最終話:断罪の庭、再び─書き換えられた運命の記録
断罪の庭。
王都中央広場──13日前と同じ場所、同じ儀式、同じ形式。
だが、今回はすべてが違っていた。
今ここに立つのは、冤罪に沈黙していた“被告”ではない。
記録を辿り、真実を暴き、自らの罪を否定した者──クラリス・ヴェルンシュタインである。
広場に集まった廷臣たちがざわめきを上げるなか、クラリスはゆっくりと壇上に歩を進めた。
その手には、《王妃毒殺未遂》事件の全記録と、王妃が関与した数々の罪の証拠があった。
壇上に立つ審問官は、表情を崩さぬまま言った。
「クラリス・ヴェルンシュタイン。お前は、自らの罪を覆す証拠があると申し出た。よって、この場にて正式に“再断罪審問”を許可する」
クラリスは一礼し、静かに口を開いた。
「まず、第一の証拠です」
彼女が取り出したのは、王宮の記録庫から発見された、調達部門の《毒物搬入記録》であった。
そこには王妃の私印と、調理責任者への“特殊指示”がはっきりと残されていた。
「王妃エカテリーナ陛下の命により、事件の三日前に“無色無臭の鎮静性毒”が宮中厨房へと搬入されています。これが王妃の指示であることは、当該責任者の証言と一致しています」
「偽造だ!」
玉座から声が飛ぶ。王妃エカテリーナが目を見開き、立ち上がった。
「そのような記録、私の許可なく作れるはずがない!」
「ええ。だからこそ──これは“あなた自身が作成させたもの”です」
クラリスは重ねて別の証拠書類を提示した。
それは、《記録訂正室》から回収された“再書換えの痕跡ログ”だった。
「王妃陛下は、事件の直後に、記録魔法を使って複数の事実を“都合の良い形”に上書きしようと試みました。しかし、それらはすべて“訂正履歴”として残っております」
そして──沈黙の中、一人の少女が前へと進み出た。
銀白の髪、蒼い瞳──
「私の名はエルミナ・セヴラン。十三年前、実験記録体『EL-MNA-13』として生み出された、“生きた記録”です」
その瞬間、広場が一気に凍りついた。
「王妃陛下の命により、私は図書院の奥で育てられ、国家機密を記録する“記録体”として生かされました。しかし、私は記録を、そして母を失いたくなかった──」
エルミナが取り出したのは、母である前図書官・ルシアの遺した《非公認未来記録簿》。
そこには、王妃が関与した冤罪捏造、毒の配備、そして“クラリス断罪イベント”すらも予言された形で記録されていた。
「クラリス・ヴェルンシュタインは、罪を犯していません。すべては《王妃主導の冤罪創出》だったのです」
エルミナの朗読と、クラリスの提示する記録は完全に整合していた。
それを検証する魔法証書も、証人の記録もすべて揃っていた。
やがて──審問官が静かに宣言した。
「記録と証言は矛盾なく揃い、王妃による冤罪創出は事実と認定する。これより、王妃エカテリーナに対し、王国法第二章・反逆罪および記録改竄罪により王位剥奪、並びに終身禁固を宣告する」
その場で、王妃は拘束された。
彼女が最後に言った言葉は、ただ一言だった。
「……なぜ、あなたが私の“筋書き”を破れたの……?」
クラリスはその問いに、ただ穏やかに答えた。
「あなたは物語の“読者”で終わった。私は、運命の“書き手”になったのです」
──断罪の広場に、鐘の音が響き渡った。
この物語を最後まで読んでくださり、心より感謝申し上げます。
「悪役令嬢は冤罪でした」は、乙女ゲーム世界というファンタジックな枠組みの中で、推理と論理、そして“記録”というテーマを軸に展開しました。主人公クラリスとエルミナの旅路は、冤罪に抗い、偽りの歴史を暴き、真実を取り戻すための戦いでした。
この作品の肝は、「真実とは何か」「記録とは誰のものか」を問い続けることにあります。歴史や記憶は時に操作されるものですが、それでもそれを正す意志があれば、未来は必ず書き換えられる――そんなメッセージを込めました。
恋愛要素はあえて控えめにし、代わりに心理戦や謎解き、論理の積み重ねを丁寧に描くことで、読者の推理欲を刺激できればと願っています。
最後に、応援してくださったすべての読者様に感謝を。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしております。
ありがとうございました。




