表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

第5話:誰が嘘をついたのか:証言矛盾と密室の謎

 禁書庫の記録は、すべてを物語っていた。


 王妃毒殺未遂は、第五王子派による政治的暗殺。

 私はその計画の“濡れ衣”を着せられ、処刑された。


 それが、記録に刻まれた事実。


 そしていま。

 私は、その禁書庫からの逃走中だった。


 漆黒の王宮回廊を、靴音を殺して駆ける。


 衛兵の足音は追ってくるが、彼らは私の顔をまだ確認していない。

 私は姿を見せずに抜ける道を選び、裏階段から厨房脇の通路へと滑り込んだ。


「──セラス!」


 詰所前で待ち構えていた影が、私を認めて素早く扉を開けた。


「……まったく、いつか捕まるぞ。何があった?」


「これを。禁書庫で見つけたわ」


 私は濡れた外套を脱ぎ捨て、記録帳をセラスの前に叩きつけた。

 彼はそれを無言で受け取り、ページをめくるごとに目を細めていった。


「……“王妃暗殺計画書”。証拠も人事操作もすべて網羅されてる……」


「それだけじゃない。次に見なきゃいけないのは、“証言の矛盾”よ」


「矛盾?」


 私は静かにうなずく。


「私の断罪を決定づけた証言……それをしたのは、リード・クロイス男爵。

 でも彼は、“事件のとき厨房にいた”と証言した。──そこにおかしな点があるの」


「厨房は、事件当日“封鎖”されていたはずだ」


「ええ。王妃が倒れた“直後”、毒物混入を疑われて厨房は封鎖された。

 なのに、リードはなぜか“直後に厨房で、私が怪しい動きをしていた”と証言したの」


「つまり、彼が厨房に入れたこと自体がおかしい……?」


「いいえ、それだけじゃない。“そもそも誰も入れないはずの密室”だったのよ。

 厨房の出入りは記録される。火の管理も、衛生も厳しいから。

 その中で“外部の人間が自由に出入りしていた”というのは、明らかに不自然」


 セラスは記録帳に目を戻し、唸るように言った。


「……だとすると、彼の“厨房目撃証言”は捏造か、あるいは誰かに言わされた」


「禁書庫の記録によれば、リードは“記録改ざん”の命令者よ。つまり、犯人側の人間」


「となると、やはり重要なのは“密室そのものの成立条件”か」


「ええ。密室が成立していたなら、外部から毒を入れる手段はなかったはず。

 でも、実際に毒は入っていた。ならば……」


 私は、手元のノートに一つの図を描く。


 ──【事件時の厨房の構造図】──

 ・出入口1(正面扉)→ 封鎖済み

 ・出入口2(裏搬入口)→ 鍵で封印

 ・換気口(天井)→ 使用人では届かない高さ

 ・ゴミ排出用扉→ 開けるには内鍵が必要


「この密室に、唯一外部とつながる“穴”があったとしたら……?」


「まさか、材料搬入口か?」


「いいえ。盲点だったのは、“記録”。材料の納入記録は“事件当日”にもあった。

 それも、【粉砂糖】と【香料】。そして、搬入者の名前が“記されていない”」


 セラスが目を見開く。


「匿名搬入……?」


「正確には、“記録担当者の署名が空欄”。つまり、記録そのものが抜かれていた。

 毒はその材料に“混入されていた”。そして搬入は“密室の中”で完了する」


「……その場にメアリがいた」


「そう。彼女は“手渡された材料”を使っただけ。

 だけど、その材料を“中に入れた者”がいる。密室で犯行が可能だったのは、【事前に出入り可能な立場にある人物】」


「例えば……厨房長、あるいは衛兵。だが厨房長は病気で寝込んでいたと記録にある」


「記録は偽装可能。──でも、一人だけ、実際に“厨房にいた”と証言していた者がいる。

 “その証言自体が矛盾を生む”人物」


 セラスは言葉を飲み込むように、静かに呟いた。


「……リード・クロイス、か」


 私は筆を走らせ、結論を記す。


【仮説A】リード男爵は厨房に立ち入った形跡がない

【仮説B】にも関わらず、厨房内の状況を詳細に証言した

→ よって、彼の証言は“捏造”か“密室の中にいた共犯”のどちらかである


「……証言で私を断罪しながら、自分が密室の中にいたことは隠した。

 つまり、“毒の混入”を彼自身が行ったか、それを知っていた可能性が高い」


「これで、“事件記録の操作”と“毒の導入経路”、そして“嘘の証言”が全て一本の線で繋がる」


「ええ。証人でありながら、密室の中の動きを知っていた男。

 彼が、“記録”の内側にいた……それが、この事件の核心」


 私は静かにノートを閉じ、つぶやく。


「私を嵌めた犯人の名前が、ついに記録に現れたわ」


 闇の中、わずかに満ちる月明かりが、ノートの表紙を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ