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第1話:鍵を開けたのは誰?

「ここにしかないのよ。本当の記録が──」


セシリア=マルグリットは、深夜の城の地下、静まり返った記録保管室の前に立っていた。

蝋燭の火が揺れ、真鍮の扉に影を落とす。扉には「極秘記録保管庫」の文字。裁判所と王宮の許可なしでは誰も入れないはずの場所。


だがその扉には、見覚えのある傷があった。鍵穴の縁が削れ、無理やりこじ開けられた痕跡。


「……誰かが、既に入っていた?」


記録保管室の扉は厳重な魔法鍵で守られていた。裁判記録、貴族の密約書、そして断罪された者たちの真実がここに眠っている。


彼女は手にした銀の鍵を握り締めた。それは、かつて王宮に仕えていた女官長から密かに託されたものだった。


(記録は書き換えられていた。私を悪役に仕立てるために)


「確かにここに、“あの日の裁判記録”の原本があるはず──」


蝋燭を手に、扉をそっと押し開ける。


ぎ……という金属音の奥に広がっていたのは、無数の棚と羊皮紙の匂い。

そして、その中央。床に散乱した記録の束と、倒れた本棚。


「誰か来てる……!」


咄嗟に身を伏せた瞬間、闇の奥で微かに動く影があった。

足音。遠ざかる音。追うべきか迷うが、今は記録が優先だ。


「これよ……第三裁判期の“検閲前記録”。」


そこに記されていたのは、まったく別の証言だった。


──“王太子殿下は事件当夜、現場に不在であった”

──“第一目撃者とされた侯爵令嬢は証言を翻している”


「やっぱり……証言は偽造されていた」


彼女の処刑を導いた最初の証言が、実際には却下されていた──それなのに、なぜ公式には採用されたままなのか。


「これは……誰かが意図的に“記録”を捻じ曲げた」


彼女は震える手で原本を抱え、保管室を出ようとした──その瞬間。


「何をしている、マルグリット令嬢?」


冷たい声が背後から響いた。


振り返ると、そこには淡く魔力の灯を揺らす男の姿。蒼い軍服を纏い、王室監察官の紋章をつけた青年が立っていた。


「エドモンド……=クロード?」


「記録庫に侵入した罪は重いぞ。たとえ“死んだはずの令嬢”であってもな」


だがその瞳は、どこか哀しみを含んでいた。

彼は知っていた。何かを──それでも口には出せず、彼女の前に立ちはだかる。


「君が暴こうとしている真実は、誰かの命を踏み台にしているかもしれない。それでも、なお進むつもりか?」


セシリアはその問いに、ゆっくりと答えた。


「私は……この手で、自分の“冤罪”を正すわ。誰の許しもいらない。これは、私の生き直しなのだから──」

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