうな天才発明家の家に案内したのか、全く理解することができずにセリュオスは一人で悶々(もんもん)としていた。


 そして翌朝、研究室に柔らかい光が差し込む。

 セリュオスとエレージアは、昨日の料理の残り物に少し手間を加えた料理を味わいながら、ルキシアナが熱心に設計図を広げている様子を見守っていた。


「んふ……やっぱりウチは天才ね。魔王討伐用の秘密兵器も、勇者の力を使って改良すればさらに威力を増すことができる……ぐひゃひゃっ……」


 ルキシアナは机に置いた装置の部品を指でなぞり、満足そうにというか、むしろ不気味な笑みを浮かべていた。

 その時、研究室の入り口の方から来客を知らせる音が鳴る。

 だが、彼女は気づいていないようだった。


「ルキシアナ! 呼ばれたぞ!」

「聞こえていないわね」


 セリュオスの声も彼女には届かなかったので、代わりに入り口に向かって扉を開けると、そこには黒いコートに身を包んだ青年が立っていた。

 髪は綺麗に整えられており、その目は好奇心と自信に満ちている。


「誰だ、アンタ?」

「来客中でしたか、失礼しました。私はオリヴァンと申します。中にルキシアナ・ヴェルトライトはいますか?」


「俺はセリュオスだ。ルキシアナなら、研究に没頭しているよ」

「はあ……」

 オリヴァンと名乗った男は深い溜息(ためいき)をつきながら、研究室に足を踏み入れた。


「ルキシアナ! いったい君は何をしているんだ!」

 研究室に入って早々、オリヴァンが大声を上げる。

 さすがのルキシアナでも、その声は聞こえたらしく、こちらを振り返った。


「……? オリヴァンじゃない? 今日は何しに来たの? また発明勝負?」

「何しに来たの、じゃないだろう! 今日から中層の祭りの準備を始めると伝えていたじゃないか! 君の発明品も祭りで披露することになるから、早く来てもらわないと困る!」

 ルキシアナは目を丸くしながら、ポツンと立っている。


「祭り……? 準備……? いきなり来て呼び出そうなんて、何考えてるのよ!」

「違う、いきなりじゃない。忘れていたのは君のほうだ。私は何度も何度も何度も、日付を伝えていた! 日付表にも書いてあるだろう。祭りを成功させるには君の協力が、必要不可欠なんだ!」

 エレージアはセリュオスの肩越しに、二人の様子を冷静に観察していた。


「……この場は、ルキシアナを祭りに参加させたほうがいいんじゃない? たぶん、あの子が忘れていただけだろうし、中層一の発明家が参加しないと、祭りもあまり盛り上がらないんじゃないかしら?」

 エレージアの言葉を聞いて確かにと納得したセリュオスは、ルキシアナの肩を軽く(たた)くことにした。


「……祭りって、なんだか楽しそうな響きじゃないか? そこにルキシアナの発明品の出るとなれば、一大イベントになるだろうな?」

 ルキシアナは少しムッとした表情を見せながらも、次第にその目を輝かせた。


「むむむ……。つまり、天才が天才であることを証明するための舞台・オリヴァンとの発明大勝負ができるってことね。それなら、行くしかないじゃない!」


 それを聞いたオリヴァンはにやりと笑った。

「さあ、時間はあまりないぞ。君の手腕を見せてもらおうか、ルキシアナ!」


 セリュオスは彼らの関係性を微笑ましく眺めながら、祭りという響きに胸を躍らせていた。

 魔王討伐前の息抜きにもなるだろうか。


 だが、ルキシアナは軽く拳を握り、机の装置に目をやった。

「あ、でも、魔王が逃げちゃったら、どうしよう……?」


「いやいや、魔王は逃げるもんじゃないだろう……。むしろ、祭りのほうが逃げてしまう」

「まあ、確かに……? よーし、負けないわよ、オリヴァン!」


 こうして、三人の前に現れたルキシアナの知人らしき男が、新たな風を吹き込むことになるのだった――。

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